まだ生きている帰途
白脊山を離れた翌日、狼人の商路はまた襲われた。
壊れた橋へ着いたとき、雪の中に残っていたのは焼けた貨物車三台だけだった。
カロが轍の際にしゃがみ、角頭の鋲を一枚拾う。
「石背ドワーフの車甲鋲だ」
ドーンが一把奪い取る。
「山城はたしかにこの鋲を使う。北境の鉱車三台に一台も使う。これだけでこちらだと言うのか」
「証拠だと言っている」
「先に刀へ手をやったのはお前だ」
カロの手が柄で止まる。
空気に焦げた皮と融雪の匂いがある。
護路隊は血だまり六箇所、乱れた足跡十七ヤードを見つけた。行方不明はノヤと商人五人。車上には晴風へ運ぶ予定の薬塩と皮革があった。
遺体はない。
本来なら、良い知らせだ。
だが荒原では、遺体が見つからないのは、きれいに食べられただけかもしれない。
「矢は東側の林坂から来た」セインが車板に嵌まった矢を抜く。「桿はドワーフ山城でよく使う黒松、尾羽は高地のものだ」
ドーンが冷笑する。
「下手人が矢に住所を書くところまで、あと少しだ」
アオカエデが車際の折れた灌木を調べる。
「血に沈眠花が混じっている。根林は大型の負傷者の痛み止めに使う。矢には塗らない。量が高すぎる」
証拠が多すぎる。
一件ずつが北境の一族を指し、揃えると、僕たちの利害表を見て材料を用意した者のようだった。
カロが短剣を鞘へ戻す。
「先に人を探す。暗くなるまでに見つからなければ、護路隊を連れてドワーフの鉱路を封じる」
「路を封じれば、山城も塩道を封じる」ノヤの使用人が一人言う。「最後はちょうど、誰も白脊山を通らなくなる」
フィアが焼けた車頂へ上がり、探風を三筋放つ。
風が峡谷に沿って分かれ、二筋はすぐ散り、最後の一筋だけが北へ折れる。
「六人がここから連れていかれた。綱に苦いタールがついている。匂いは半日残る」
「どれくらい」
「風は、少なくとも山口を越えたと言う」
赤盾公国の方向だ。
痕跡を夕方まで追い、旧王道脇の三号旅灯で止まる。
この分駅はもともと自動人形が手入れしていた。今は郵便八人と路医二人が住んでいる。広間にベッドは十二床しかないのに、商路途絶で滞留した客が十七人、すでに押し込まれている。
分駅の管理者が鍵をカウンターへ叩きつける。
「物置しか残っていない。六人まで。竜は受けない」
ベリーが門外から鼻を入れる。
「屋根で寝る」
「屋根は荷重料が別だ」
「まだ子供だ」と僕は言った。
「子供が昨日、二日分の燻肉を食べた」
最後にベリーは貨物小屋で臨時の停泊証を得た。僕は旅灯の前に立ち、目を閉じる。
以前、帰途は晴風の炉火の近くでしか、住民の方向を指せなかった。
第二巻で分駅三箇所を通したあと、旅灯の中で遠い住民を感じることが、たまに出始めた。雨夜の向こうに窓が一枚見えるように、誰かがそこにいるのはわかる。誰かは見えない。
ノヤは晴風の住民ではない。
旧風笛に一晩泊まり、翌日チェックアウトして出ていっただけだ。
帰巣炉の規則では、客でしかない。
「見つからなくても無理しないで」フィアが隣に立つ。「帰途は捜索魔法じゃない」
「わかっている」
手を旅灯の温かい外殻へ置く。
炉火は見知らぬ者を探してはくれない。
何も見つからない。
火の中にあるのは、まだ晴風の住民である方向だけだ。ノヤが旧風笛へ預けた紫の花の皮箱、まだ受け取っていない部屋札、戻って取りに来ると言った約束も、客を住民にはできない。
規則は、急いでいるからといって道を譲らない。
そのとき、高い窓の外から急な翼の音がする。
リシャが夜色から広間へ降り、紫の皮箱の裏地の一切れを卓へ置く。
「フィアが残した苦いタールの匂いを山口まで追った」息を切らして言う。「北坂の茨に、これが結んであった」
カロが布切れを一把取る。
裏地は固結びが六つ、いちばん末の結びに新しい血がついている。
「ノヤが箱を縫うときは、この紫糸だけを使う」と彼は言う。「六つの結びは狼路商人の救援記号だ。六人は生きている。北北東へ連れていかれた」
フィアがすぐ地図を広げる。
「方向は」
リシャが赤盾国境の鴉嘴堡を指す。
セインが眉を寄せる。
「あそこは公国の廃された道路税関だ」
「廃税関は夜に巡回灯を十二、点けない」リシャが高い窓を押し、遠い山腹を指す。
カロはすでに立ち上がっている。
「人を連れて行く」
「護路隊が越境すれば、狼人が公国の辺堡を襲ったことになる」セインが言う。「相手はそれを待っている」
「ノヤをあそこに置けと言うのか」
「置けとは言っていない。人を救うことを開戦の理由に書くなと言っている」
二人が互いを睨む。
僕は卓上の部屋札を並べ直す。緊張しているとき、こういうことをすると、少なくともいちばん悪い案を先に押さえられる。
「六人の小隊だ」と僕は言った。「族旗は持たない。正門は通らない。人が中にいると確認したあと、セインが王国巡察官として差し押さえられた商人の査験を求める」
カロが聞く。「拒まれたら」
アランが鞘の中で喉を清める。
「伝説の聖剣が得意な部分だ」
「外交が得意なのか」
「外交を拒む扉の考えを変えるのが得意だ」
出発前、ルミラが旅灯経由で晴風の消息を送ってくる。
襲撃の知らせは、すでに広がっている。
ドワーフの鉱車は南門で停まり、狼人の商路へ入ろうとしない。樹霊の林廷は薬材の輸送を止めた。北境七方はまだ会議をしていない。第一巡の互いの封鎖は、すでに始まっている。
「在庫は何日持つ」と聞く。
「常用薬は九日、熱を下げる樹脂は四日だけ。また自分で片付けると引き受けないで」
「引き受けていない」
「少し止まった」
「風が強いだけだ」
「なら風法師に証明させて」
フィアが旅灯へ顔を寄せる。
「風は強くない。彼、後ろめたい」
連絡を切り、臨時の部屋札六枚を同行者へ分ける。
リシャが標した匂いの方向は、まだある。
細く、遠く、北北東から苦いタールの匂いを送ってくる。
「布切れを結んだとき、彼女は生きていた」カロに言う。「ほかの五人も一緒に連れていかれた」
「保証できるのか」
「できない」
アランを締め、分駅の大門を押す。
「だから今、自分の目で確認する」
夜雪が旧王道へ落ちる。
鴉嘴堡の方向で、巡回灯十二が急に一つずつ消えていく。
最後に残ったのは堡頂の赤盾旗一面だけで、月光の下、ゆっくりこちらへ向きを変えた。




