↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銅貨一枚で廃駅舎を買っただけなのに、魔物の荒野で国ができてしまった  作者: Karr


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/83

まだ生きている帰途

白脊山を離れた翌日、狼人の商路はまた襲われた。


壊れた橋へ着いたとき、雪の中に残っていたのは焼けた貨物車三台だけだった。


カロが轍の際にしゃがみ、角頭の鋲を一枚拾う。


「石背ドワーフの車甲鋲だ」


ドーンが一把奪い取る。


「山城はたしかにこの鋲を使う。北境の鉱車三台に一台も使う。これだけでこちらだと言うのか」


「証拠だと言っている」


「先に刀へ手をやったのはお前だ」


カロの手が柄で止まる。


空気に焦げた皮と融雪の匂いがある。


護路隊は血だまり六箇所、乱れた足跡十七ヤードを見つけた。行方不明はノヤと商人五人。車上には晴風へ運ぶ予定の薬塩と皮革があった。


遺体はない。


本来なら、良い知らせだ。


だが荒原では、遺体が見つからないのは、きれいに食べられただけかもしれない。


「矢は東側の林坂から来た」セインが車板に嵌まった矢を抜く。「桿はドワーフ山城でよく使う黒松、尾羽は高地のものだ」


ドーンが冷笑する。


「下手人が矢に住所を書くところまで、あと少しだ」


アオカエデが車際の折れた灌木を調べる。


「血に沈眠花が混じっている。根林は大型の負傷者の痛み止めに使う。矢には塗らない。量が高すぎる」


証拠が多すぎる。


一件ずつが北境の一族を指し、揃えると、僕たちの利害表を見て材料を用意した者のようだった。


カロが短剣を鞘へ戻す。


「先に人を探す。暗くなるまでに見つからなければ、護路隊を連れてドワーフの鉱路を封じる」


「路を封じれば、山城も塩道を封じる」ノヤの使用人が一人言う。「最後はちょうど、誰も白脊山を通らなくなる」


フィアが焼けた車頂へ上がり、探風を三筋放つ。


風が峡谷に沿って分かれ、二筋はすぐ散り、最後の一筋だけが北へ折れる。


「六人がここから連れていかれた。綱に苦いタールがついている。匂いは半日残る」


「どれくらい」


「風は、少なくとも山口を越えたと言う」


赤盾公国の方向だ。


痕跡を夕方まで追い、旧王道脇の三号旅灯で止まる。


この分駅はもともと自動人形が手入れしていた。今は郵便八人と路医二人が住んでいる。広間にベッドは十二床しかないのに、商路途絶で滞留した客が十七人、すでに押し込まれている。


分駅の管理者が鍵をカウンターへ叩きつける。


「物置しか残っていない。六人まで。竜は受けない」


ベリーが門外から鼻を入れる。


「屋根で寝る」


「屋根は荷重料が別だ」


「まだ子供だ」と僕は言った。


「子供が昨日、二日分の燻肉を食べた」


最後にベリーは貨物小屋で臨時の停泊証を得た。僕は旅灯の前に立ち、目を閉じる。


以前、帰途は晴風の炉火の近くでしか、住民の方向を指せなかった。


第二巻で分駅三箇所を通したあと、旅灯の中で遠い住民を感じることが、たまに出始めた。雨夜の向こうに窓が一枚見えるように、誰かがそこにいるのはわかる。誰かは見えない。


ノヤは晴風の住民ではない。


旧風笛に一晩泊まり、翌日チェックアウトして出ていっただけだ。


帰巣炉の規則では、客でしかない。


「見つからなくても無理しないで」フィアが隣に立つ。「帰途は捜索魔法じゃない」


「わかっている」


手を旅灯の温かい外殻へ置く。


炉火は見知らぬ者を探してはくれない。


何も見つからない。


火の中にあるのは、まだ晴風の住民である方向だけだ。ノヤが旧風笛へ預けた紫の花の皮箱、まだ受け取っていない部屋札、戻って取りに来ると言った約束も、客を住民にはできない。


規則は、急いでいるからといって道を譲らない。


そのとき、高い窓の外から急な翼の音がする。


リシャが夜色から広間へ降り、紫の皮箱の裏地の一切れを卓へ置く。


「フィアが残した苦いタールの匂いを山口まで追った」息を切らして言う。「北坂の茨に、これが結んであった」


カロが布切れを一把取る。


裏地は固結びが六つ、いちばん末の結びに新しい血がついている。


「ノヤが箱を縫うときは、この紫糸だけを使う」と彼は言う。「六つの結びは狼路商人の救援記号だ。六人は生きている。北北東へ連れていかれた」


フィアがすぐ地図を広げる。


「方向は」


リシャが赤盾国境の鴉嘴堡を指す。


セインが眉を寄せる。


「あそこは公国の廃された道路税関だ」


「廃税関は夜に巡回灯を十二、点けない」リシャが高い窓を押し、遠い山腹を指す。


カロはすでに立ち上がっている。


「人を連れて行く」


「護路隊が越境すれば、狼人が公国の辺堡を襲ったことになる」セインが言う。「相手はそれを待っている」


「ノヤをあそこに置けと言うのか」


「置けとは言っていない。人を救うことを開戦の理由に書くなと言っている」


二人が互いを睨む。


僕は卓上の部屋札を並べ直す。緊張しているとき、こういうことをすると、少なくともいちばん悪い案を先に押さえられる。


「六人の小隊だ」と僕は言った。「族旗は持たない。正門は通らない。人が中にいると確認したあと、セインが王国巡察官として差し押さえられた商人の査験を求める」


カロが聞く。「拒まれたら」


アランが鞘の中で喉を清める。


「伝説の聖剣が得意な部分だ」


「外交が得意なのか」


「外交を拒む扉の考えを変えるのが得意だ」


出発前、ルミラが旅灯経由で晴風の消息を送ってくる。


襲撃の知らせは、すでに広がっている。


ドワーフの鉱車は南門で停まり、狼人の商路へ入ろうとしない。樹霊の林廷は薬材の輸送を止めた。北境七方はまだ会議をしていない。第一巡の互いの封鎖は、すでに始まっている。


「在庫は何日持つ」と聞く。


「常用薬は九日、熱を下げる樹脂は四日だけ。また自分で片付けると引き受けないで」


「引き受けていない」


「少し止まった」


「風が強いだけだ」


「なら風法師に証明させて」


フィアが旅灯へ顔を寄せる。


「風は強くない。彼、後ろめたい」


連絡を切り、臨時の部屋札六枚を同行者へ分ける。


リシャが標した匂いの方向は、まだある。


細く、遠く、北北東から苦いタールの匂いを送ってくる。


「布切れを結んだとき、彼女は生きていた」カロに言う。「ほかの五人も一緒に連れていかれた」


「保証できるのか」


「できない」


アランを締め、分駅の大門を押す。


「だから今、自分の目で確認する」


夜雪が旧王道へ落ちる。


鴉嘴堡の方向で、巡回灯十二が急に一つずつ消えていく。


最後に残ったのは堡頂の赤盾旗一面だけで、月光の下、ゆっくりこちらへ向きを変えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。