白脊山の共通の方角
赤盾軍が朝霧に現れたとき、白脊山は赤い鱗を一層まとったようだった。
二千四百面の盾が新しい軍路を進む。
攻城車十六輛が後方に並び、投石臂が揃って上がる。ヴィクトル将軍は宣言せず、角笛を三度吹かせただけだった。
第一弾の石は西谷へ落ちた。
ドワーフが昨夜積んだ外壁が二発を止めた。
三発目は壁頭を越え、狼人護路隊の炊事小屋を潰した。
カロが砕木から這い出し、顔に朝食の麦粥がついている。
「鍋を撃たれた」
「人は」と僕は聞いた。
「全員出した」
「なら鍋を先に記せ」
ガルドはもう戦損板に書いていた。大鍋一口、棚架十二本、麦粥四十七杯。
戦争が晴風の帳に落ちるとき、たいてい先に具体的なものになる。
セインは共同指揮点を旧鉱塔の基座に置いた。七族の隊は混成せず、慣れた仕事で協同する。
牛角の盾隊がいちばん広い正斜面を守る。
狼人は雪溝を回り、攻城車の索を襲う。
ドワーフは高い壁を追わず、凍土に三段の陥没空槽を埋めた。
河民は融雪河を浅溝へ引き、水が凍れば重盾兵は一歩ごとに平衡を取り直さねばならない。
樹霊は森を呼んで敵軍を飲み込みはしなかった。植えたのは靭藤の路障で、後方では負傷者を運び、止血の順を印した。
羽民は上昇流に沿い旗語を伝える。
竜谷は補給と負傷者だけを運ぶ。シモハネは参戦せず、ランゼルも双方が約した非攻撃線を越えなかった。
制限は、どれも残っていた。
連合は差異を消さなかった。
午前の第一波は、守った。
それから赤盾の工兵が推進の仕方を変えた。
敷砂車で氷溝を覆い、長鉤で靭藤を先に引き切る。前列の兵はドワーフの陥槽を踏まず、盾板で道を敷いた。
ヴィクトルは北境各族の長所を知っている。
それを分解する方法も知っている。
赤盾軽騎一隊が南側から偽退し、カロの狼人が追って出て、ちょうど牛角の盾壁の視界から外れた。羽民の旗語は山腹の煙罐で遮られ、ドーンの陥没指令は半刻遅れ、空槽は無人の試探車を二輛飲み込んだだけだった。
「各線、追撃を止めろ!」セインが下令する。
だが角笛、風、投石の衝撃が混じり、命令は山脊を越えなかった。
僕は鉱塔の基座に立ち、多くの人は見えるが、彼らに互いを見せられない。
帰巣炉の共鳴が胸から熱くなる。
七つのテーブルが結んだのは、一つの軍団への忠誠書ではない。
だが残った各隊は、同じ防務協定を自ら受け入れた。
「方向をつなげる」と僕は言った。
アランが聞く。「どれほどの範囲だ」
「白脊山ごと」
「お前は最近、古代遺物の耐久に敬意がなさすぎる」
「できるか」
一息、黙った。
「道は実在する。人もいる。できる」
僕は剣を抜き、鉱塔の旧基座へ刺した。
金色の紋は敵軍へは向かわなかった。
ドワーフの工事、狼人の雪溝、河民の水路、羽民の風標に沿って広がる。帰巣火は五つの安全島と山下の旅灯を通じ、協定に署名した各隊を少しずつつなぐ。
最初に来たのは力ではなかった。
眩暈だった。
千を超える方向が同時に意識へ押し込む。羽民が見る谷、狼人が嗅ぐ火油、ドワーフの足下の岩層の揺れ、すべてが混ざる。
僕は跪きかけた。
フィアが片手で支える。
「視界はつなぐな。まず風向き」
「軍団共鳴」は、全員を僕の手足にすることではない。
誰かの代わりに刀を振ることもできない。
本当に役立ついくつかを、共同の道へ置くだけだ。
撤退の方角。
敵軍の煙幕の後ろの隙間。
フィアが示した追い風。
セインが出した短い指令三条。
「狼人、西北三十歩に出口がある」僕は方向を送る。
カロは元の道では退かなかった。
軽騎が側面を出したと判断し、二隊を残して馬具を切り、残りは金線に沿い盾壁へ戻った。
ドーンは敵軍の重車が東側の空槽を踏むのを感じ、自分で支え柱を先に爆破した。
牛角の盾隊は羽民が共有した俯瞰の方角を見、正面に狭い口を一つ空けた。
赤盾の先鋒は防衛線が崩れたと思い、飛び込んで両側がドワーフの補強した斜壁だと知った。
デラは独断で閘を開いた。
融雪水が狭い口を通り、敷砂を散らす。牛角の盾隊がすぐ閉じ、入った先鋒と後隊を断った。
これらは、僕が命じて成し遂げさせたものではない。
他人が何をしているかを知らせただけだ。
フィアが残塔のいちばん高いところへ立つ。
最大の風は出さず、小さな風を七筋、連続で直した。煙幕が切れ、羽民の旗語が再び現れ、竜運隊が安全島に沿って降り、弩矢と熱湯を後線へ届ける。
ベリーが背負ったのはいちばん軽い包帯箱だった。
成体の竜より遅いが、航標から一度も外れなかった。
正午、ヴィクトルは攻城車をすべて投入した。
石弾十六発が正斜面を越える。
共鳴のなか、全隊が同時に撤退の金線を三条見た。誰も無理に引き離されず、任務を終えるために残る者もいた。
ドウリンが鉱工劇団を率い、舞台の索を外して最後の攻城車の投臂を絡め殺した。
「この幕は鉱庁の出し物よりいい!」ガルドが吼える。
「構造しか評さない!」
「結びも構造だ!」
投臂が空中で折れた。
赤盾軍がはじめて退いた。
僕はだが、アランがごく小さな呻きを出すのを聞いた。
剣身の鍔に近い位置に、髪の毛ほどの暗い線が一本増えていた。
「アラン」
「表面の傷だ」
言い方が、堅すぎた。
共鳴はなお保たれている。一息増えるたび、暗い線が前へ少し伸びる。
「切れ」とフィア。
「まだ全員が退いていない」
「最後の風は私がやる」
「お前は山路全部は支えられない」
彼女が袖口を掴む。
「また全員の分を背負おうとしてる」
山腹で、セインが自ら防衛線を縮めた。カロが撤退の哨を吹き、ドーンはまだ発火していない陥槽を二箇所捨てた。僕の手配を待たず、すでに見えた方角に沿い、互いを掩護した。
僕はアランを抜き、軍団共鳴を切った。
フィアの風が最後の負傷者隊を受け止める。
午後、赤盾軍は北斜面へ退いた。
僕らは追わなかった。
連合軍の傷は二百十七、戦死者は二十三。東側の工事は全壊、竜運の安全島は二つ崩れ、北境病院の四十床は一床も空いていなかった。
ガルドがアランのひびに剣油を一層塗った。
「表面傷ではない」
「ドワーフよ、お前の診断は礼を欠いている」
「同じ規模をもう一度保てば、裂けは剣脊まで行く」
僕は柄を握る。
アランが小さく補った。
「だが道は開いた」
山下で、別の方角の警鐘が鳴った。
リシャが血をつけて指揮台へ落ちる。
「北斜面は牽制だ」
彼女は敵軍の転向図を広げる。
ヴィクトルは主力を残して対峙し、自ら騎兵六百を率い西麓を回った。
その道は鉱山へも、どの七族の集落へも行かない。
晴風へ直通していた。




