三分の一では売らない
金穂商盟が値下げした翌日、晴風が売った煉瓦は二枚だった。
一枚は宿屋が壁の補修に買った。
もう一枚も、そうだ。
三階の十二号室で、ガルドが歌うレンガを壁穴へ押し込むのを見る。槌が一打、煉瓦の中から大きな声がする。「造れる、金は?」
隣室の商人が、すぐ扉を叩く。
「店主! この壁、昨夜四十回、金は? と聞いてきた!」
「今日、解決する」
「一昨日も、そう言った」
ガルドは不満そうだ。
「優秀な建材は、職人の気骨を残す」
「宿泊客には睡眠が要る」
商盟の値下げのあと、工房には歌うレンガが八千枚溜まっていた。窯を止めれば工員四十七人の賃金がなくなる。焼き続ければ、鉱粉、薪、風鳴晶がまとめて在庫になる。
需要は、もっと安く売ることではない。
誰も買い取らないときでも、使い道があることだ。
製造ギルドの案は直截だった。音量を上げて、市場で演じる。
商業ギルドは煉瓦を小さくし、歌う記念品にしろと言う。
ルミラは一句だけ聞いた。「食事に使えますか」
誰も答えなかった。
僕は苦情を言っている宿泊客を指す。
「先に壁を片付ける」
ガルドが低純度の風鳴晶を取り、晶粉の向きを逆にして煉瓦の素地へ埋める。二枚が互いの音を打ち消す、という考えだった。
最初の試験壁は、宿屋の裏庭に積む。
左の一枚はガルドの鼾を学び、右の一枚はフィアが風向きを読む声を録っていた。同時に起動すると、音は確かに小さくなった。
庭の外では聞こえないほど小さく。
庭の中は反響が重なり、二十人のガルドが暴風の中で観測記録を暗唱しているようだった。
ベリーが耳を押さえて小さな火を噴き、試験壁を黒く焼いた。
「失敗ではない」ガルドが叫ぶ。「防音の範囲が壁の外にあると証明した!」
「防ぎたいのは壁の内側だ」
「向きを逆にすればいい」
二度目は、フィアが音を煉瓦の中へ導き、ガルドが晶粉の層を調整する。僕は二人の手触りを同時に借りた。晶粒の震動を見つつ、音流の向きを分ける。
頭が痛く、誰かが脳の中で壁を積んでいるようだった。
だが新しい煉瓦が焼き上がると、十二号室はようやく静かになった。
隣室の商人が、壁に耳を当てて長いあいだ聞く。
「何もない」
「今回、何もないのが利点だ」
防音レンガと呼ぶことにした。
歌うレンガを全部変える必要はない。劇場、市場、時報塔は発声する方を使い、宿屋、医務室、学校は防音を予約する。反響レンガは短時間の警報に直し、封層を叩いて割ったときだけ一分間の記録を再生し、普段は鼾を勝手に学ばない。
最初の注文は、晴風自身から来た。
旧風笛が二十六枚、医務室が四十枚、ゴブリン劇団は百枚注文したあと、うち十枚は拍手を残せるようにしろと要求した。
「自購は儲けではない」ルミラが注意する。
「少なくとも工房は止まらない」
農業の方が、さらに難しい。
倉庫に月豆が三百二十袋ある。金穂の見積もりは低く、一袋売っても来年の種子が半袋しか戻らない。
金のない栽培者が、先に売ろうとした。
「家を直さなければ」灰耳の若者ロピンが言う。「協同組合が後で稼いでも、今夜の雨は防いでくれない」
別の牛角族の栽培者が反対する。「先に安く売れば、商盟はこちらが折れると知る」
ルミラは、全員に従えとは求めなかった。
「協同組合に入る者は、糧を自分の名で記帳し、共同で倉を借り、共同で値を決める。急いで金が要る者は前払いを申請できる。入らなくても、自分で売っていい」
「前払いはどこから」と僕は聞く。
「鎮庫から金貨三枚を借り、農業ギルドが冬の碾き屋の収入で返す」
「鎮庫に残っているのは、道路の金だけだ」
「なら三枚は貸せない」
彼女は僕を見る。また「先に引き受けろ」と言うのを待っているのがわかった。
我慢した。
「金貨一枚。組合員が自分で一枚集め、商業ギルドが将来の運送状で一枚を保証する。三方で持つ」
最初の収糧も、やはり面倒だった。
袋の大きさが違い、湿度が違い、「一袋」がいくらかで半日争った。刈ったばかりの湿った豆を乾いた豆へ混ぜる者がいて、翌日、倉の隅が熱を持ち始めた。
ルミラがその二十袋を全部引き出す。
「木升を統一し、入倉は計量、湿った豆は先に干す。干す畦を踏んだ者は、宿屋のシーツを洗いに行く」
ジェリーはシーツと聞いて、井戸へすばやく隠れた。
風鳴晶で簡易の乾燥鈴を作る。豆の山の温度が高すぎれば、鈴が鳴る。フィアが微風を倉底から通し、河妖の職人が防湿の溝を一道足した。
協同組合は、月豆を急に高くしなかった。
二百戸あまりが、同じ日に、同じ三分の一の見積もりを飲まされなくて済むようにしただけだ。
三日目、青麦鎮のパン屋が金穂の倉庫を避け、直接注文を送ってきた。
値段は往年より一割安いだけだが、晴風が自分で届ける必要がある。
「月豆五十袋、防音レンガ六百枚」商業ギルドの代表が注文を広げる。「代金は金貨二枚と銀貨七枚。道を五里直せる」
「誰が運ぶ」
広間が、また静かになる。
晴風に、自分の車隊はない。
最後に、独立商人十二人が混載に応じた。彼らの荷も最近、金穂に拒まれ、空車を停めていても駄獣は飼わなければならない。
貨物を一件ずつ登録する。
月豆は湿気を嫌い、中央へ。防音レンガは衝撃を嫌い、雲毛を敷く。反響レンガ二箱には赤札を貼り、その場で試聴するのを禁じた。客室を四室空けて車夫に渡し、協力運賃で部屋代は半額、残り半分は到着後の手数料から差し引く。
夜の巡房で、車夫二人がまだ路を突き合わせているのを見つける。
「心配か」
年長の車夫が頷く。
「青麦鎮南口の倉場は金穂のものだ。倉場に入らなければ、城外で卸すことになる」
「パン屋が受け取りに来る」
「来られなかったら?」
「荷を引き戻せば、宿屋は二晩分を返す」
「店主、その癖、まだ直っていないな」
口に出した言葉は引き戻せない。補うしかない。
「ただし飼い葉、手間、車の損耗は返さない。リスクは契約で分ける」
彼は笑った。
「それなら商売らしい」
車隊は明け方に出発する。
旅灯が前の二十一里を安全に通し、その先は青麦の旧道へ入る。羽民の郵送隊が半日ごとに消息を持ち帰る。
第一通:白楊坂を通過。
第二通:車軸一本が割れ、予備と交換済み。
第三通は、暗くなってから来た。
アオバがカウンター前に降りる。翼に封緘の破片がついている。
「車隊は青麦鎮に入っていない」
「魔物か」
「道路査察だ」
差押え文書を帳簿の上へ叩きつける。
文書は、まったく合法だった。貨物が非認証の車両を使用し、統一倉庫検査を回避した疑い。十五日暫定差押え。
月豆五十袋と防音レンガ六百枚は、全部、金穂商盟の北倉へ入れられた。




