晴風が十二都市を救う話ではない
断橋鎮は、晴風の救援を待たなかった。
総水閘が爆破されたあと、河妖工隊は三年前に灌漑用に直した分流渠を開け、洪峰を空き葭田へ導いた。下城はなお二街が浸かった。水は病院へは入らなかった。
魔導車東線が予備閘板を河岸から三里の位置まで運んだ。
軌道はそこで許可印に鎖されている。
車長はアランを求めなかった。事前計画どおり標準箱を卸し、牛角運搬隊が輪架を掛け、閘板を最後の三里、曳いた。第一枚の閘板が落ちたとき、工員二人が激流に巻かれた。一人は根索に救われ、もう一人は戦後まで下流で見つかった。
反響レンガは一句だけ伝えた。
「断橋鎮、水勢下降、死者一、医師二十を要す」
月泉城がすぐ医師を出した。
自分たちの外壁が砲を受けている最中だ。
石梯堡北井の昇降機は職人が前もって封じ、帝国装甲車は鉱層へ直入できない。廃渣坂を這うしかない。ガルドの徒弟が爆破したのは鉱坑ではない。昔の道路工事で残った砕石倉だ。
二十車の砕石が落ち、装甲車は壊れなかった。履帯は塞がった。
鉱夫は通風道から退き、空井を残す。帝国先鋒は鉱石もなく、昇降機もなく、便所もわざと流していない哨所を占領した。
ガルドは報告を聞き、真面目に頷いた。
「最後の項は焦土原則に合う」
羽民高地がいちばん危険だった。
帝国空艇は黒印投矛を持ち、風路塔へ釘付けすると、塔が現地風向を敵軍へ返す。フィアはすべての塔を強奪しない。羽民に航標を閉じさせ、第三巻で幼龍を訓練したときの手旗と羽哨へ戻した。
近代風路を閉じると、帝国空艇も精密航法を失う。
双方は雲の中で、目を見、風を聞く飛行へ戻った。
羽民のほうが慣れている。
第一艘の空艇が不時着し、第二艘は雲を出た。だが住居塔一座が燃焼矛に当たった。十七戸はすでに避難していた。最後点検の信号員二名は出てこられなかった。
戦争の成功の後ろには、いつも間に合わなかった人間がいる。
僕は晴風炉庁に座り、十二条の帰路を感知していた。
楽な能力ではない。
数万人が動くとき、方向が洪水のように頭へ詰まる。誰が家へ帰り、誰が避難し、誰が負傷者を背負っていちばん近い旅駅を探しているか。炉火は方向だけをくれる。どれがより重要かは、代わりに判断してくれない。
セインが一度、僕を炉辺から引き離した。
「鼻血が出ている」
「拭け」
「領域が制御を失えば、すべての経路が同時に切れる。三十息休め。防衛命令だ」
「いつから僕に命令できる」
「連合防衛条項第九条。戦時、術式人員は現場指揮に属する」
彼は条文まで持ってきた。
僕は三十息横になり、ルミラが枕木のように硬い軍糧を半切れ、口へ押し込んだ。
晴風正面は正午に接敵した。
帝国歩兵は壁へ突っ込まない。許可柱を押し、旧王道に沿って進む。一本立てるたび、周囲の道路が印持ちだけ通れる黒い硬面になる。こちらの騎兵が踏めば見えない壁ではねられ、帝国装甲車は加速できる。
セインは自衛隊を下がらせた。
ゴブリン信号隊が、わざと封じられていないように見える側路を三本残した。帝国車隊がいちばん広い一本を選び、第一巻の獣潮のあと拡幅した排水区へ入った。
河妖が水門を開けた。
道路は流されない。
水が路下の暗渠を通り、両側の土層を柔らかくする。重装甲車はなお進める。後続の許可柱は泥へ沈んだ。牛角盾隊が側面から第一本を押し倒し、冒険者解除隊が飛びかかって印を外す。
帝国弩手が斉射した。
ホークが盾を上げて二矢を防ぎ、三矢目が肩を通った。彼は強がりを続けない。総ギルド規則どおり黄色い負傷線まで退き、隊を副官へ渡した。
「昔なら、このとき軽い傷だと言った」
薬師が鎧を切る。
「いまは」
「保険が嘘を許さない」
第一本の許可柱が撤去され、黒路が三百尺縮んだ。
代価は重傷七人、若い解除員一名の死亡だ。彼は主印の位置を見つけ、術式の反衝範囲から出る暇がなかった。
僕は彼を覚えている。
昨日、旧風笛亭で登録したとき、十六号室が階段に近くてうるさいと嫌がり、二十一号の床敷きへ替えた。
戦報には、名前を一つ書けるだけだ。
午後、魔導車が働き始めた。
東線が閘板と医師を運び、北線が石梯堡から退いた工員を運び、西線が襲撃のない鹿鈴谷から連合軍を晴風へ送る。客車は駅で折り返さない。標準箱をそのまま積み替え、職人が連合尺で作った接続口が、初めて本当に命を節約した。
復路列車はすべて負傷者だ。
旧風笛亭一階はすぐ満室になった。九号室のヴィザー使節は窓のない酒蔵へ自ら移り、物置を火傷の子供二人へ譲った。
「帝国の善意として書くな」と彼は言った。「個人の選択だ」
「宿泊簿は分けて書く」
夕方、十二都市は一座も陥落していない。
一座も無傷ではない。
断橋鎮下城は浸水し、羽民住居塔は焼け、石梯堡北井は失陥し、晴風西壁に缺口が三箇所ある。確認死者四十七、行方不明二十三、重傷は三百を超える。
帝国主砲は、なお一発しか撃っていない。
フィアが風図を見つめた。
「晨鐘が位置を調整している」
黒い砲台が許可道路に沿って向きを変え、もう水閘を狙っていない。
砲口がゆっくり上がり、十二炉共同道路の中心を向いた。
旧風笛亭を向いた。




