三つの分駅はパンを作らない
ヴィクトルの騎兵六百が晴風へ向かったとき、街で出戦できる者は三百に満たなかった。
自衛隊の主力は白脊山にいる。
僕とセインが戻るには少なくとも一日要る。
赤盾騎兵は半日で足りる。
「遠距離の道を開ける」と僕は言った。
アランの剣身の細いひびが、火の光ではっきり見えた。
「抜くなら、先にお前の手を斬る」
「できるのか」
「いまのところ……主に態度だ」
帰途は旅灯の感知を越えられる。軍隊ごとを空から家へは送れない。三つの分駅も馬もパンも矢も作らない。
第二巻で直した商路が本当に持っているのは、倉庫と車隊と、沿線で働こうとする人だ。
旅灯のなかからルミラの声が届いた。
「晴風は西門を閉じた。学校は休講、生徒が避難者の登録をする。工房は矢と拒馬を作っている」
「六百騎は守れない」
「だから戻って処理する、とは言わないで」
口調はなお穏やかだった。
「まず、こちらがもうしたことを聞いて」
第一分駅は晴風から二十里、道路補修の材と三日分の糧を蓄えている。
第二分駅にはドワーフが整備する魔導牽引車がある。
第三分駅には狼人商路から下げた空の貨車が十二輛停まっている。
ルミラは命令を待たなかった。
晴風議会の名で牽引車を徴用し、公開の戦時価格で商隊から車を借りた。学校の上級生が分駅の在庫を再登録し、車夫が各車の前に行き先の木札を掛けた。
第一便は糧食だった。
第二便は人だった。
沿線の村戸は強制入城せず、離れたい者は分駅で登録し、家畜を見たい者には信号レンガと撤退図を渡す。
「第三便は」と僕は聞いた。
「空樽、釘、唱歌レンガ、ジェリー」
「最後はどう運ぶ」
旅灯の向こうで「ぽ」と鳴った。
「自分で酒樽に入った」
赤盾騎兵が西橋で最初の妨げに遭ったとき、向かい合ったのは兵士ではなかった。
商隊だった。
金穂商盟が以前、晴風の運賃を下げるのに使った重貨車が橋頭に横たわり、車輪は外され、車廂には砂石が詰まっている。生徒は橋の後ろで反響レンガの番号どおり敵数を伝え、ゴブリン劇団は曲調を警報に変えた。
商隊会計のバルが旧風笛亭の屋根に立ち、真面目に鼓を叩く。
一下が東路。
二下が西路。
連続の乱打は、ベリーが槌を盗んだ印だ。
今日は乱れなかった。
ヴィクトルは石橋を強攻しなかった。
二百騎を南門へ回し、ちょうど未完成の病院排水渠へ踏み入った。
ガルドは当初、牛角病棟に水が溜まらないよう渠を広く深く掘っていた。晴れの日は皆が石材の無駄だと嫌った。今、第一列の戦馬が揃って膝まで沈んだ。
「攻城規格で病院を造るべきだと言った」ガルドが旅灯越しに言う。
「当時は言っていない」
「心のなかでは言った」
ジェリーが酒樽から溢れ、渠際の緩い土を飲み、斜面を滑る硬い面にした。人は攻撃せず、第二列の馬がもう上がれないようにしただけだ。
晴風工房の工人が屋根から網を落とす。
学校の生徒は城壁へ上がって戦わなかった。
老人と子供を三箇所のレンガ倉へ案内し、名簿を調べ、湯を門守りの手へ届ける。フィアが育てた助教二人が低空の乱流を上げ、敵の偵察鷹に街路を見えなくした。
この街は、僕が戻ってから守り始めたのではなかった。
セインは各路の報告を聞き終え、すぐ決めた。
「白脊山には当初の守軍を残す。私は晴風自衛隊と狼人軽隊だけを連れて戻る。合わせて四百」
カロが聞く。「足りるか」
「分駅の補給鎖で軽装にできる。第一駅で馬を替え、第二駅で矢を足し、第三駅で食う。六百騎対四百歩兵ではない。疲れた騎兵対、熱い飯が途切れない隊だ」
竜谷は兵の輸送を拒んだ。
ランゼルはだが、薬と鎧を第三分駅へ先送りすることに同意した。中立条約には反しない。
デラの河船が西の支流に沿い牛角の盾を運ぶ。ドーンは予備の弩車を三段に分解して牽引車へ詰めた。各方は約束した境界を守りつつ、できる部分を同じ鎖へ入れた。
夜通し南下する。
第一分駅では、馬はすでに水を飲んでいた。
第二分駅では、生徒の書いた補給札が四百の矢袋を一本も違えず分けていた。
第三分駅では、十二口の鍋が同時に湯気を立てていた。
ノヤが竈のそばに立つ。
「断橋が直るまで、先に飯を送る」
「手はまだ治っていない」
「スープを掻くのは右手」
僕は各旅灯の前で短く帰途を開き、後隊へいちばん安全な道を示しただけだった。金色の軍路は維持せず、アランにより大きな裂けも負わせなかった。
夜明け前、晴風の西斜面でヴィクトルの軍旗が見えた。
赤盾騎兵は外層の車障を破っていたが、城壁と排水渠のあいだに止まっていた。工房が落としたのは火油ではなく、粘る月豆漿の樽だった。
蹄が滑り、盾が手に貼りつく。
欠点は、西門一帯が朝食の匂いになることだ。
セインは僕をヴィクトルへ突っ込ませなかった。
四百人を三隊に分け、補給車が残した空路から戦場へ入る。狼人が西橋を取り返し、自衛隊が北斜面を封じ、分解した弩車が第三分駅の工匠の手で再び立つ。
ヴィクトルはなお強かった。
一槍で弩車の索を挑ぎ、親衛を率いて第一の盾列を突き抜ける。セインは正面から受け、連続で七歩退いた。
八歩目、生徒が先に印した白レンガを踏む。
排水渠がいちばん狭い位置だ。
牛角の盾隊が両側から閉じ、反響レンガが同時に退避信号を鳴らす。赤盾親衛は晴風の陣が退くと思った。ヴィクトルはだが、後方の西橋がすでに狼人の手にあるのを見た。
彼は賭けを続けなかった。
「全軍、北へ退け!」
命令は果断で、隊形も乱れなかった。
セインは半里追って止まった。
「なぜ留めない」自衛隊員の一人が聞く。
「目標は守城だ。負傷者で将軍を換えることではない」
この勝利は、歌に書けるほど綺麗ではなかった。
晴風の傷は百九、西橋は折れ、貨車十二輛は完全に廃れた。病院は地敷きを二十増やした。徴用した糧食、車、馬は戦後に償わねばならない。
旧風笛亭の厨房は一日中火を入れ続けた。
僕がカウンターへ戻ると、ルミラが三頁の損失帳を渡した。
「おかえりなさい。サインを」
「先に怪我はないかと聞かないのか」
「フィアが見ました。手首の擦り傷だけです」
フィアが厨房から顔を出す。
「許可なく裂けた剣で道を開こうとした件もある」
「それは傷ではない」
「処理待ちの問題だ」
セインがまだ座らないうちに、赤盾の伝令兵が一人、広間へ連れてこられた。
戦書は持っていなかった。
持ってきたのは、赤盾公国議会の反戦派が公開した軍務質問だ。鴉嘴堡の文書番号、偽造襲撃に使った物資、ヴィクトルが議会承認なく越境した調兵記録、すべて列記されていた。
主戦派は増兵の権限を失った。
伝令兵は別の手紙を損失帳の上に置く。
ヴィクトルが停戦を求めていた。
場所は晴風が決める。




