第二の炉火は朝食を売らない
第二炉が灯った最初の出来事は、奇跡ではなかった。
鍋が焦げたことだ。
炎が竈の下から上がったとき、マーサは翌日の豆を煮ていた。炉火はより熱くはならなかったが、彼女は驚いて掻くのを忘れた。
焦げた匂いがしたころには、豆一鍋が黒い煉瓦になっていた。
ガルドがいれば、道に敷けと勧めたかもしれない。
「聖火は食材を弁償するか」とマーサ。
「しない」
「なら今夜、竈を占領するな」
食堂の者は夜通し古い煉瓦で独立した炉架を積んだ。
僕は帰巣炉から届く構造感で手伝ったが、最初の層から歪んだ。老石工が煉瓦をこじり、遠慮なく言った。
「剣が使えるなら、左官の仕事を奪うな」
アランは壁際で賛同した。
「専門精神は尊敬に値する」
「さっき煉瓦の角を削れると言ったのは誰だ」
「吾は指導する」
明け方、炉火は安定した。
範囲は広くない。食堂、浴場、周囲の狭い巷四本を覆うだけだ。だが範囲内の漏水、割れ壁、詰まった溝が一気に感知へ押し寄せた。
僕は卓縁を支える。
旧風笛亭がいちばん壊れていたときも、こんなに同時に漏れた場所はなかった。
南区の住民はだが、すぐ実用を見つけた。
洗濯女が壁内の壊れた熱水管を見つけた。
石工たちが地下から封じられた旧穀倉を掘り出した。
湿った地下室に住む三戸は移る前に、穀倉は公共倉庫か仮住まいかで半日争った。
マーサが決めた。
「昼は豆を置き、夜は床を敷く。いちばん遅く起きた者が布団を運ぶ」
午前、ヘルマーが教団執事を連れて来た。
後ろに炉解体車が二輛、護教士が二十名、摂政院印の徴収令が一枚。
食堂の入り口では朝食を配っている。
マーサは命令を読み終え、木札を裏返した。
こう書いてある。
|本日の朝食:麦粥。一人一椀。|
「教宗は並べ」と彼女。
ヘルマーは動かなかった。
「お前たちは凡人に属さない炉種に触れた」
「うちの竈の下で七年寝て、家賃も払っていない」
「直ちに現場を空けろ」
護教士が前へ出る。
僕はアランを押さえた。
ここは晴風ではない。僕の食堂でもない。
ここで人の代わりに剣を抜けば、摂政院はその日のうちに第二炉を北境の武装占領の証拠に書ける。
マーサも僕を見なかった。
長杓子を鍋縁に叩く。
「飯を食う者は左、家を壊す者は右。壊す前に仮の安置先、ベッド数、移転補償を出せ」
教団執事が別の紙を広げる。
「聖物徴収は普通の賃住に優先する」
「この巷には百八十七戸あり、地下屋九軒が排水口を一つ共有している。竈を壊せば水が切れる。何日切る」
「聖物とは無関係だ」
「昼飯とは関係がある」
並ぶ者はスローガンを叫ばなかった。
一人ずつ聞いただけだ。
食堂が閉まれば、定職のない日雇い二十七名はどこで飯を取る。
浴場の湯は誰が沸かす。
掘り出した穀倉は誰のものか。
炉解体車が巷口を塞げば、石炭車はどう入る。
執事が「別途手配する」と言うたび、群衆は日付、住所、担当者を書けと求めた。
セインは壁際に立ち、空白の様式を自ら差し出した。
「王国の臨時徴収手続きは十四項ある。お前たちは第一項しか終えていない」
執事が睨む。
「誰の味方だ」
「手続きの味方だ」
ヘルマーはついに辛抱を失った。
「炉種を運べ」
護教士四名が炉架へ向かう。
第二炉の炎が突然小さくなった。
攻撃ではない。
赤い光一点まで消えただけだ。
護教士が陶箱を上げると、周囲の温もり、壁内の水音、旧穀倉の方角が同時に僕の感知から消えた。
巷口で誰かが一言罵った。
教団を罵ったのではない。
浴場のボイラーがすぐ低圧を報じ、洗いかけの二人がシーツを巻いて飛び出したからだ。
護教士は陶箱を炉解体車へ載せた。
馬が動かない。
四人に替えて押しても、車輪は浅い石の隙間に沈む。
アランがしばらく観察した。
「重さではない。道がない」
帰巣炉は住民を無理に残せない。
炉種も、受け入れを拒む場所を行き先とは呼ばない。
教団は石を竈から運べる。同意のない道で第二炉を聖堂へは送れない。
ヘルマーは車を解体させ、手で担がせた。
護教士は巷の東を歩き、食堂の裏口へ戻る。
巷の西を歩き、また浴場から出てくる。
真っ直ぐ歩いているはずなのに、毎回、炉火が留まりたい場所へ戻る。
王都の住民がますます集まった。
笑い出す者もいる。
道に困った護教士へ水を渡す者もいる。
マーサは一杯銅貨一枚で取る。
「食堂は解体隊に無料では出さない」
ヘルマーが僕を見る。
「何をした」
「何もしていない」
「開路剣はお前の手にある」
「今日は煉瓦を二個削っただけだ」
アランが真面目に訂正する。
「削る指導をした」
教宗があの一点の火を見つめる。
「聖物は正しい儀式に従うべきだ」
「夕飯の方が気になるのかもしれない」
マーサが陶箱を護教士の手から取り戻した。
すぐ炉架へは戻さない。
「炉が残っても、天野陸の言うことを聞くわけではない」彼女は巷の者に言う。「明日の夜、住民会を開く。これが要るか、晴風と通すか、分けて採決する」
「なぜ分ける」と誰か。
「湯が欲しいことと、外地の者を家へ入れたいことは別だから」
この大衆食堂の竈係は、多くの法学者より炉火をわかっていると、はじめて思った。
教団は第二炉を持っていけなかった。
退くとき、炉解体車はなお巷口を塞いでいた。
マーサは車板を残せと求め、昼市を遅らせた賠償として食堂の雨除けにするとした。
ヘルマーはもちろん承知しなかった。
南区の大工がその場で外した。
夜、第二炉が再び盛んになった。
炎のなかに極細い金線が浮かぶ。
西北へ伸びる。
同時に、遠く晴風の第一炉も応えた。
二つの火のあいだに、短いあいだ扉の輪郭が出た。
向こうから旧風笛亭の広間の声が届く。
ガルドが叫んでいるらしい。
「開けるな! こっちのテーブルがまだ動いていない!」
次の瞬間、扉は消えた。




