扉の両側に人が要る
はじめて正式に炉門を開く準備に、三日かかった。
晴風は主炉前の長机を六卓移し、地面を補強し、出入り線を描いた。
余燼食堂は豆置き場を空け、来訪者の登録札を作り、夕飯を一時間早めた。
双方が住民代表を選んだ。
晴風はルミラ。
王都南区はマーサ。
僕は第二炉のそばに立ち、炎のなかの金線へ手を伸ばす。
馴染みの故郷の感触が晴風から届く。
旧風笛亭の呼び鈴、ジェリーが床を拭く水音、広間でシーツをどちらで干すか争う声。遠くて近い。
軽く引いた。
金線は動かない。
アランが言う。
「力を入れろ」
「扉の把手は剣ではない」
「道も力への敬意を要する」
力を足す。
金線が「ぱん」と弾き返り、アランの鞘を打った。
「痛い!」
「道はお前をとても尊敬している」
最初の試みは失敗した。
二度目、フィアが両側の風圧を揃えた。
扉が半分現れる。
左は旧風笛亭の広間、右はなお余燼食堂の壁だ。晴風の子供が一人、頭だけを入れ、体は通れず、ルミラが襟を掴んで引っ張り上げた。
「閉めろ!」両側が同時に叫ぶ。
扉はすぐ消えた。
問題がやっとわかった。
僕が感じているのは二つの炉であって、二つの街の決定ではない。
「同意をもう一層足す」と僕は言った。
セインが記録板を取り上げる。
「どこまで具体的に。全住民の逐人署名は実行できない」
マーサが言う。
「南区は昨夜すでに表決した。七割四が試験開放一時間に同意。貨物が先、人が最後」
ルミラの声が風片から届く。
「晴風議会は試験開放に同意する。ただし主炉庁に限る。都市管理者は執行だけを担い、単独で延長してはならない」
「現場の者もだ」と僕は言った。「扉が食堂に開くなら、食堂にいる者も止められるべきだ」
ガルドが向こう端で抗議する。
「その書き方だと、石一つ運ぶにも会議が要る」
「要らない。扉があるかどうかと、各車に何を積むかは別だ」
セインが規則を板に書く。
|炉門の開放は、同時に次を満たすこと。|
|両都市の住民代表の同意。|
|両端の管理者が同時に執行する。|
|いずれかの端が同意を撤回すれば、炉門は直ちに閉じる。|
アランが読み終え、しばらく黙った。
「では剣を持つ者に最終決定権はないのか」
「ない」
「強大な古代能力を得たというのに、皆が同意したあと扉を開ける係か」
「旅館の店主に向いている」
客室の扉は開けられる。
中の宿泊客が都合が悪いと言えば、万能鍵も理由になってはいけない。
三度目の試みが始まる。
ルミラとマーサがそれぞれ炉際に新しく付けた銅杆を握る。
「晴風は同意する」とルミラ。
「南区は同意する」とマーサ。
二つの炉火が同時に上がる。
今度、金線は逆らわなかった。
僕はアランを握り、剣先を実在するその道に沿って軽く下ろす。
空間を裂くのではない。
両側に錠のかかっていない扉を開けるように。
金光が門枠になる。
旧風笛亭の広間が向かい側に現れた。
両地は数百里離れている。あいだにあるのは敷居一道だけだ。
ジェリーが最初に転がってきた。
靴に当たり、「ぽ」と鳴る。
「貨物が先だ」とセインが注意する。
ルミラが扉際まで追う。
「清掃用品よ」
二番目は粉の手車だった。
三番目は炉直し用の唱歌レンガ。
レンガ車が敷居で一度跳ね、車ごと声を揃えて叫んだ。
「ゆっくり! ゆっくり!」
余燼食堂の者が三歩下がる。
ガルドが向かい側から顔を出す。
「このロットは輸送の注意音だ」
「なぜお前に似ている」と僕は聞いた。
「監督しやすい」
貨物が無事通ったあと、双方が五人ずつ試行した。
ルミラが最初だった。
敷居を越え、靴底に晴風の田の黄泥がついている。
半月会っていない。
彼女はまず怪我がないかを見て、帳の束を僕の懐へ押し込んだ。
「晴風のこの数日の住居、糧食、宿の苦情。見るだけ。追署はしない」
「なぜ」
「通った決定は、店主が戻るのを待たなくていい」
「厚すぎると聞いただけだ」
「以前、一人で押さえて他人に見せなかったから」
フィアが傍で笑った。
王都の住民も晴風へ入る。
最初に聞いたのは魔物の荒野でも異族でもなかった。
粉はどこで取るか、一晩の仮宿はいくらか、帰りの扉はいつ閉まるか。
旧風笛亭は普通の共同寝床で銅貨三枚取る。
本当に宿のない者は初夜無料を申請できる。ただし氏名、行き先、翌日仕事が要るかを登録する。
マーサは料金札を見て、頷いた。
「王都の地下ベッドより安い」
扉が五十八分開いたとき、外で衛兵の角笛が鳴った。
摂政院が南区の四街を封鎖した。
将校が一人、禁令を持ってきた。炉門は北境連合軍が城壁を迂回し、王都へ直接入れると主張する。
今度、彼の指摘は嘘ではなかった。
扉が粉を運べるなら、武器も運べる。
洗濯女が晴風で仕事を探せるなら、兵士も王都へ来られる。
南区の住民が不安になり始めた。
「閉めろ」とマーサ。
ルミラは理由を聞かず、すぐ銅杆を離した。
炉門は最後の運搬夫の踵の後ろで閉じた。
人を挟まず、半車の荷も残さなかった。
一端が撤回すれば、道はもう存在しない。
摂政院の将校が消えていく門枠を見る。
「天野陸、この物に軍事的脅威があると認めるか」
「認める」
反論一式を用意していたらしい。頷かれるとは思っていなかった。
「では王国が統制すべきだ」
「城門にも軍事的脅威がある」
試行記録を彼へ渡す。
「だから城門には開放時間、貨物検査、門守りがいる。炉門にも付けられる」
「摂政院は、単独で統制できない道の存在は許さない」
「それは道ではない」
「何か」
「鎖だ」
将校は食堂の入り口を封じよと命じた。
石炭車は街外で止められ、粉車も入れない。食堂はその夜、残った割れ薪で三百人超にごく薄い麦粥を一鍋煮ただけだった。
摂政院は封鎖で、第二炉が王都の許可なしでは生きられないと証明できると思った。
夜、炉火は再び灯った。
扉は開かない。
晴風から届いた風片が一枚、火のそばへ落ちた。
ルミラの新しい規則草案だ。
|この扉は、いずれの端にも属さない。|




