穀倉は燃やせない
三日後に糧倉を焼く者が来ると知って、いちばん面倒なのは守ることではなかった。
知らないふりを続けることだ。
セインは一分間の録音を十二回聞いた。
「声はアイザック会長に触れている。だが上層の指令だと単独では証明できない。借り名かもしれないし、実行者の理解だけかもしれない」
「捕まえて尋問する」
「行動を、犯罪として足りるところまで起こさせ、糧倉は本当に燃やせない」
ガルドが卓を叩く。
「人を倉へ入れ、落石の扉を造る」
ルミラが首を振る。
「糧倉は罠場ではありません。落石は乾燥鈴を壊し、埃は種子を汚す」
フィアは糧を全部、先に空にしろと言う。
「火を入れたあと空倉だとわかり、それから捕まえる」
「千六百人あまりの三日分の糧を、どこへ運ぶ」ルミラが聞く。
道路が連れてきた仕事で、人口は増え続けている。宿屋に入りきれない新来者は、順に建てた半地穴の家と広い扉の石屋へ住み、公共厨房三箇所が毎日同時に火を入れる。
糧倉にあるのは、荷の山ではない。
全鎮が冬を迎える前の朝食だ。
需要ははっきりしている。糧、人、証拠を守る。
ガルドは補強しろと言う。
フィアは移せと言う。
セインは法どおり捕まえろと言う。
僕は先に聞く。「火が出たとき、宿屋の宿泊客を起こすのは誰だ」
数人が僕を見る。
「糧倉は旧風笛から二筋の通り。相手は混乱を作る。一箇所の警報では足りない」
学校は開講して半月だ。生徒には子供も成人見習いもいる。危険区域に残せないし、計画を全鎮へ知らせることもできない。
そこで対外的には、最初の夜間消防演習を行うと発表した。
最初の演習は、たいへん失敗した。
反響レンガが糧倉で鳴ったあと、東通りが聞いたのは「北門集合」、西通りが聞いたのは「集合するな」だった。ゴブリンの合図係が鑼をまちがい、三百人が水桶を持って公共便所へ走り、ジェリーは汚水桶の列を見てその場で逃げた。
生徒は教師の指示で退避したが、二十七人が宿舎へ荷物を取りに戻った。
旧風笛の宿泊客は、さらに直接だった。
半分は下り、半分は扉を内側から鎖し、商人三人が先に退室料を要求した。
「演習も宿泊不能だ!」と彼らは言う。
保証金を返しながら、宿泊簿に退避を拒んだ部屋を標す。
演習の終了に一時半かかった。
本物の火なら、糧倉を三度焼ける。
もうスローガンは叫ばない。
反響レンガは三つの文だけを録る。どの建物か、どの危険か、どの路へ退避するか。風鈴は街区ごとに音高を変え、ゴブリンの合図係は即興をせず、色札どおり叩く。学校は部屋へ物を取りに戻るのを禁じ、教師が部屋名簿を持って集合点で一人ずつ印をつける。
旧風笛は各階に夜間の誘導係を一人置く。
予備の鍵を階ごとに並べる。退避拒否はできる。本物の火災を確認したあと、誘導係には扉を開ける権限がある。
「宿泊客のプライバシーに反する」セインが言う。
「だから宿泊規則に書く。火災、倒壊、明確な生命の危険に限る」
「原則として緊急例外にできる」
「次のページに書くな。フロントから見える場所に書け」
糧倉も変えた。
ガルドは落石の扉を造らず、外壁に防火層だけを足す。河妖が水路を倉頂の散水槽へつなぎ、ジェリーは燃えやすい油跡を取り除く係で、便所は担当しない。ルミラは種子糧、食用糧、運送待ちの糧を分け、一室が燃えても全壊しないようにした。
フィアが屋根に風向きの綱を張る。
「煙は空地へ導ける」
「火を大きく吹いてはいけない」
「だから煙だけ」
今回、自分は二つともできるとは言わなかった。
行動の夜、晴風はいつもどおり営業する。
旧風笛に見知らぬ護衛が九人泊まった。証明書は揃い、支払いは早い。うち二人が裏口に近い部屋を要求した。
いつもどおり登録する。
「危険物は」
「短剣」
「ほかは」
「ない」
荷物から松脂の匂いがした。
開けはせず、部屋番号を一階にした。アランがカウンター下で低く言う。「奴らの体に、道を遮断する小さな結界がある」
「切れるか」
「発動を待てば、見えやすくなる」
夜、九人が三組に分かれて店を出る。
第一組は糧倉の裏口へ行った。
第二組は水路の閘門を回る。
第三組は宿屋に残り、大門を鎖そうとする。
一本の火を付けに来たのではない。
消火する者を、着けなくするのが目的だ。
宿屋に残った傭兵が鉄栓を差し込んだところで、僕はカウンター後ろから立つ。
「宿泊規則第八条、公共の出口を勝手に鎖してはならない」
彼が短剣を抜く。
「店主、今夜は見るな」
「いい。先に壊した門栓の金を払え」
アランが鞘を出る。
短剣の灰光が広がり、廊下が急に引き伸ばされる。階段は十歩先にあるはずなのに、宿泊客はどうしても着けない。
歪められた出口が見えた。
一剣が走り、灰色の結界が裂け、本物の階段が足元へ戻る。二階の誘導係がすぐ風鈴を叩き、生徒の旅客と商人が東門の路で外へ出る。
傭兵が突っ込んでくる。
僕はセインが普段の訓練で使う歩法を借り、ガルドの木構造の判断も借りた。崩れない床の節に足を置き、刃先を身を開いて避け、アランの峰で手首を打つ。
ほかの二人は、僕が片付けるのを待たなかった。
隻眼の弓手が階段上から一人の帯を射切り、ロックが路掃きの綱で最後の一人の足を絡める。二人は今夜、宿屋の夜巡任務として当番していた。何をすべきか、僕が教える必要はない。
糧倉の方向に火光が上がる。
反響レンガが鳴る。
「北糧倉、外壁出火、人員は青灯に沿って退避」
三つの文。
混乱はない。
学校の教師が生徒を側門から石場へ集め、成人見習いが動きにくい者を担ぐ。セインが自衛隊を連れて裏口を封じ、ガンドと車隊の運転手が近くの荷車を移す。
傭兵は主水閘を先に壊していた。
最初の散水は、水が出ない。
ガルドが予備閘へ飛びつき、鎖が鉄楔で噛んでいるのを見つける。
「アラン!」彼が叫ぶ。
「吾は万能の梃子ではない!」
僕は駆けなかった。
河妖職人がすでに沈砂池の分流門を開けていたからだ。
第一巻で水院を直したとき、洪水で流されたゴブリン舞台が、分流を三道足させた。水が別の水路から倉頂へ湧き、散水槽が一列ずつ灯る。
ジェリーが水流に沿って広がり、地面の燃油を包む。
火は食べられない。油と空気を隔てることはできる。炎が最初の防火壁を越えたとき、フィアが濃煙を空地へ送り、消火する者が扉を見えるようにした。
「右側の風綱が切れた!」誰かが叫ぶ。
彼女は魔力を全部増やさない。
「右壁は捨てる。種子倉を守れ!」
火は外壁の半分を黒くし、運送待ちの糧室の一角が崩れた。
種子糧と食用糧は守れた。
セインが裏口で傭兵四人を捕らえる。ほかの二人は旅灯の路から逃げようとし、ランジャの郵送隊が白楊前駅の上空で見つけ、七号が旧郵便賊用の鉄網を下ろした。
夜明け前、九人は全員捕まった。
住民に重傷はいない。
運送待ちの月豆三百袋が水に浸かり、梁二十七本が傷み、旧風笛の門栓は廃れ、ジェリーは松脂臭い燃油を飲みすぎて、午前中ずっと青い泡を吐いた。
勝利を清算すると、勘定書に似ていた。
傭兵の首領の荷物の内張りから、指令の一通を見つける。
犯罪日記ではない。
商用命令が二行あるだけだ。|倉のリスクを作り、晴風に統一保管を飲ませろ。住民の死亡は出すな。|
下には金穂商盟副会長の署印と、支払い番号がある。
セインが北倉の帳簿写しを照合する。
「番号は本物だ。商盟の上層まで追える」
昼、金色の馬車三台が、焼けた糧倉の前に停まる。
今回、マルコは扉を開ける係だけだった。
車から降りた男は五十歳前後、飾りなしの金褐色の外套を着ている。壁、濡れた糧、鉄網に縛られた傭兵を見てから、僕へ手を伸ばした。
「金穂商盟会長、アイザック」
「天野陸」
握手は短かった。
「今度は、お前が拒めない契約を話しに来た」




