辺堡の七つの文書
鴉嘴堡には扉が三道ある。
正門には兵士二十人、側門には警鈴が二層、排水門はジェリーより少し広いだけだ。
アランが見終え、言う。
「選択は明白だ」
「側門か」
「正門だ。堂々たる伝説の聖剣は、排水溝を潜らない」
半刻後、僕はそれを排水門へ押し込む。
「鍔が嵌まった!」
「声を抑えろ」
「これは構造設計による古代遺物への悪意だ!」
ジェリーが先に隙間からすり抜け、門軸の錆を飲む。僕は以前ガルドと排水渠を直したときの手つきで探り、石槽の緩んだ位置にすぐ触れる。肩を低くして一押し、排水の格子が音もなく内側へ倒れる。
六人小隊は僕、フィア、セイン、カロ、リシャ、アオカエデ。
ベリーは山の向こうの廃採石場に残した。不満そうだったが、緑の風炎が見えたときだけ応えると約束した。
「先に火を噴くな」出発前に言った。
「赤が見えたら」
「なおさらだ」
「青は」
「フィア、合図棒を没収しろ」
堡の中は、思ったより空だった。
兵士の大半は夜通し白脊山へ回されたらしく、守衛は二隊だけ残っている。フィアが風を廊下の角へ押し、足音が壁際まで来ると反対側へ送られる。
最初の施法で、風が閉まりきっていない扉を一枚押した。
扉の向こうで兵士二人が同時に顔を上げる。
僕がアランを押さえ、カロはすでに飛びつき、毛布で一人を覆う。セインが巡察徽章を出し、低く言う。
「王国辺境の合同密輸取締。静かにしろ。事後に異議は申請できる」
もう一人の兵士が二息、固まる。
アオカエデの沈眠粉が鼻先へ落ちる。
「なぜ異議まで説明する」と聞く。
「手順が完備している」
「聞こえたか」
「原則として聞こえた」
フィアが追う苦いタールの匂いは廊下を抜け、堡内の地下牢で止まる。
下層の鉄扉に赤い法陣が一周、覆っている。鍵穴の周りにこじった跡はない。カロが耳を扉へ当て、中で誰かが咳をするのを聞く。
「ノヤ」
刀を握る手が震えている。
アランが鞘から一寸滑る。
「ついに吾にふさわしい仕事だ」
「軽くやれ。中に人がいる」
「魔王の王冠を斬った剣に、扉の開け方を教えるな」
それが指す金線に沿って斬り下ろす。
法陣は割かれた赤い布のように、舌に沿って両側へ裂ける。爆発も轟きもない。鉄扉が小さく弾いただけだ。
「痛い痛い——」
「どこだ」
「法陣の縁に逆棘がある! 抜くときは遅くしろ!」
威厳は一息も持たなかった。
扉の向こうに商人六人が閉じ込められている。
ノヤは額に布を巻き、左手は脱臼している。カロを見て最初に言ったのは、
「壊れた橋を先に直せ」
カロが彼女を起こす。
「死にかけた」
「だから刀を買って解決したくない」
ほかの五人も生きている。一人は矢傷で熱があり、二人は沈眠花を吸いすぎている。アオカエデがすぐ傷を処理し、鏃から銀灰の粉を一層削る。
「ドワーフの鋲を磨った粉だ。矢に塗ったのは、証拠を残すためだけ」
牢の外から角笛が聞こえる。
堡へ入るときに気絶させた兵士が、薬師の予想より早く目を覚ました。
「鼻が大きいと言った。量は一割足すべきだった」アオカエデが薬瓶をしまう。
「植物は鼻の判断も間違えるの」フィアが聞く。
「風法師は方向の話をしない方がいい」
退避路は兵士二隊に塞がれている。
セインが廊下の中央へ歩き、王国公文を広げる。
「赤盾公国はアスタ王国および北境の商人を不法拘禁している。負傷者の引き渡しと、関連文書の保全を求める」
守堡の士官が剣を抜く。
「ここに商人はいない。お前たちは越境の盗賊だ」
「なら後ろの牢扉の中は何か」
「軍務機密だ」
「橋を直せと要求する軍務機密は、珍しい」と僕は言った。
最初の弩矢が飛んできたとき、フィアの風壁が半尺ずれる。
矢は吹き戻されず、壁に沿って側面へ回る。
リシャが空中で矢を受け、翼が石の頂を掠める。
「次は風が曲がると先に言って!」
「今、ここの壁が斜めだとわかった!」
カロと僕が狭い口を守る。この数ヶ月セインと訓練した剣術は、もう一招ごとに他人の手触りを借りなくて済む。それでも赤盾兵士の盾壁は、僕たちを少しずつ地下牢へ押し戻す。
金で人を脅す傭兵ではない。
訓練が完備し、連携の熟れた正規軍だ。
アランが盾壁の足元の隙間を見つけ、僕が一剣で前列の盾帯を切る。カロは追撃せず、負傷者を引いて下がる。
それは彼自身の選択だった。
堡外に急に緑の風炎が上がる。
こちらが上げたものではない。
ベリーは待ちきれず、許可にいちばん近い色を自分で選んだらしい。
幼竜が堡頂の廃された吊橋を突き破り、着地で積雪の列を落とす。
「緑! 見えた!」
「自分が噴いたんだ!」
火は噴かず、尻尾で路を塞ぐ木枠を掃くだけだった。乱れた隙に吊橋へ退き、リシャが綱を持って先に跳び、フィアが落ちる風を斜面にする。
今度、方向は正確だった。
全員が風に沿って堡外の雪坂へ滑り、ベリーが最後に飛び立つ。爪の下には錠の掛かった公文書箱がある。
「路で拾った」
「書記室の屋根から拾ったのか」
「屋根が自分で壊れた」
三号分駅へ戻っても、「偽造陰謀」と書いた日記は一冊も見つからない。
箱の中にあるのは、まだ使い切っていない契約紙が七重ね、各族の印を試した蝋片、赤盾軍需処が辺堡へ出した番号一覧だけだ。
セインが受け取った七通の招待と照合し、一晩かかる。
「偽造文書が一通ではない」夜が明けたとき、文書を食卓いっぱいに広げる。「七組だ」
狼人向けの版は、ドワーフが商路を断つ準備をしていると書く。
ドワーフ向けの版は、樹霊が鉱井を毒する計画だと書く。
河民向けの版は堰を約束し、樹霊向けの版は堰を壊すと約束する。
竜谷向けの空域線は、羽民向けの航路線と完全に重なる。
各組の文書は、最後の本物の署名だけが足りない。
ノヤが傷のない手で最後のページまで繰る。
「捕まったのは、赤盾兵士がドワーフの矢を壊れた橋の際へ置くのを見たからだ」
カロは長く黙り、角頭の鋲を火鉢へ投げる。
旅灯が、そのとき急な応答を送ってくる。
赤盾使節が晴風へ着いた。
正式な「商路保護約」を七通持ち、七方の代表に別々の部屋で署せと求める。
使者が出した期限は、明日の日没までだった。




