霧の中の一夜
短い箋を受け取ったとき、僕は客の部屋替えをしていた。
窓の外の羽民が、飛び立つのが早すぎると苦情だ。
十二号の防音室の鍵を渡し、アオバが屋根から降りて、車隊が動く霧に困っていると言う。
宿屋は、先着順を重んじることもある。
重んじられないこともある。
「十二号は値上げなし、朝食はいつもどおり」宿泊簿を夜番の店員へ押し、「アラン、行く」
「車隊の救援に、剣一本か」
「フィアも連れる」
彼女はすでに窓から転がり込み、マントの留めが裏返しだった。
「結論。霧谷は霧が動いているんじゃない。風層が向きを変えて、地面の標識が動いて見える」
「行ったことがあるのか」
「ない。でも普通の霧は、動いていると手紙を書かない」
セインが自衛隊員五人、ランジャが羽民四人。ガルドは修理車に新しく買ったスパナがあるからついてくると言い張り、ルミラは補給を僕たちの袋へ押し込み、同行は求めなかった。
「人を見つけたら、まず無事を知らせて」彼女は言う。「十一人いるからといって、霧谷ごと片付けるつもりにならないで」
その一文は、主に僕とフィアへ向けられていた。
旅灯が僕たちを白楊前駅へ導く。
七号は真夜中に十一人を登録し、乾いた手拭いを一人ずつ渡す。
「夜明け後に霧谷へ入ることを勧める」
「車隊はすでに一日、困っている」
「夜間の事故率は四割高い」
「だから半時辰だけ泊まる。羽民に湯を、ほかは糧を補う」
七号は半時辰単位の宿泊に初めて出会い、手順が長く固まった。
最後に半晩分を取り、朝食は出さず、備考に書いた。|宿泊客が合理的な睡眠を自ら放棄。|
アランはその備考に、たいへん賛成した。
霧谷へ入ると、世界は六ヤードしか残らない。
霧は白ではなく、薄い青を帯びている。風は左から吹き、次の一歩では右から背を押す。ランジャが百歩ごとに輝石を落とす。振り返ると、輝石は斜め後ろに現れている。
「空間術式か」セインが剣を握る。
「折り畳まれてはいない」フィアが手を伸ばして風を読む。「方向が何層にも分かれているだけ。目が見る輝石と、耳が聞く輝石は、同じ場所じゃない」
ガルドは古い石板に沿って歩けと言う。
羽民は霧層の上へ上がって位置を取れと言う。
セインは先に安全綱を結べと言う。
フィアはすでに箒に乗っている。
「上を一目見てくる」
「綱を先に結べ」と僕は言った。
「揚力が落ちる」
「落ちる方が、人を落とすよりいい」
「なくす人の話? それとも顔をなくす人?」
「両方だ」
彼女は嫌そうに綱を結ぶ。
最初の探査は、十息しか続かなかった。
フィアが上へ飛び、安全綱は足元の霧から横へ伸びる。次の瞬間、彼女は右側からガルドの胸へ突っ込んだ。帽子は頭頂の上の霧層に残っている。
「方向は間違っていない」息を切らして言う。「霧が『上』を、臨時に右へ置いた」
ガルドが彼女を押しのける。
「次は、着陸点を俺のひげから移せ」
安全綱は、人が消えていないことを証明した。一本の方向だけでは谷を抜けられないことも証明した。
アランが鞘の中で、休みなく震える。
「ここに道はある。だが入口は、刻一刻と変わる」
「開けられるか」
「十数歩は見える。それより先は、本物の路がまだ形を成していない」
つまり、一剣で霧谷から山城まで切れない。
道は風、地面、人の選択が同時に組まなければならない。
やり方を変える。
ガルドが足元の石板を叩き、残響で本物の路盤を判断する。羽民は輝石を見ず、一定の槌音だけを聞く。セインが安全綱で隊を三つに分ける。フィアは霧全体を吹き散らそうとせず、一刻ごとに風層の変化を告げる。
僕はアランを抜き、目の前のいちばん短い区間だけを開く。
金色の道が、初めて十五歩、灯る。
歩き終えれば消える。
判断し直し、十二歩を開く。
三度目は七歩だけ、四度目は後ろへさえ向いた。短距離の開路は、籠城のときのように全員の帰宅の願いには乗らない。足元に石板があり、前が通れると、何度も確認する必要がある。
一度まちがえれば、金光は同じ歪んだ木へ僕たちを戻す。
木にはフィアの帽子が掛かっていた。
「少なくとも戻ってきた」と彼女は言う。
「この木は三度目の接客だ」
「サービスが安定している証拠」
二時辰後、霧の中から三短一長の槌音が聞こえる。
ガルドがすぐ止まる。
「俺の工房の救援号だ」
音を辿って二十七ヤード歩き、修理車にぶつかる。
車輪は路肩の軟泥に嵌まり、幌の下に六人が押し合っている。ガンドは僕を見るなり、まず帳を一冊渡してきた。
「口糧は六日、水は四日、車の故障一台、人は無事」
「ほかの車は」
「すぐ近くだ。綱で繋いでいる。霧が音を曲げた」
アランの金光が綱に沿って延びる。
七台は実は曲がった輪を作っていた。いちばん遠い一台は、百歩も離れていない。皆は前へ進んでいるつもりで、風層に一日中、回されていた。
人を見つけたのは、第一歩だ。
七台の重車を通すには、十五歩の金路では足りない。
フィアが古い風向き記録三十七枚と、途中で増えた観測紙を広げる。
「霧谷は夜になると、南北に安定した風の縫い目ができる。狭いけど、日出まで続く」
「確かだな」
「確かじゃない。だからここで確かにする」
「日出を待って動くか」
ガンドが首を振る。
「月豆の水膜は、もう一晩しか持たない。日出後、霧が温まれば水膜は散る」
ガルドは先に車輪を直せと言う。少なくとも一時辰。
需要がまた重なる。車を直し、荷を守り、道を探す。全部、夜のうちに終えなければならない。
七台を半円に停め、車灯を外へ向ける。
ガルドが職人と軸を直し、河妖が水膜を封じ直し、セインが車隊を交代で寝かせる。僕は旧風笛のやり方で臨時の寝場所を登録する。各車に何人寝られるか、誰が前半夜を当番し、誰が必ず休むか。
「野外でもベッドを分けるのか」セインが聞く。
「分けなければ、二十人が自分は寝たと主張する」
フィアには先頭車のいちばん奥を残す。
彼女は横にならなかった。
一晩中、一刻ごとに風の羽を一枚放ち、消える方向を記録する。前半夜、風の縫い目は現れては切れ、最初の誘導試験で空車が三十歩ずれた。魔力は増やさず、羽の高さを直し直した。
二度目は八ヤードしかずれない。
三度目、アオバが目を閉じて追い風を一里飛び、同じ縫い目を戻ってきた。
空が白む頃、フィアの手は凍って筆を握れなくなっていた。
「結論」最後の記録を車蓋へ押す。「道はここ」
言い訳もなく、誇張もない。
先頭車の前に立ち、アランを握る。
ガルドが石板を判断し、フィアが風の縫い目を保つ。二つの技能の手触りが同時に意識へ入る。片方は硬く、片方は軽い。初めて、ぶつからなかった。
金光が剣先から敷かれる。
終点まで届く広い道ではない。
二十歩しかない。だが先頭車が進むにつれ、前方に何度も現れ直す。フィアが一晩確かめた追い風を幌の高さへ押し、霧が両側へ八ヤード割れる。
七台が一台ずつ通る。
途中、風の縫い目が一度切れた。
ガンドは僕の命令を待たず、すぐ停まる。ランジャが青煙を上げ、後続が同時に止まる。フィアがより低い風層へ変え、僕は右側の石板を探し直す。失敗を一人に補わせた者はいなかった。
太陽が尾根を越えたとき、最後の一台が霧の壁を出る。
前方は、黒石を敷いたドワーフの山道だった。
城門の衛兵が、泥だらけの車を見て、日付を見る。
「晴風車隊か」
「そうだ」
金穂商盟が到着予定と記した登録を繰る。
「少なくとも十日はかかると言っていた」
ガンドが口を割る。
金塗りのない七台は、約束の三日前に、ドワーフ山城へ着いた。




