晴風が全員を助けに行く話ではない
摂政院軍は未明、赤陶城へ入った。
攻城ではない。
もともと城壁がない。
兵は陶窯、食堂、井戸三口を封じ、炉火は王国が接収すると宣言した。二百戸あまりの住民は、日没までに東坂の仮営へ移れと命じられた。
営地には柵がある。
厨房はない。便所もない。
タオルの救援状は、三事だけ書いてあった。
|水が要る。|
|ベッドが三百台要る。|
|晴風の出兵は求めない。|
同時刻、塩沼港の高架橋が領主私兵に占領された。
石梯堡の麓の糧道も断たれた。
晴風防衛庁は人で溢れた。
セインが軍勢図を壁に釘で打つ。
「七盟連合軍がいちばん早く着くのは二日後だ。炉門から武装人員を直接入れるなら、三都市議会の個別許可が要る」
「赤陶議会は捕まった」と言う者がいた。
「なら代わりに同意できない」
「手続きを待っていたら、人は全部追い出される!」
アランが腰で鳴るように震えた。
十二炉が道路を成せば、僕はどの分火の都市領域にも入れる。
無理に門を斬ることも試せる。
だが一度無理に開けば、炉門の双方同意は、何事もないときにだけ美しい言葉になる。
「まず、何が要るか聞け」と僕は言った。
「手紙に書いてある」
「なら水とベッドを送れ」
最初の一枚の門を開けたのは、晴風ではない。
白礫井城と赤陶城の隣り合う炉線が、同時に灯った。
赤陶議会は捕まった。だが住民は以前、災害避難の権限を通していた。断水が六時間を超えれば、契約したどの都市へも補給門を開けられる。
白礫井の新しい貯水池三基が閘門を開く。
水車が一台また一台、赤陶へ入った。
王国兵が車を押さえようとすると、御者が給水条項を桶に貼った。
「押さえるならいい。先に署名しろ。東坂営地の断水はお前の責任だと」
士官は署名しなかった。
二枚目の門は鹿鈴谷が開けた。
冬の牧民が使う分解ベッド板を赤陶へ送る。牛角の木工が車に乗って門を越え、東坂で二時間のうちに第一列の高架寝台を組んだ。
三枚目の門は月泉城からだ。
送ってきたのは戦士ではない。
公共竈四基、厨工八人、三日分の麦粉。
余燼食堂がそのあと豆を足した。
マーサが袋に書いた。
|先に煮ろ。帰属はあとだ。|
晴風がまだ開門していないうちに、赤陶の営地には水、ベッド、熱い飯があった。
摂政院は移転で炉火範囲を空にしようとした。
だが住民は東坂で一緒に飯を食い、一夜を過ごし、翌日も窯を直しに戻ると決めた。
第三の炉は消えなかった。
都市領域は、かえって営地まで広がった。
塩沼港に要るのはベッドではない。
満潮橋を守ることだ。
私兵は橋頭の倉庫を占領し、魚干しも校舎も領主資産に列した。港議会は武装援軍の入門を許さない。高巣鎮の羽民郵便隊は認めた。
羽民は海上から飛び込み、断橋鎮の新しい橋索を運んできた。
銅湾の漁船が浅潮溝から私兵の背後へ回る。武器は持たない。空の魚籠だ。
倉庫の魚干しを、一籠また一籠運び出した。
領主軍は倉庫を守った。
中に最後まで残ったのは、領主の所有権告示だけだ。
塩沼の子供は、いつものように新しい橋から学校へ行く。
石梯堡がいちばん面倒だった。
麓が封じられたあと、宿舎食堂の糧は二日分しかない。
ホークは、それでも晴風の固定開門を受けない。
松針城へ医者を求め、銅湾へ保存の利く魚干しを求め、白礫井へ排水工を二名求めた。晴風へは、一文だけ送った。
|自分たちの道を守れ。|
ガルドは机を叩いて怒った。
「こんなときにまで、お前の俺のだと!」
「だからこそ尊重する」とルミラ。「自分に何が足りないか、わかっている」
石梯の鉱夫は廃通風井から細い道を掘った。
アランは本物の出口を金線で示した。だが掘削、支え、糧運びはすべて現地職人がやった。松針の医師が井口に負傷点を置き、高巣鎮が崖上から薬箱を吊り下ろした。
摂政院軍は一本の大路を塞いだ。
十一都市は、十種類の違う暮らし方を出した。
メルヴィンはついに、炉庁への攻撃を命じた。
赤陶の王国兵が窯街を隊列で渡るとき、僕は晴風の主炉の前に立っていた。
タオルの声が風片から来る。
「赤陶は防護門の開門に同意する。晴風軍の進入は不同意だ」
「了解」
「守り方は聞かないのか」
「何が要る」
「風だ」
フィアはすでに隣に立っていた。
「どれだけ」
「窯煙を大通りへ吹き戻し、門が見えなければいい」
「その方向なら慣れてる」
晴風と赤陶が同時に銅棒を下ろした。
炉門が開く。
兵士は一人も通らない。
フィアの風だけが門を駆け、十二基の旧窯から白い蒸気を巻いた。煉瓦焼きは視界が隠れたうちに街面の可動煉瓦を外し、進軍路を半尺の泥坑にした。
王国兵に重傷はない。
だが鎧が泥に沈み、一歩ごとに二人で抜かねばならない。
アランが各都市の道路を連続で安定させた。
四枚目。
七枚目。
十枚目。
剣身に白脊山から残った細い筋が、少しずつ鍔へ伸びる。
「まだ持つか」と僕は聞いた。
「吾はかつて千の軍の帰路を保った」
「持てるのか、持てないのか」
「もう一度聞けば、持てない」
第十一枚の門が開いたとき、声が痛さで変わった。
僕は止めようとした。
月泉城が銅棒を引き、自ら閉門した。
「こちらの物資は送り終えた」と風片の人間。「アランは石梯へ残せ」
続いて白礫井も閉門した。
それから鹿鈴谷。
各都市が自分で順番を決め、終わった者が先に降り、まだ必要な者へ道路の負荷を譲る。
僕は指揮していない。
初めて、十二炉の接続が本当の都市のように動いた。
門を開ける者がいる。
閉める者がいる。
飯を送る者がいる。
負傷者だけを受ける者がいる。
最後の一隊の摂政院軍が塩沼港へ着いたとき、すぐには橋頭へ進まなかった。
最前列の兵士が校舎の屋根を見た。
盾を下ろす者がいた。
塩沼港の生まれだ。
二人目の兵士の母は赤陶に住む。
三人目の兵士の妹は炉門を通ったばかりで、松針城魔導学校の第一期巡回課へ通っている。
メルヴィンの命令は、「晴風に煽られた分火拠点」を攻撃せよと言う。
だが彼らは道中、余燼食堂の粥を食い、鹿鈴谷のベッドに寝、風券で家へ金を送ったこともある。
拠点の二字は、具体的な表札を覆えない。
士官が剣を抜いて急かす。
セインは降伏せず、勧めもしなかった。
反響レンガを通し、接収後の安置を項ごとに読んだだけだ。
赤陶三百七十二人に厨房がない。
塩沼港の学校は軍営に徴用された。
石梯堡の糧車は麓で押さえられ、夜勤食堂は明朝に糧が切れる。
最前列の兵士が長槍を地面へ平らに置いた。
続いて二列目。
王都衛戍軍のうち、四百人あまりが故郷への攻撃を拒んだ。
晴風に加わったわけではない。
武装しない帰路を一つ開けてくれ、と求めただけだ。
塩沼港議会が議決で同意した。
炉門が灯ったとき、兵士は武器を橋の外に封存し、一人ずつ氏名を記した。
アランは最後の力で門枠を切り開いた。
「このたびは」と、声がとても小さい。「吾が軍を退けたことにならぬか」
「お前が、帰る道を開けたことになる」
「……それでもいい」
門は安定した。
剣身のひびは、また一寸前へ伸びた。
同じ夜、王都の七衛戍営が摂政院の動員令を拒んだ。
余燼食堂の門外は、王国議会の回復を求める人間で溢れた。
王宮の鐘楼は初めて摂政院を越え、議員召集の十二声を鳴らした。




