店主のいない採決
余燼食堂の昼飯は豆スープ、黒パン、漬大根の半分だった。
銅貨四枚。
椀を持参すれば一枚減る。
金のない者は裏厨房で三十分薪を割るか、日付の書いた木札を持ち、来週工賃が出てから補う。
「借りは二食まで」竈を握る女が僕に言った。「三食目は必ず登録して仕事を探せ。私が酷いのではない。鍋は哀れでも豆を増やさない」
彼女はマーサ、四十歳、右腕はガルドの槌柄より太い。
食堂はかつての王家糧倉の廃竈間だった。南区の工人、洗濯女、日雇い、定住所のない者が金を出し合って借り、七年やっと持った。
最近、王都は石炭税を上げ、この一帯を壊して貴族の車道を通そうとしている。
帳にはあと五日分の豆しか残っていない。
第二の炉種は竈の下にあった。
まだ灯っていない。
あの一点の温度は感じられる。僕の意思では燃やせない。
「床をじっと見て何してる」とマーサ。
「下に古代の炉があるかもしれない」
「竈を壊したら弁償しろ」
「先に飯だ」
座ったばかりで、フィアの風片が再び灯った。
今度は短信ではない。
晴風議会が反響レンガを旅灯のそばへつなぎ、声が風路を断続して届く。
最初に聞こえたのはガルドだった。
「公函に王都印がある! 引き渡しに同意しなければ、教団は抗命だと言える。先に炉架を外し、火種は鉱洞へ隠せ」
ルミラが答える。
「運んだあと、今夜の公共厨房はどう飯を作る」
「普通の竈で」
「三千四百人が毎日主炉庁で湯を取っている。普通の竈なら薪が二十車余計に要る。お前が出すのか」
「炉は出す!」
「薪は」
「……次の案」
旧風笛亭の広間は人で埋まっているはずだ。
椅子脚、紙、ジェリーがなぜか卓へ上がる「ぽ」が聞こえる。
セインの副官が公函の検証結果を読み上げる。
天野陸の印章は本物だ。
言い回しは摂政院の書式に合う。
だが添付の炉体寸法が半尺足りず、旧風笛亭の正式登録図にその誤りは一度も出ていない。
ルミラが言う。
「店主は飯を忘れることはある。炉の幅は書き間違えない。この半尺のためにガルドと三日、長机の位置で争った」
ガルドが訂正する。
「二日半だ」
「ありがとう。議事録へ」
広間で誰かが笑った。
僕の指が汁椀の縁で止まった。
他人に見分けられるのは、英雄譚だけではないらしい。
卓の間隔へのこだわりでもある。
商業ギルドの代表が一人、聞いた。
「天野陸が本当に脅されて同意していたら。こちらが拒めば、王都は商路を切る」
「だから今日の採決は、店主の心を当てることではない」とルミラ。「晴風が公共の炉火を、住民に一度も聞かなかった者へ渡すかどうかだ」
引き延ばせと言う者。
開戦を心配する者。
羽民代表は先に子供を七盟へ移せと求めた。
河民代表は水院の供熱を止めることに同意しなかった。
汁椀一杯分の時間、争った。
誰も僕に答えを聞かなかった。
最後にルミラが項目ごとに採決した。
第一項、帰巣炉は晴風の公共施設であり、天野陸の私有財産ではない。
可決。
第二項、いかなる引き渡しにも住民聴聞、都市議会の表決、代替暖房案の検収が要る。
可決。
第三項、天野陸が王都を自由に離れられないあいだ、ルミラが都市管理の調整を暫定で代行する。
この項がいちばん長く争われた。
ガルドは三人輪番にすべきだと考え、商業ギルドは三人で一枚の仕入票にサインするのは遅すぎると嫌った。最終的にルミラが宿泊、糧食、行政を、セイン副官が治安を、三大ギルドが超過支出の拒否権を残す形に改めた。
可決。
第四項、教団車隊の炉庁入場を拒む。
可決。
反響レンガのなかで紙がめくれる音がした。
ルミラが最後に言った。
「王都へ書け。実行しない」
風片が消える。
フィアは汁を飲みながら、口角が上がったままだった。
「何がおかしい」
「失業した人がいる」
「臨時管理人はもともと正式職ではない」
「はいはい、元臨時管理人」
アランが存在しない喉を鳴らした。
「吾から見れば、自らの都市に命令を拒まれるのは、記念すべき威厳の損失だ」
「今夜は油を塗らない」
「幼稚な報復では事実は隠れん」
本当に辛くはなかった。
胸でずっと張っていた綱が、一段ゆるんだだけだ。
晴風は僕がいなくても、飯を食い、登録し、決定を止めなかった。
店主が離れれば閉まる旅館では、もうなかった。
マーサが空椀を下げる。
「聞き終えた? 床の話だ」
昼市が終わるのを待ち、大鍋を三口移した。
ジェリーはいない。僕が数十年の油泥が溜まった竈へ潜るしかない。アランが隙間を探し、フィアが灰を吹き出し、結果としてセインを白髪にした。
「方向が少し高かった」
「わかる」セインが眉の灰を拭く。
竈の下に掌大の黒陶の箱が埋まっていた。
中に宝石はない。
暗い赤い石が一つ、眠っている炭のようだ。
マーサが摘んで見る。
「これだけ」
「炉種だろう」
「金になるか」
「摂政院は滞納金貨百七十一と換えたい」
裏厨房の手がすべて止まった。
マーサはすぐ炉種を僕の手へ押し戻した。
「持っていけ。こっちは高い物には耐えられない」
炉種は掌でなお冷たい。
「僕を認めていない」
「そっちには一座あるだろう」
「だからこそ、これは僕が持ってはいけない」
陶箱を竈のそばへ戻す。
食堂の者が輪になった。
売れと言う者。石炭代だけでも補える。
教団へ渡せと言う者。家を壊されない代わりに。
入り口で二食借りた老石工が聞いた。
「飯は増えるか」
「増えない」
「屋根は漏れなくなるか」
「ならない」
「じゃあ何の役に立つ」
「灯れば、晴風への道が開くかもしれない」
「晴風の粉はどれだけ安いか」
マーサがすぐ帳で計算した。
運賃を除けば袋あたり銅貨九枚安い。だが食堂は炉架を直し、長机を足し、近くの住民が外地の扉を受け入れるかどうかを先に決めねばならない。
聖物の名に動かされた者はいなかった。
石炭代、粉、見知らぬ者が夜中に押し入るかどうかで、午後いっぱいまた争った。
夕方、食堂はいつもどおり開いた。
最後の豆スープが底を見せたとき、マーサは自分のパンを割り、仕事を終えたばかりの運搬夫二人へ分けた。
炉種は普通の竈のそばに横たわったままだ。
誰かが石炭を一塊足した。
暗い赤い石が、突然一度灯った。
僕が点けたのではない。
誰かが命じたのでもない。
第二の炉火は、石炭代をまだ借りている大衆食堂で目を覚ました。




