泣く鉱洞
ドワーフを呼びに出る前に、僕はまず、宿屋の店主らしいことをした。
部屋割りだ。
東側の客室を二部屋、さっき片付けた。床はまだ堅い。老人と子供が一室、ルミラがほかの灰耳の女性三人と一室。青年たちはこれまでどおり広間で寝る。フィアは階段脇の小さな物置だ。
彼女の部屋への要求は一つだけだった。
「窓は西向きにして」
「そこには窓がない」
「開ければいいでしょう」
「修繕の借金、銀貨二枚追加だ」
「なくてもいい」
十二と刻まれた古い鍵を渡す。
「扉はまだ閉まらない。鍵は先に持っておけ」
「なぜ?」
「住客には鍵があるべきだからだ」
彼女は鍵を朝日にかざして見て、真剣にポケットへしまった。
「屋根は私が償うわ」
「先に、二箇所目の賠償を作るな」
旅館のことはルミラに任せた。
僕とフィアとロックは西の鉱区へ向かう。ジェリーは気づかないうちに背負い袋へ潜り、青い頭をほんの少しだけ出していた。
アランはそれが気に入らない。
「なぜスライムには専用席がある」
「奴には剣鞘がないからだ」
「吾も袋に入れる」
「底を突き破る」
荒野の道は、地図より長かった。
午前はまだ腰までの草だ。午後になると地面が持ち上がり、青灰色の岩が土層から顔を出す。遠くの煙突は煙を吐いていない。鉱車の軌道は、野草に半分埋まっていた。
石背ドワーフの集落は、山麓にあった。
石の家は低くて頑丈で、門前には槌と酒杯の形をした風鈴が下がっている。だが通りには人ひとりいない。炉はすべて消えていた。鉄を叩く音さえ聞こえない。
ロックが声を落とす。
「引っ越したのか」
「カーテンが動いている」と僕は言った。
いちばん近い石屋の窓の隙間に、目が一つ見えた。
フィアが手を振る。
窓はすぐ閉まった。
アランが言う。「危険人物を見たあとの反応として妥当だ」
「誰のことだ」
「屋根を飛ばす方だ」
フィアが剣鞘を叩いた。
「剣も飛ばせるわよ」
集落の果てが鉱洞だ。
洞口に、新しい木札が釘で打たれていた。
|内に悪霊あり。入るべからず。夜間は絶対に入るべからず。とくに、悲鳴をあげる者を連れて入るべからず。|
「最後の一文は、あとから足したな」とロック。
「試したということだ」と僕は言った。
木札の向こうから、低い泣き声が聞こえる。
「うぅ——」
フィアが僕の外套の袖を掴んだ。
「怖がってるんじゃないわ。風術師は接触で隊列の位置を把握する必要があるの」
「今、風はない」
「だからこそ必要よ」
泣き声が、もう一度した。
今度は、岩壁の反対側に顔を押しつけた者のように近い。
「うぅ——うぅ——」
洞口脇の木桶が突然開き、髭の乱れたドワーフが中から立ち上がった。手には鉄槌。
フィアは、本当に悲鳴をあげた。
風が彼女の足元から弾け、木桶ごとドワーフを二歩押し戻す。
「やめろ!」ドワーフが叫ぶ。「吾は門番だ!」
「誰が桶に隠れて門を守るのよ」
「泣くものが外へ出ない。中へ入った者だけがやられる! だから外に隠れるに決まってるだろ!」
彼はガルドといった。石背鉱区の親方だ。
彼の話では、半年前、鉱洞が藍晶の層を掘り当ててから、毎晩、女の泣き声が響くようになった。松明は理由もなく消え、道具は翌朝、別の場所にある。度胸のいい鉱夫が数人、悪霊を罵りに入ったところ、泣き声が家までついてきて、一晩中鳴り続けたという。
「だから採掘を止めたのか」と僕は聞いた。
「まず七日止めた。そのあと祓魔師を呼んで銀貨十二枚使った。それから今まで止まっている」
「晶層はどこだ」
「主坑道のいちばん奥だ」
「案内してくれ」
ガルドの髭が、一度揺れた。
「お前たちは何をしに来た」
「屋根の壊れた宿屋がある。そちらが直せるときいた」
「だから先に悪霊を片づけるのか」
「少なくとも、外へ出る気になってもらいたい」
ガルドは僕を値踏みし、フィアを見る。
「彼女は大丈夫か」
「方向は保証できない。風は大きい」
「ちょっと」
ガルドは結局、ドワーフを三人集めた。
それぞれ鉄兜をかぶり、松明と槌を持つ。僕とフィアにも一つずつ渡された。
アランにも一つ。
「吾に兜は不要だ」
「鉱の中は落石がある」とガルド。
「剣に頭はない」
僕は鉄兜を剣柄にかぶせ、紐で締めた。
「今はある」
入洞すると、光はすぐ闇に吞まれた。
古い軌道が坑道を下り、空気は湿り、足元には時おり砕石が転がる。壁には十歩ごとに魔法灯がある。すべて消えていた。
フィアが杖で微光を灯す。
光は左へ半尺ずれた。
「照明まで偏るのか」
「左の人への配慮よ」
左にいたガルドが、右へ寄った。
泣き声が、さらに奥から来る。
「うぅ——」
ドワーフの一人が、すぐ足を止めた。
「また来た」
アランが鞘の中で、厳粛な剣鳴を出す。
「天野陸、吾を抜け」
「悪霊を斬れるのか」
「お前が先を歩くときの自信は増やせる」
奥へ近づくほど、泣き声は混ざる。
前にいることも、頭上にいることも、たまに背後から響くこともあった。ジェリーは背負い袋へ縮み、丸い気泡を二つ、布の縫い目に貼りつけている。
曲がり角を一つ過ぎたところで、フィアの杖が突然消えた。
闇が落ちてくる。
ガルドの後ろで、誰かが息を吞んだ。
岩壁の向こう側からも、同じ息吞みが聞こえた。
「真似している」とロック。
「声を出すな」ガルドが小さく言う。
僕たちは同時に息を止めた。
岩壁の向こうが、しばし静かになる。
それから、三度の打撃が響いた。
どん。
どん。
どん。
ガルドが槌を握りしめる。
「以前は叩かなかった」
僕はアランを抜いた。
銀白い剣身が闇の中に微光を浮かべる。坑道全体は照らさない。だが右側の岩壁に、細い金線が現れた。
扉の隙間のようだ。
「この後ろに道がある」とアラン。
「地図にはない」
「封じられているだけだ。存在しないわけではない」
僕は岩壁に顔を寄せる。
内側がまた三度叩いた。今度はずっと急だ。
ロックが耳を貼りつける。
「残響じゃない。人がいる」
ガルドの顔色が変わった。
「旧通気坑だ」
半年前、藍晶層を開いたとき、主坑道が一度崩れた。行方不明は出なかった。それで脇の小さな通気坑を行き止まりとして封じたのだ。
だが今、壁の向こうには確かに何かが叩いている。
金線を辿り、いちばん薄い位置を探す。
ガルドが槌を振り上げた。僕も予備の短い鶴嘴を握る。
帰巣炉は宿屋に遠く、確かに助けにはならない。
ガルドが先に一打。足は安定し、力は肩背から槌頭へ落ち、無駄がない。
僕は彼の姿勢に合わせて両足を直し、鶴嘴を振り下ろした。
石屑が飛ぶ。
ガルドが僕を一目見る。
「練習したか」
「していない」
「さっきの打ち方だ」
「盗み学びか」
「なら、料金だ」
二打目はそれほど正確ではなかった。親指の付け根が痺れる。
これは帰巣炉の新しい能力ではない。
見よう見まねだ。本当に使える域には、まだ遠い。
交代で岩壁を掘る。
最後の石板が倒れたとき、冷風が割れ口から猛然と噴き出した。
泣き声が突然大きくなる。
百を超える声が闇の中で同時に嗚咽した。
フィアの照明が再び灯る。
割れ口の向こうに、閉じ込められた鉱夫はいなかった。悪霊もいなかった。
岩壁一面に、半透明の青い結晶が生えている。
冷風が結晶の群れを抜け、晶片が互いに震え、高低の違う泣き声を出す。先ほどの打撃は、風に押されて壁へ往復していた旧鉱車だった。
ガルドは、長いあいだ立っていた。
「半年、石に脅されていたのか」
アランが言う。「正確には、音楽の才能がある石にな」
フィアはもう袖を離し、晶壁の前へ歩いていた。
目を閉じてしばらく聴き、ポケットから観測紙を一枚出す。
「石の問題じゃない」
「では何だ」とガルド。
「風口が狭すぎて、向きも乱れている。少し時間をくれれば、声を変えられる」
彼女は杖を上げた。
僕はすぐ押さえる。
「先に言え。崩れるか」
「崩れない」
「飛ぶか」
「鉱洞は飛ばない」
「昨日も屋根は飛ばないと思っていた」
彼女は考えた。
「じゃあ、いちばん小さな風からにする」
今度は、勘で魔力を増やさなかった。
地面にしゃがみ、紙片で風を一箇所ずつ試し、ガルドに指二本幅の小孔を二つ掘らせる。
最初の風を送ると、泣き声はしゃっくりになった。
二番目の風で、晶壁全体が金切り声をあげる。
フィアは耳を押さえ、孔をやり直した。
三度目、低い泣き声がゆっくり伸びる。
晶片が一枚、先に鳴った。
次いで二枚、三枚。
澄んだ音符が岩壁を層ごとに伝い、誰かが地底で巨大な竪琴を弾いているようだった。
鉱洞の外から、さらに多くのドワーフが音を辿って走ってくる。
ガルドは藍晶を撫で、目が少しずつ明るくなる。
「風鳴晶だ」
「高く売れるか」と僕は聞いた。
「先に金の話はするな」
彼は振り返り、僕の肩を掴んだ。
「お前の宿屋は、どれほどの屋根を直す」
「半分だ」
「塔は」
「半分崩れている」
「塀は」
「穴もある」
ガルドの笑みが、だんだん濃くなる。
「職人十二名。明朝着く」
僕も笑った。
「費用はどうなる」
「鉱を救った。工賃は無料だ」
宿屋の経験から言えば、相手が特定の項目を無料だと強調したときは、ほかの項目をすぐ確認した方がいい。
だが鉱洞の奥でまた音楽が響き、ドワーフたちはすでに歓声をあげていた。
ガルドが胸を叩く。
「屋根どころか、五十年立つ塔を建ててやる!」
翌日の朝、石材と道具を積んだ小車が十二台、旧風笛の門外に停まった。
ガルドはまず宿泊名簿を渡した。
それから、もっと長い紙をもう一枚。
いちばん下に太い筆でこうあった。
材料費、道具摩耗費、運送費、食費、酒代前払い。
合計、銀貨四十七枚。




