十一枚の違う発注書
第四の炉は、先に扉を開けなかった。
塩沼港の人間が、先に腐りかけた橋杭を一本送ってきた。
木材を余燼食堂の長机に置くと、塩水が半桶ぶん滴った。
届けに来た港の教師が言った。
「満潮のとき、子供はこの上を踏んで学校へ行く。去年、十一人が落ちた。十一人とも引き上げた。炉種だけ拾いに来たなら、帰りなさい」
ガルドが橋杭を回した。
「石橋に替える」
「塩沼は橋脚を飲み込む」
「高架の木橋だ」
「海風が一年で腐らせる」
フィアが港湾の風図を広げた。
「ドワーフの石脚、羽民の吊索、橋面は交換できる板。満潮のときは小舟にも道を開ける」
「いくらか」と僕は聞いた。
三人から三つの数字が出た。
いちばん安くても、余燼食堂が二年分の豆を買える額だった。
塩沼港は晴風の施しを受けない。五年分の魚干し納品と港の倉位置で払う。条件は、橋を現地の学校のものにすること。道路管理局のものにはしない。
橋が三日目まで進んだとき、旧塔に隠れていた炉種が灯った。
塩沼港の住民が開門を議決したあと、僕は初めて別の分火都市の領域に入った。
海風、潮溝、緩んだ橋板の一枚一枚が、同時に感知へ入る。フィアは僕の方向を借りて吊索を安定させ、ガルドの構造経験が橋脚の荷重を見せてくれた。
都市領域は、海面を一太刀で斬らせてはくれなかった。
子供が躓く七枚目の板を、正確に見つけさせた。
それから一ヶ月、炉種が一枚ずつ目覚めた。
各都市が送ってきたのは、忠誠の誓いでない。
発注書だった。
白礫井城は空の水桶を一つ送ってきた。
石はある。職人もある。ないのは安定した水源だけだ。住民は先に炉庁を建てることに反対し、予算を三基の貯水池に回せと主張した。初回の試水で、池底のひびから水が三寸しか残らなかった。ジェリーが漏水止めに呼ばれ、戻ってきたときには青い水槽になっていた。
そいつは旧風笛亭で、半日かけて砕石を吐き出した。
鹿鈴谷は、寸法の違う床脚を二本送ってきた。
牧民は冬に城内へ移る。牛角族は旧屋に入れず、羽民は新しい軒が低すぎると嫌う。ガルドが一律拡幅を提案し、現地の木工に「すべての足に同じ靴を履かせるのか」と罵られた。
最後に揃えたのは梁間隔と防火壁だけだ。部屋の高さは住人が自分で選ぶ。
高巣鎮の代表は、高所恐怖の羽民だった。
彼女は地上の貨栈を要求した。
「飛べることは、小麦粉まで崖の上に住めという意味じゃない」
フィアは三層の空中泊位を描いていたが、二層を消し、坂道を足した。最初の龍運貨物が着地したあと、高巣の人間が先に運び込んだのは贅沢品ではない。岩壁に縛らなくていい普通のベッド、六十台だった。
銅湾は臭い魚を一籠持ってきた。
氷室が要る。王都冷蔵ギルドの高額術式は受けない。河民が水循環を担当し、ドワーフが断熱扉を作り、ベリーが点火して煉瓦を焼いた。
彼女は魚を二匹盗んだ。
それから龍息で証明した。冷蔵工事がいちばん防ぐべきなのは熱源だと。
松針城は倉庫を欲しがらない。
先に診療所だ。
伐採事故で毎月誰かが怪我をする。いちばん近い病院まで山道を四日歩く。北境病院が薬師を送ったが、現地議会は旧薬局を他所者に渡すことを拒み、双方は薬品台帳で夜中まで揉めた。
最後に共同当直を置いた。常用薬は現地の薬師、手術は北境の医師。帳簿は待合に置き、誰でも見られる。
断橋鎮は、その名のとおりだった。
両岸は、橋代を先に出すかで二十年争ってきた。炉種は、わざわざ河心の橋脚に埋まっていた。
彼らは僕に裁定を頼んだ。
僕は断った。
すると両岸はまた三日言い合い、結局、橋面を二段に分けて各自が直した。合龍のとき高さは半尺ずれ、真ん中に坂を足すしかなかった。
醜い。
だが歩ける。
月泉城にはいちばんいい泉水がある。大衆食堂がない。
貴族浴場が一日に燃やす薪は、貧民区で三百鍋のスープが煮られる量だ。現地住民は、公共の泉井戸を二眼開放することを条件に、浴場の営業継続を認めた。
双方は寸前まで殴り合いになった。止めたのは僕ではない。薪運びが、共用竈を直さないなら集団ストライキだと宣言したからだ。
第十一の炉は、公共竈のそばで灯った。
最後が石梯堡だ。
鉱坑は山を登っていく。家屋はすべて麓に詰まっている。鉱夫は毎日二千七百段の石段を登って飯場へ戻り、夜勤の人間は途中でよく眠る。
彼らが欲しいのは、より速い炉門ではない。
山腹の宿舎、湯、夜中に止まらない食堂だ。
晴風の職人が手伝いに行き、現地議会に現場の外へ止められた。
「図面は渡せる」と石梯の議長ホークが言った。「現場監督はこちらの人間を使う」
「そっちの人間は高架宿舎を建てたことがない」とガルド。
「なら教えろ。代わりにやるな」
ガルドは髭が結ぶほど怒ったが、それでも十二日残って教えた。
ここまでで、十一箇所の分火地がすべて点火した。
王都南区は薪橋自治城区として登録され、廃陶窯は旧名の赤陶城に戻った。塩沼港、白礫井、鹿鈴谷、高巣鎮、銅湾、松針城、断橋鎮、月泉城、石梯堡を足して、ちょうど十一座。
晴風は総督を一人も出していない。
出したのは、道路工、医者、会計、教師、そして揺れるたびに「もっと遅く」と叫ぶ煉瓦の大袋だ。
都市が増えれば、面倒も門をくぐる。
十二種類の貨幣換算が、一日に三度変わる。隊商が塩沼港から鹿鈴谷まで行くだけで、両替で一割損をする。
商業ギルドが共同兌換券を出した。
各都市の通貨を置き換えない。十二都市の穀倉、工房、税で共同に支払う。表には同じ大きさの火が十二団。裏は空けておき、各都市が自分の検収印を押す。
第一陣の「風券」が薪橋に届いたとき、マーサは先に十袋の豆を買った。
銅湾に届いたとき、魚屋が一噛みした。
石梯堡に届いたとき、封を切らずに返された。
同じ返送に、晴風道路処が各都市へ出した通知も入っていた。冬前に固定の糧運炉門を開け、と。
ホークは通知の下に、まっすぐ書いた。
|石梯堡は執行を拒否する。|
|宿舎が完成するまで、隊商は受けない。風券も受け取らない。晴風の時刻で開門もしない。|
ガルドは読み終えて、机を叩いた。
「図面を渡し、職人を教え、材料まで立て替えたぞ!」
製造ギルドは、以後の援助停止を求めた。
商業ギルドは、石梯堡の炉門枠を取り消せと言った。
晴風議会で、初めて誰かがこう言った。
「分火はこちらが取り戻した。なぜ言うことを聞かない」
十二団の炉火は、すべて灯っている。
いちばん恐れていた問題も、ようやく門から入ってきた。
晴風は、新しい王都になるのか。




