↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銅貨一枚で廃駅舎を買っただけなのに、魔物の荒野で国ができてしまった  作者: Karr


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/83

十一枚の違う発注書

第四の炉は、先に扉を開けなかった。


塩沼港の人間が、先に腐りかけた橋杭を一本送ってきた。


木材を余燼食堂の長机に置くと、塩水が半桶ぶん滴った。


届けに来た港の教師が言った。


「満潮のとき、子供はこの上を踏んで学校へ行く。去年、十一人が落ちた。十一人とも引き上げた。炉種だけ拾いに来たなら、帰りなさい」


ガルドが橋杭を回した。


「石橋に替える」


「塩沼は橋脚を飲み込む」


「高架の木橋だ」


「海風が一年で腐らせる」


フィアが港湾の風図を広げた。


「ドワーフの石脚、羽民の吊索、橋面は交換できる板。満潮のときは小舟にも道を開ける」


「いくらか」と僕は聞いた。


三人から三つの数字が出た。


いちばん安くても、余燼食堂が二年分の豆を買える額だった。


塩沼港は晴風の施しを受けない。五年分の魚干し納品と港の倉位置で払う。条件は、橋を現地の学校のものにすること。道路管理局のものにはしない。


橋が三日目まで進んだとき、旧塔に隠れていた炉種が灯った。


塩沼港の住民が開門を議決したあと、僕は初めて別の分火都市の領域に入った。


海風、潮溝、緩んだ橋板の一枚一枚が、同時に感知へ入る。フィアは僕の方向を借りて吊索を安定させ、ガルドの構造経験が橋脚の荷重を見せてくれた。


都市領域は、海面を一太刀で斬らせてはくれなかった。


子供が躓く七枚目の板を、正確に見つけさせた。


それから一ヶ月、炉種が一枚ずつ目覚めた。


各都市が送ってきたのは、忠誠の誓いでない。


発注書だった。


白礫井城は空の水桶を一つ送ってきた。


石はある。職人もある。ないのは安定した水源だけだ。住民は先に炉庁を建てることに反対し、予算を三基の貯水池に回せと主張した。初回の試水で、池底のひびから水が三寸しか残らなかった。ジェリーが漏水止めに呼ばれ、戻ってきたときには青い水槽になっていた。


そいつは旧風笛亭で、半日かけて砕石を吐き出した。


鹿鈴谷は、寸法の違う床脚を二本送ってきた。


牧民は冬に城内へ移る。牛角族は旧屋に入れず、羽民は新しい軒が低すぎると嫌う。ガルドが一律拡幅を提案し、現地の木工に「すべての足に同じ靴を履かせるのか」と罵られた。


最後に揃えたのは梁間隔と防火壁だけだ。部屋の高さは住人が自分で選ぶ。


高巣鎮の代表は、高所恐怖の羽民だった。


彼女は地上の貨栈を要求した。


「飛べることは、小麦粉まで崖の上に住めという意味じゃない」


フィアは三層の空中泊位を描いていたが、二層を消し、坂道を足した。最初の龍運貨物が着地したあと、高巣の人間が先に運び込んだのは贅沢品ではない。岩壁に縛らなくていい普通のベッド、六十台だった。


銅湾は臭い魚を一籠持ってきた。


氷室が要る。王都冷蔵ギルドの高額術式は受けない。河民が水循環を担当し、ドワーフが断熱扉を作り、ベリーが点火して煉瓦を焼いた。


彼女は魚を二匹盗んだ。


それから龍息で証明した。冷蔵工事がいちばん防ぐべきなのは熱源だと。


松針城は倉庫を欲しがらない。


先に診療所だ。


伐採事故で毎月誰かが怪我をする。いちばん近い病院まで山道を四日歩く。北境病院が薬師を送ったが、現地議会は旧薬局を他所者に渡すことを拒み、双方は薬品台帳で夜中まで揉めた。


最後に共同当直を置いた。常用薬は現地の薬師、手術は北境の医師。帳簿は待合に置き、誰でも見られる。


断橋鎮は、その名のとおりだった。


両岸は、橋代を先に出すかで二十年争ってきた。炉種は、わざわざ河心の橋脚に埋まっていた。


彼らは僕に裁定を頼んだ。


僕は断った。


すると両岸はまた三日言い合い、結局、橋面を二段に分けて各自が直した。合龍のとき高さは半尺ずれ、真ん中に坂を足すしかなかった。


醜い。


だが歩ける。


月泉城にはいちばんいい泉水がある。大衆食堂がない。


貴族浴場が一日に燃やす薪は、貧民区で三百鍋のスープが煮られる量だ。現地住民は、公共の泉井戸を二眼開放することを条件に、浴場の営業継続を認めた。


双方は寸前まで殴り合いになった。止めたのは僕ではない。薪運びが、共用竈を直さないなら集団ストライキだと宣言したからだ。


第十一の炉は、公共竈のそばで灯った。


最後が石梯堡だ。


鉱坑は山を登っていく。家屋はすべて麓に詰まっている。鉱夫は毎日二千七百段の石段を登って飯場へ戻り、夜勤の人間は途中でよく眠る。


彼らが欲しいのは、より速い炉門ではない。


山腹の宿舎、湯、夜中に止まらない食堂だ。


晴風の職人が手伝いに行き、現地議会に現場の外へ止められた。


「図面は渡せる」と石梯の議長ホークが言った。「現場監督はこちらの人間を使う」


「そっちの人間は高架宿舎を建てたことがない」とガルド。


「なら教えろ。代わりにやるな」


ガルドは髭が結ぶほど怒ったが、それでも十二日残って教えた。


ここまでで、十一箇所の分火地がすべて点火した。


王都南区は薪橋自治城区として登録され、廃陶窯は旧名の赤陶城に戻った。塩沼港、白礫井、鹿鈴谷、高巣鎮、銅湾、松針城、断橋鎮、月泉城、石梯堡を足して、ちょうど十一座。


晴風は総督を一人も出していない。


出したのは、道路工、医者、会計、教師、そして揺れるたびに「もっと遅く」と叫ぶ煉瓦の大袋だ。


都市が増えれば、面倒も門をくぐる。


十二種類の貨幣換算が、一日に三度変わる。隊商が塩沼港から鹿鈴谷まで行くだけで、両替で一割損をする。


商業ギルドが共同兌換券を出した。


各都市の通貨を置き換えない。十二都市の穀倉、工房、税で共同に支払う。表には同じ大きさの火が十二団。裏は空けておき、各都市が自分の検収印を押す。


第一陣の「風券」が薪橋に届いたとき、マーサは先に十袋の豆を買った。


銅湾に届いたとき、魚屋が一噛みした。


石梯堡に届いたとき、封を切らずに返された。


同じ返送に、晴風道路処が各都市へ出した通知も入っていた。冬前に固定の糧運炉門を開け、と。


ホークは通知の下に、まっすぐ書いた。


|石梯堡は執行を拒否する。|


|宿舎が完成するまで、隊商は受けない。風券も受け取らない。晴風の時刻で開門もしない。|


ガルドは読み終えて、机を叩いた。


「図面を渡し、職人を教え、材料まで立て替えたぞ!」


製造ギルドは、以後の援助停止を求めた。


商業ギルドは、石梯堡の炉門枠を取り消せと言った。


晴風議会で、初めて誰かがこう言った。


「分火はこちらが取り戻した。なぜ言うことを聞かない」


十二団の炉火は、すべて灯っている。


いちばん恐れていた問題も、ようやく門から入ってきた。


晴風は、新しい王都になるのか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。