一尺はいったいどれだけ長いか
十二都市技術大会の初日、門口に武器棚はなかった。
尺が十二本、置いてあった。
来賓はまず自分の荷物を測らねばならない。同じ箱が石梯堡では四尺、断橋鎮では四尺三寸、松針城では尺を使わない。成木の銀樺の節で長さを計る。
登録係の帝国間者は、その場で尻尾を出した。
正確に言えば、尻尾を出したのは前日だ。セインが靴底に許可印を見つけ、尋問の準備をしたとき、旧風笛亭はフロントが足りなかった。
僕は七日、宿泊登録を先にやらせた。
三日目、彼は自ら接点を自白し、松針城の部屋型説明を登録簿から消してくれと頼んだ。
「あれは部屋型じゃない」と、彼は疲れて言った。「植物の成長史だ」
技術大会は間者より扱いにくい。
石梯堡は自前の鋼尺を基準にしろと主張する。熱膨張がいちばん小さい、と。
断橋鎮は同意しない。河妖の造船は水位で尺度を決める。鋼尺は船渠で錆びる。
羽民高地は翼幅単位の存続を求め、牛角牧場は、羽民の翼幅で門を測れば牛角族は永遠に頭をぶつける、と指摘した。
「統一とは、旧標準を廃てることだ」と月泉城主席匠師。「でなければ車は永遠に走らない」
松針城代表が苗の鉢を抱きしめた。
「お前たちの尺は、樹に整数で育てと命じられない」
僕は互換についての短い話を用意していた。双方が尺を剣のように比べ始めたのを見て、先に飯にすることにした。
旧風笛亭の厨房は技術者三百人に食事を出さねばならない。ボニーが塩壺を十二都市の料理人へ渡し、各自、現地の「一匙」で同じ鍋へ塩を入れた。
七匙目が落ちたとき、ジェリーが井戸から顔を出した。
十二匙目が落ちたとき、そいつは黙って清水桶へ身を浸した。
誰もその鍋を飲めなかった。
ルミラが鍋を会場の中央へ押した。
「これが魔導車よ」
月泉城匠師が一口味わい、ようやく、他人を廃てるのは簡単だ、とは言わなくなった。
争いは三層に分けた。
第一層は、共同線路で必ず揃える接続口。軌間、輪縁、制動圧力、信号色、時刻。
第二層は、現地生産が残していい単位。船渠は水尺のまま、林場は節のまま。ただし軌件の納入時は換算する。
第三層は変換道具と誤差責任。表一枚渡して、字の少ない工員に計算違いの結果を負わせてはならない。
ガルドが「母尺、母分銅、母時計」の製造を出した。
「各都市が一揃い受け取る。半年に一度、校正する。軌間誤差が龍の髭一本を超えたら返品だ」
ベリーがケーキの後ろから顔を上げた。
「なんで私の髭」
「比喩だ」
「料金取る」
フィアが共同時刻を担当する。十二都市はこれまで日の出、水時計、鉱坑交代鐘で暮らしてきた。都市間列車は十二個の太陽を待てない。
彼女は駅塔の頂に風鳴晶の時計を置き、十二炉が毎日正午に共同で時を合わせる。初回の試鳴で、十二都市の鐘声が炉門を通り、同時に旧風笛亭へ飛び込んだ。
宿屋の三階から瓦が二枚落ちた。
アランが壁から震い落ち、苺クリームケーキの真ん中へ真っ直ぐ刺さった。
「これは古代遺物への音波攻撃だ!」
音量を元の八分の一まで下げ、校時信号は駅だけに入れ、客室へは入れないと決めた。
次項は軌間だ。
石梯堡の広軌は安定し、高巣鎮の狭軌は橋材を節約し、断橋鎮は車輪をそのまま艀へ上げたい。誰も既設線を壊したがらない。
フィアが三枚の図のあいだにしゃがみ、突然、茶椀を押し出した。
「軌道を車に合わせない。車を軌道に合わせたら」
ガルドが彼女を睨んだ。
「可変輪軸。高い、遅い、噛みやすい。欠点を三つとも取るのか」
「軌間変換駅は都市境だけに建てる。車が入って持ち上がり、輪軸が内か外へロックする。地方線は残す。共同幹線だけ幅を揃える」
「それでも高い」
「十二都市を壊すより安い」
ガルドは長く黙り、予算紙にルミラが目を閉じる数字を書いた。
先に一組、造った。
初回の変換で、左輪はうまく収まり、右輪は微動だにせず、客車は架台上で斜めになった。起床を拒否する鉄の甲虫のようだ。調べると、潤滑脂が高地の低温で固まっていた。
河妖職人が不凍油に替え、ドワーフが機械錠を足し、牛角工が車上げ架の手回しを長くした。二回目、両側の輪軸は十六息で変換を終えた。
拍手はない。
技術者は全員、腹ばいになって誤差を測った。
誤差はベリーの龍髭、半本。
ベリーは本当に一本抜いて料金を取り、ガルドはケーキ二切れで払った。
大会六日目、『十二都市通行換算冊』が定稿した。
どの都市の尺がいちばん文明的か、とは宣言しない。共同接続口は「連合尺」と記し、地方図面には原単位と換算値を同時に書け、と決めただけだ。誤りは署名した校正係と工房が共同で償う。敷設工へ鍋を押しつけない。
セインが条ごとに読み終えた。
「原則として執行できる。例外条項、百七十二」
「なぜそんなに多い」と僕は聞いた。
「十二都市あるからだ」
第一陣の合格軌件が、修復した試験線へ敷かれた。魔導車が再び出発し、車輪が事故点を越えるとき、駅中に歓声はない。全員が圧力計だけを見ていた。
十二里、安全に到着した。
扉が開くまで、ガルドは槌を下ろさなかった。
祭典ケーキも着いた。
ベリーが自ら護送し、途中で一口も食べていない。着地したあと、彼女は頭を上げ、開通より大きな拍手を受けた。
その日、正式切符の第一枚が旧風笛亭のカウンターで売れた。
行き先は、眠れる巨人の谷。
ガルドが旧測量図を開き、線路中央の、山脈のような輪郭を指した。
「ついでに言っておく」
「前回測ったとき、あの山は寝返りを打っていた」




