北境病院の最初のベッド
宿屋を病院にする最初の仕事は、病床を並べることではなかった。
元の宿泊客に場所を見つけることだ。
旧風笛亭の東倉には冒険者十二名、商隊の番頭九名、晴風へ公演に来たドワーフ楽団が一隊いた。
事情を話すと、楽団の鼓手がまず聞いた。
「ゴブリン劇場の楽屋へ移して、部屋代は戻るか」
「残り八日は全額返す。仮の敷きに住むならさらに半額」
「楽器が壊れたら誰が償う」
「預かり票どおり」
「なら同意する」
彼の承諾は、どの外交代表よりも速かった。
本当に厄介だったのは商隊の番頭たちだ。襲われた狼人商路を走り終えたばかりで、旅灯の保護がない仮宿舎へは行きたくなかった。
ルミラは学校の休暇空室を出し、セインは巡回隊の夜番を増やし、僕はさらに三日分の湯代を免除した。
「最後の項は宿泊ギルドを通していない」とルミラ。
「湯だけだ」
「四十七人の湯です。またやりましたね」
僕は減免を消し、宿屋が半分、医療準備金が半分を持つ形に改めた。
善意を帳へ書いたあとは、たいてい口にしたときより重い。
東倉はその午後、空になった。
ガルドが人を連れて間仕切りを壊し、ドーンが折りたたみの鉄ベッドを二十台送ってきた。樹霊の薬師は干した消臭葉を敷き、河民は城渠から清水の支管を一本入れた。
最初の通水で、水は病棟の床をそのまま越えた。
デラが入り口に立ち、裾が膝まで濡れている。
「誰が排水溝を上り坂にした」
ガルドは床に伏して、長く見た。
「旧倉の基礎が沈下している。図面は平らだ」
「水は図面を見ない」
「だから液体が嫌いだ」
ジェリーは興奮して水へ飛び込み、体をすぐに青い大毛布へ膨らませた。汚泥を食べ、洗い終えた靴下も三足、体内へ巻き込んだ。
「靴下を出せ」と僕は言った。
「ぽ」
「病棟物資だ」
長く迷い、二足半を吐いた。
病院準備の最初の実行は、床の洗い直しで終わった。
アオカエデは病棟と器械室を分けろと主張し、ドーンは鉄扉が二枚余計に要ると言った。河民の医士ソウヨウは各ベッドの脇に水盤を置けと求め、ガルドは計算のあと、床の耐荷重が足りないと言った。
「安く、速く、頑丈に」彼は指を三本立てる。「二つ選べ」
「頑丈と速さ」と僕は言った。
「金は」
「七方が共同で出す」
七つの円卓がはじめて病院予算を話したとき、空気は駐屯の議論より危険だった。
狼人は護衛を引き受けるが、薬師の給金は出したくなかった。
樹霊は薬を出すが、薬草は林庭価格で換算しろと求めた。
ドワーフは器械を出すが、所有権は山城に帰属させねばならない。
竜谷は急患の空輸を引き受けるが、地上の病床は持たない。
波止場商人は、外族の負傷者から倍額を取れと提案した。
アオカエデはその場で薬箱を閉じた。
「病人が熱を出しているとき、族籍はない」
「薬草には値段がある」
「だから料金は収入と傷の具合で取る。耳や翼では取らない」
ノヤは北境商路の通行料の二割で医療金を作ると提案した。カロは反対した。
「道もできていないのに、先に金を取るのか」
「道が人を傷つけるからこそ、先に薬代を残す」
兄妹は最後まで争い、一歩ずつ下がった。
通行料は一割だけ引き、七方は実際に使ったベッドで補う。払えない者は看護、清掃、その後の公共労働で相殺できる。ただし救急は、先に保証金を聞いてはならない。
僕は最後の採決には加わらなかった。
そのとき、牛角牧場の最初の蹄熱患者が着いたからだ。
戦士ではなかった。
子供六人と、老牧人が一人。
高熱と脱水で、普通のベッドは牛角族の体重に耐えず、折りたたみベッド二台は人を載せたとたん中央へ曲がった。
ドーンはそれを見て、器械の所有権を争わず、工房へ戻って支架を溶接しに行った。
ガルドは廊下の長椅子を外した。
「幅広のベッドを四台。今夜要る」
「速さと頑丈は二つしか選べないと言ったばかりだろう」
「今度は安さはいらない」
ガンドが連れてきた家族は、だが樹霊の薬を使うことに同意しなかった。
「去年、根林の解熱汁で発疹が出た」
アオカエデは彼らが無知だとは言わなかった。
まず薬汁を自分の腕に塗り、ソウヨウに反応を記録させた。
「あのロットは雨季の赤苔が混じっていた。ここの瓶には採取地がすべて書いてある。傍で見ていていい。どう調合するか」
ガンドは薬卓の前に座った。
一晩中、守った。
明け方、いちばん小さい牛角の少女が熱を下げた。目を覚まして最初にしたのは、ベッド脇の浄水で蹄を浸してよいかと聞くことだった。
ソウヨウはいいと言った。
ガルドは床がだめだと言った。
最後にジェリーが青い足湯になり、代価は清掃用の塩を半袋もらうことだった。
「ぽ」
「値上げしている」と僕は言った。
三日後、臨時病院にはベッド四十、処置室が二間、器械を蒸すドワーフのボイラー一座、ガルドが二寸掘り下げ直した排水溝があった。
正式な新院址は晴風の北門外に決まった。
樹霊が薬圃を、河民が水網を、ドワーフが器械を造る。狼人は遠地の病人を送り、羽民は検査試料を送り、牛角族は広い扉の病棟を建て、竜谷は緊急空輸だけを約束し、戦闘護衛は出さない。
各家が持ってきたのは贈り物一通ではない。
条件、給金、所有権、引き受けたくない部分もある。
最初の病院札が上がったとき、東倉にはまだ取れない月豆の匂いが残っていた。
ドウリンのドワーフ楽団は銅の鈴を一つつけ、患者が快復して退院するとき一度鳴らせと求めた。
最初に鈴を鳴らしたのは、その牛角の少女だった。
力が強すぎて、槌が飛び、扉際の壁を割った。
ガルドはすぐに修繕票を僕へ渡した。
僕は壁のひびを見た。
「病院開きの最初の支出か」
「違う」ガルドが門外を指す。
羽民が一人、高空から急降下し、背に火傷の幼竜を縛っていた。
幼竜の翼膜は焦げ、爪には切れた風鈴の縄が巻いてある。
ランゼルがそのあと着地し、息が荒い。
「白脊山の雷雲で幼竜が三匹行方不明になった。一匹は見つけた」
彼女は焦げた結びを卓に置く。
「旧鉱塔の航標が、人に外されていた」




