七つのテーブルに炉火が灯る
赤盾軍が越境したあと、七族会議は半日かけて、それを侵入と呼ぶかどうかを決めた。
「旧界標は共同承認されていない」と波止場商人。「法的には、係争地へ入っただけかもしれない」
カロが偵察図を卓に叩きつける。
「二千四百人が攻城車十六輛で何を争う。どの城門が突きやすいかか」
シモハネはなお出兵を拒んだ。
「竜谷の中立条約は地上戦への参加を禁じている」
ランゼルが聞いた。「彼らが白脊山を占領し、航標をすべて外したら」
「竜は迂回できる」
「薬を運ぶ商隊はできない」
ドーンはまず鉱口を守れと求め、エルカンは鉱坑を爆破して赤盾に取らせるなと考えた。
「東鉱は四百戸を食わせている」とドーン。
「根林が養っている木は四百本ではきかない」
「また木を数えるのか」
「お前が先に人を数えろ」
七つのテーブルは押されては戻り、どれも中央の地図へ寄らなかった。
僕は窓際に立ち、晴風を守れとは求めなかった。
赤盾軍はいま晴風からあと二日あり、代表のなかには一生晴風へ行ったことのない者もいる。彼らに僕の街へ忠を尽くす理由はない。
ルミラが旅灯を通じて七冊の一覧を送ってきた。
僕は一覧をそれぞれ卓に置いた。
狼人の卓には、毎月晴風を通る塩、針糸、糧種。
樹霊の卓には、北境病院がすでに診た根林住民百二十九名と、薬草販売の公開帳。
ドワーフの卓には、唱歌レンガ、医療器械、鉱石の注文。
竜谷の卓には、最初の風路の安全島五箇所。
河民の卓には、晴風市場が買い上げた魚荷と水運の給金。
羽民の卓には、三つの分駅が出した夜間の足場と熱食の数。
牛角の卓には、冬の牧道計画と季節市で予約された屋台。
「晴風の代わりに戦えと言っているのではない」と僕は言った。「赤盾が白脊山を越えたあと、各自が何を失うかを示しただけだ」
波止場商人が帳冊を読み終える。
「水路の利益はお前が言うほど高くない」
デラが一目見る。
「だから今は、赤盾にダムを造らせたくないのか」
「再計算を求めているだけだ」
「いい」と僕は言った。「戦争が終わってから計算しろ」
「終わらなかったら」
「ならその帳は、確かに省ける」
会議は一言で急に団結しなかった。
彼らはまず各自休会した。
狼人代表は旧風笛亭の裏庭で、断橋を守るか商路の鎮へ退くかを争った。樹霊代表は護林と病院支援の二派に割れた。ドワーフ鉱夫は鉱を守れと求め、ドーンははじめて東鉱の労働者を撤退させろと主張した。
「鉱は掘り直せる」と彼は言った。「人が中に埋まれば、工賃の清算が難しい」
ガルドが頷く。
「主な理由は清算か」
「人命でもある」
「順番は逆の方がいい」
竜谷は最終的に輸送、偵察、負傷者の退避だけを認め、攻撃には加わらない。シモハネは中立を貫き、ランゼルは若い看護員を率いて航路へ入った。
河民の船隊は山下の補給を引き受けるが、水域から遠くへは出ない。
羽民救援隊は、すべての軍令に悪天候の例外を残せと求めた。
牛角の牧戸は四百人だけ出し、残りは家畜と家族を守らねばならない。
整った軍隊ではなかった。
制限で埋まった宿泊注意書きが七通ある、という方が近い。
セインはそれらの制限を『連合防務臨時協定』に整理した。
第一条、各方は天野陸にも晴風にも忠誠を誓わない。
第二条、指揮権は任務で分ける。狼人は山地偵察、ドワーフは工事、牛角族は正面、羽民と竜谷は空路、河民は水運、樹霊は救治と林地。
第三条、どの隊も防衛線が保てなければ撤退でき、退却をもって罪としない。
第四条、軍需帳は公開し、戦後に逐項清算する。
「共同防務官がまだ足りない」とカロ。
何人かが僕を見た。
「僕は向かない」と僕は言った。
ガンドが眉を寄せる。
「お前は道を開ける」
「道を開けることと、各隊の戦い方を知ることとは別だ。セインは晴風自衛隊を訓練し、王国と赤盾の軍制も知っている」
セインは真っすぐに立っていた。
「私の巡察官の身分はアスタ王国に属する」
「だから僕が任命するのではない」僕は空白の任命頁を七つのテーブルのあいだに置く。「彼らが選ぶ」
表決は三回かかった。
カロは当初、人間の官吏に反対し、ドーンはセインが手続きに厳しすぎると嫌い、シモハネは彼に竜を指揮する資格はないと考えた。
セイン自身が補った。
「私もない。竜谷は航路の調整だけを受け、戦闘命令は受けない。任命制限に書くべきだ」
その言葉が、かえってランゼルを賛成へ動かした。
最終的に十四票のうち十一が同意、二が棄権、一が反対。
セインは臨時の共同防務官になった。
彼は僕に宣誓しなかった。
七つのテーブルに向かい、協定を一つずつ確認した。
日が暮れたあと、代表たちはテーブルを旧風笛亭の帰巣炉のそばへ押した。
協定は、各方が自ら少なくとも一隊を残すことを要する。署名だけでは足りない。帰巣炉は外交印章を認めない。
カロが最初に手を卓縁へ置いた。
「狼人護路隊は西谷を守る」
ノヤがそのあと反対側を押さえた。
「商隊は車を十二輛出す。ただし先に撤退橋を直せ」
アオカエデ、ドーン、ランゼル、デラ、レイシュウ、ガンドが順に自分の約束をした。
条件がある。
留保がある。
参加しない者もいた。
七つのテーブルの木目に、温かい光が順に灯った。
忠誠の火ではない。
ともに飯を食い、帳を見、明日もこの事に残りたいという火だ。
帰巣炉は七度応えた。
僕は目を閉じ、はじめて炉火の外に七筋のはっきりした方向を感じた。
白脊山、根林、河道、高地、牧場、山城、竜谷。
アランが低く言った。
「道が増えた」
「道ではない」
僕は柄を握る。
「ともに歩こうとする人だ」
門外で急な蹄音がした。
狼人斥候が一人、宿屋の扉を突き開け、肩に赤盾の弩矢が刺さっていた。
「敵軍は野営していない」
血のついた地図を、光る七つのテーブルに広げる。
「ヴィクトル将軍が夜通し進んでいる。明日の日出前に、白脊山へ着く」




