↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銅貨一枚で廃駅舎を買っただけなのに、魔物の荒野で国ができてしまった  作者: Karr


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/83

分城はノーと言う

晴風議会は、初めて分城の罰し方を議した。


僕は最後列に座った。


ルミラが三つの提案を壁に貼る。


石梯堡への材料供給を止める。


石梯貨物の道路費を上げる。


炉種を回収し、協力する隣都市へ渡す。


三枚目に署名はなかった。


支持する人間がいちばん多かった。


商業ギルドの代表が、返された風券を叩く。


「共同通貨には信用が要る。今日拒めば、明日は別の都市も拒む。立て替えた糧と鉄はどうする」


ガルドが腕を組んだ。


「材料費二百四十七金貨。それに十二日分の俺の工賃だ」


ルミラが聞いた。


「契約に、風券を受け取れと書いてある?」


「ない。当時はまだ刷っていなかった」


「固定炉門を開けと書いてある?」


「それもない」


「では何を罰する」


広間に低い議論が広がった。


晴風がいちばん多くリスクを負っているのだから、決定権も大きいはずだ、と言う者がいた。


炉門は僕とアランがいなければ開かない。石梯堡は旨味だけ取るな、と言う者もいた。


各都市が各自で時刻を決めたら、共同道路はどう動くのか、と問う者もいた。


どれも本物の問いだ。


僕は立ち上がった。


「石梯堡を見に行く」


「見て、どうする」と商業代表。


「どの案に賛成するか、それから決める」


「自治」の一言で、晴風にすべての焦げ付きを背負わせる資格は僕にない。


「助けた」の一言で、助けを今後の家賃に変える資格もない。


石梯堡の炉門は、固定時刻では開かなかった。


僕たちは二日、貨車に乗った。旧王道から山道へ折れる。


最後の七里は徒歩しかない。


アランは石段が鞘を傷つけると一路文句を言い、フィアは山風を一路記録し、ガルドは未払いの工賃を一路計算した。


九百段まで登ったとき、夜勤の鉱夫が下山してくるのに出会った。


顔はすべて黒灰だ。


若い男が歩きながら石壁に寄り、眠った。隣の人間は起こさない。慣れた手つきで後ろから縄を外し、自分の腰に結んで歩き続ける。


「宿舎はなぜ止まった」と僕は聞いた。


「止まっちゃいない」と鉱夫。「壊してる」


山腹の現場では、晴風設計の第一棟高架宿舎が、すでに半層壊されていた。


ホークは残った部屋へ僕たちを案内した。


ベッドがベッドに接し、各層四十人。風呂場はいちばん下。


「夜勤と日勤が入れ替わって寝る」と彼は言った。「お前たちは隊商宿で設計した。空いたベッドは無駄だと思ったんだろう。だが鉱夫の服には鉱塵がある。濡れた靴は干さねばならない。夜勤が戻るころ日勤が起き出す。誰もまともに眠れない」


ガルドが排気孔を調べた。


「自分でいじれば、梁が不安定になる」


「だから教えてくれ」


「券まで拒んだくせに」


「麓の糧商が認めない。受け取っても、工員の給料が外で使えない」


風券の共同信用は、晴風の帳簿では成立している。


石梯堡の朝食屋の前では、まだだ。


固定炉門も同じだった。


晴風は朝、正午、夕方の三回開けと求める。隊商のためだ。だが石梯の炉庁は山腹にある。隊商が入った瞬間、宿舎へ材料を運ぶ唯一の坂が塞がる。


「あと二十六日待て」とホーク。「夜勤の三百二十人を先に入れる。食堂が火を入れ、兌換所が現地銅貨を出せるようになってから、固定便を受ける」


ガルドは外した梁柱のそばにしゃがみ、しばらく黙っていた。


最後に、一本の支柱を指した。


「ここは壊すな。外へ靴干し廊を足せ。材料は別勘定だ」


「金は」とホーク。


「よく聞けたな」


二人は午後いっぱい言い合った。


結果はこうだ。石梯堡は当初の材料未払いを払う。晴風は誤設計の手戻り費を持つ。宿舎が完成するまで、一日一回の工事門だけ。普通の隊商は受けない。


風券は強制しない。


晴風商業ギルドが麓に兌換所を置き、現地金がいつでも出せるようになってから、屋台が自分で受け取るか決める。


魔導学校も案を変えた。


もともとは十一都市の徒弟を晴風へ集め、炉門術式を学ばせる予定だった。石梯堡は唯一の鉱坑風術師を半年、町から出すことを拒んだ。フィアが教師巡回と単位互換を提案し、各都市は自分の徒弟枠を残す。


「揃えるのは方向記号よ。誰がどこへ飛ぶかは、揃えない」と彼女は言った。


その言葉は、初めて旧風笛亭の裏庭へ落ちてきたときより、ずっと信頼できた。


二十六日後、山腹の宿舎に三百二十の灯がついた。


夜勤の鉱夫は、もう二千七百段を歩いてベッドへ戻らなくていい。


ホークは自分の手で、最初の一枚の風券を食堂の壁に貼った。


下に書いてある。


|使える。釣銭は石梯銅貨。|


晴風へ戻ると、議会は改めて表決した。


三つの処罰案は、すべて否決。


新しい規則が通った。


各都市は晴風の命令を拒否できる。


共同道路は、十二都市が共同で署名した規則だけを執行する。


援助契約には価格、期限、責任を明記する。古い人情で服従を取り立てない。


まだ不満な人間はいる。


商業ギルドの代表が、面と向かって聞いた。


「分城が共同防衛を永久に拒んだら」


「なら、もう共同防衛がある振りはできない。彼らが何を引き受けるか、話し続ける」


「まとまらなかったら」


「署名しない」


楽な答えではない。


相手が拒めると認めることは、欲しい結果が得られないかもしれない、という意味でもある。


その夜、十二都市の道路図が三箇所同時に赤へ転じた。


王国摂政院は「地方秩序の回復」を名目に、王都衛戍軍と三人の領主私兵を動かした。


目標は晴風ではない。


固定開門を拒んだばかりの石梯堡、北方の魚運を握る塩沼港、城壁のない赤陶城だ。


メルヴィン公爵の計算は正確だった。


晴風は、分城に命令できないと認めたばかりだ。


いま彼は見ようとしている。命令せずに、助けられるかどうかを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。