すべての車は晴風を通る
アイザックが交渉したい場所は、議会堂ではなかった。
旧風笛の広間だ。
「お前たちの治安廷はまだ直っていない」と彼は言う。
「糧倉が焼けたばかりだ。職人は先に倉へ行った」
「つまり一鎮の優先は、どこが漏るかで決まるのか」
「たいていそうだ」
二階の五号室を手配する。
アイザックが黄銅の鍵を見る。
「接待を拒むと思っていた」
「部屋代を払い、登録もした。商盟の問題は治安廷で話し、宿泊の問題はカウンターで話す」
「この宿屋を壊したら?」
「先に弁償し、それからチェックアウトだ」
彼は小さく笑った。
晴風へ入ってから、初めての本物の笑いだろう。
交渉卓には六方がいる。
晴風の三ギルド、車隊と冒険者の代表、セインが主宰する王国調査組、金穂商盟、それから値下げの影響を受けた独立商人と農家。
アイザックは先に、副会長が署した放火指令を卓の中央へ置く。
「彼は停職にした。金穂は濡れた糧、倉壁、宿泊客の損失を全部持つ」
「宿泊客の損失ではない」と僕は言った。「宿屋の門栓だ」
「それも払う」
セインが責任確認書を押し出す。
「停職は王国の追及を消さない。傭兵、署令者、支払い人員は公開審理を受けなければならない」
「いい」
アイザックの承諾が早すぎて、かえって警戒が増す。
続いて新しい契約を広げる。
金穂は冒険者の経歴の締め出しを取り消し、晴風製品の買い取り値を戻し、差押え貨物を賠償し、金貨十六枚で残りの旧王道を完成させる。
条件は、金穂が分駅三箇所の十五年優先経営権を得ることだ。
「優先は独占ではない」と彼は言う。「ほかの車隊も通れる」
商業ギルドの代表が、明らかに揺れる。
金貨十六枚あれば学校を建て終え、治安廷と新しい糧倉も直せる。
ルミラが倉の条項まで繰る。
「優先経営のあいだ、あなたたちの倉庫は自分で値を決められる」
「倉庫には規模が要る。安定した見返りがなければ、維持し続ける者はいない」
アイザックは負けを認めに来たのではない。
十分に大きな商盟が一つだけあれば、道は安定すると、まだ信じている。
「署さなければ」と僕は聞く。
「放火の件は審理を続ける。金穂は賠償を払う。だが北西七城の倉庫が晴風車隊へ出している優遇は閉じる。行為はすべて現行契約の範囲内だ」
「まだ圧をかけるのか」
「七十六の小さな車隊が同時に道を奪い、値を乱し、冬に糧を運ぶ者がいなくなるのを避けたい」
彼の心配は、全部が口実ではなかった。
晴風車隊が初めて稼いだあと、鎮には臨時の混載が九隊、すでに現れている。二隊は仕事を取るために予備糧を減らし、一隊は湿った月豆と防音レンガを同じ層へ押し込んだ。規則のない自由な車輪も、道を壊せる。
最初の交渉は、そこで止まった。
晴風は優先倉を受け入れない。
金穂は完全な開放を受け入れない。
独立の車商は統一規格の全廃を求め、ガンドに霧谷で折れた車軸を見せに連れていかれそうになった。
昼食が上がっても、誰も手をつけない。
僕は契約を閉じる。
「先に食べる。午後は駅へ行く」
「交渉は終わっていない」セインが言う。
「何を話しているか、ちょうど見られる」
晴風の駅に、きれいな駅舎はない。
六ヤード幅の砕石場、車の交換架が二列、登録小屋一軒、分駅三箇所へ向かう道路札があるだけだ。
だが場には車が四十三台停まっている。
金穂の大型四輪車、晴風の改造荷車、農家の小さな車、羽民の郵便架が押し合う。よその車夫が運賃を知らず、三つのカウンターを往復して聞いている。
「これが完全に開放したあとの姿だ」アイザックが言う。
「だから規則が要る」と僕は言った。「だが規則は、特定の車隊のものではない」
登録小屋の外で、交渉を再開する。
セインが車両の安全検査を統一し、治安廷が証を出せと提案する。
金穂は鎮内の機関が審判と車隊経営を兼ねるのに反対する。
そこで輪番検査に変える。職人が車両を見、車隊代表が積載を見、荷主が封を見る。三方の署名で初めて効く。規格は公開し、合格した検査場はどれも認証を申請できる。
アイザックは運賃に下限を置き、悪質な値下げを防げと言う。
独立商人は固定価格に反対する。
最後に運賃は固定せず、荷を受ける前に費用を全部公開し、途中で「天候料」「門通過料」など未記載の項目を足してはならないとした。運転手当が払えなくなるまで連続して値を下げた車隊には、救助保険はその欠損を肩代わりしない。
倉の争いがいちばん長かった。
「自由倉は、悪い糧を市場へ混ぜる」アイザックが言う。
ルミラが協同組合の湿度札を卓へ置く。
「なら各倉の容量、料金、損耗、検査記録を公開する。消費者が自分で選ぶ」
「小さな倉は偽る」
「大きな倉も、こちらの荷を押さえた」
最終条項はこう書く。どのギルドも貨物を指定倉へ強制できない。公共糧と緊急物資は駅の無料短期保管を三日申請できる。商業の長期倉は自分で値を決めるが、値段と空きは公開しなければならない。
最後は独占禁止だ。
同じ商号が、一条の路の検査場、唯一の倉庫、輸送力の半分超を同時に握ってはならない。上限に達したあとも経営は続けられるが、施設をほかの車隊へ開けなければならない。
アイザックがその一条を、長いあいだ見る。
「金穂がどれだけ損するか、わかっているか」
「わかっている。晴風も、これから旅灯を独占できなくなる」
「惜しくないのか」
「道がこちらの車だけ通れるなら、麦穂の看板を替えただけだ」
彼が筆を取る。
「お前には同意しない」
「契約は僕への同意を要らない」
「だが金穂は稼ぎ続けられる」
「公開して稼ぐ」
アイザックが名を署す。
誰も金穂商盟を呑み込まなかった。
倉庫、車隊、商号は残し、賠償も負う。副会長は公開審理を受け、アイザックは新設の道路委員会へ入る。席位は、いちばん小さな独立車隊と同じだ。
続く二十七日で、道は本当に直った。
金貨十六枚が空から落ちたからではない。金穂が公開運賃で重車を出し、山城の職人が道具を納め、晴風の魔導牽引車が路盤を圧した。沿道の商隊が先に納めた通行維持費の一部が、最後の九里の工賃を払った。
白楊河口の分駅がいちばん遅く灯った。
最初は水を流して客室へ入れ、ベッドの脚を上げ、排水を作り直した。二度目の宿泊で、当直員が荷の多少で部屋を分け、旅客に集団で苦情を言われた。三度目、宿泊簿はようやく人数、ベッド、実際の必要だけを聞いた。
修理工、羽民の郵便、河妖の当直二人、一晩泊まる商隊が一隊、炉端で食事を終える。
金色の火が上がる。
三箇所の旅灯が、同時に応える。
僕は旧王道の中央に立ち、安全な足場の一つひとつをはっきり感じる。アランが短い金路を切り、光が白楊前駅から霧谷西駅へつながり、河口へ落ちる。
フィアが一晩の追い風のあと、最初の正式な風路旗を駅へ挿す。
「今度、方向は間違っていない」と彼女は言う。
「終点は」
「もっと北へ行く」
王都期限の最終日、交通庁の検収車が晴風へ入る。
六十里の道は全線通行でき、軟基二箇所は維持に入れるが、交易資格には影響しない。学校には生徒が三百十人、冒険者ギルドの登録は二百四十六人、新しい糧倉と治安廷が同時に使い始められる。
人口登録は朝から夜まで続いた。
三箇所目の公共厨房が二巡出しても足りず、駅の待合に仮卓が並ぶ。二千四百の椀を厨房、宿屋、住民の家から寄せ集める。模様は全部違う。入っているのは同じ鍋の月豆煮込みだ。
最後の一件の登録は、白楊前駅の木偶七号から来た。
当直を続けると選び、明日も残ると言った。
セインが数字を都市級申請書へ書く。
|法定常住人口:二千四百。|
王都の検収官が辺境都市の印を押す。
「本日より、晴風鎮は晴風辺境自治都市へ昇格する」
跪く者はいない。
皆、自分の椀を探している。
旧風笛はその夜、満室だった。僕はフィアと三階まで巡房し、湯を二壺足し、ジェリーが飲み込んだ扉の鍵を一本、取り戻した。
広間へ戻ると、誰かが扉を叩く。
門外に、埃だらけの使者七人が立っていた。
狼人、樹霊、ドワーフ、竜谷の使者、河民、羽民、牛角族。各自、緊急印を押した手紙を一通ずつ渡す。
七通の内容は違う。
いちばん上に、同じ一文がある。
|北境七族、晴風の援助を求め、共同盟約の締結を招請する。|




