草の下の道
翌朝、宿屋の前に車が十九台増えていた。
手伝いに来たのではない。
全部、キャンセルだ。
「金穂が北倉の運賃を三倍にした」壺を売る商人が部屋札を握る。「またドワーフ山城へ行けば、この稼ぎでは駄獣も飼えない」
「だからチェックアウトか」
「二晩分を返す。今日、青麦鎮へ戻る」
保証金の箱から銅貨を数える。
宿屋がいちばん正直な音は、満室の銅鈴ではない。客が鍵をカウンターへ戻す、あの一打だ。
十九台が持ち去ったのは、部屋代だけではなかった。厨房は朝食四十食分を失い、厩は飼い葉一袋分の収入を失い、市場で積み込みを待っていた歌うレンガは、ガルドが昨夜歯ぎしりした音を歌い続けるしかなかった。
「あれは製品展示だ」ガルドが言う。
「展示は成功した。商人は全員帰った」
ルミラがチェックアウト数を帳簿へ記す。
「道を見に行った方がいい。自分たちに買えないものが、何なのか知る必要がある」
路見隊は二十七人。
ガルドがドワーフ職人を六人連れ、ルミラが土を知る灰耳の若者を二人連れ、ガンドが石を満載した試重車を繋いだ。フィアは箒で低空の風を測り、セインは王国道路規格を抱えている。厚さは、アランに同業者としての圧を感じさせるのに十分だった。
僕はアランを持つ係だ。
「吾は開路の剣だ。荷物ではない」
「昨夜、ベッドを一床独占しろと言った」
「古代の聖器は平置きが必要だ」
「だから今日は自分で歩け」
晴風の北門から出る。
地図上の旧王道の起点は、歌うレンガの工房のそばにあるはずだった。目の前にあるのは、腰までの荒草だけだ。ガルドが鉄の突き棒で数箇所を探る。どれも湿った柔らかい黒土だった。
「王都は、存在しない道を直せと言っているのか」ガンドが聞く。
セインが公函を繰る。
「原則として、旧王道が台帳にあれば、存在とみなす」
「僕の元の宿屋の帳簿にも、完全な部屋が十六室登録してあった」
「現行の道路法は、宿屋の比喩を扱わない」
フィアが上から叫ぶ。
「東に浅い溝がある! まっすぐだ!」
東へ向きを変える。
彼女が見つけた痕跡を初めて掃く。三十人あまりが半日灌木を切り、山腹を貫く石造りの長い槽を掘り出した。
ガルドがしゃがんで叩く。
「古い排水渠だ」
フィアの着地は軽かった。
「道路にも排水は要る」
「だが人は、普通、排水渠の中を歩かない」
「方向は三十歩しかずれていない」
「六十里、全部三十歩ずれたら、どこへ着く」
「とても広い道」
昼、白石坂の下で止まる。厨房が一人ずつ雲餅、酸菜、燻肉を詰めてくれた。部屋札を食事札にして、誰かが職人の燻肉の二人前を持っていかないようにする。
ガンドが自分の九号札を見る。
「これは宿屋の鍵札じゃないか」
「今日の九号室にベッドはない。風を避ける石が一つあるだけだ」
「料金は?」
「路見は食事込み」
アランが鞘の中でため息をつく。
「偉大な遠征を、露天宿泊にしたな」
「少なくとも湯の苦情はない」
言い終わるか終わらないかで、フィアが手を上げる。
「苦情よ。酸菜の汁が観測紙に入った」
午後になっても、旧路は現れない。
ガルドは晴風から直路を敷き直せと言い、ルミラは反対した。「可耕地十二畝を壊し、橋を二本、別に造ることになる」
ガンドは西坂を迂回しろと支持する。「勾配が緩い。車が楽だ」
フィアは西坂が通年向かい風だと指摘する。「車が省いた力を、風が食う」
セインは登録された路盤を先に探せと譲らない。「王都が認めるのは修復であって、新設とは限らない」
五つの意見が、荒草の中で五つの方向に立つ。
僕はアランを抜く。
「道は見つかるか」
「本当に存在するならな」
「公文は存在すると言っている」
「公文は三ヶ月で直せるとも言っている」
柄を握り、目を閉じる。
第一巻の籠城のとき、アランは逃げ道を金光にした。あのときは終点が家だとわかっていたし、住民が戻るとわかっていた。今、目の前にあるのは古い地図と、数十年忘れられた道だけだ。
刃を地面に近づける。
草むらへ、振り下ろしてみる。
金光が一瞬走り、すぐ散った。
前方数十株の茨が、揃って倒れる。
茨の向こうは、驚いた長牙兎の巣だった。
「逃げろ!」セインが叫ぶ。
二十七人が兎に追われて、白石坂を駆け下りる。
アランが僕の手の中で大声を出す。
「言ったはずだ! 道路は現実に通行可能でなければならん!」
「今の逃げ道は、とても現実だ!」
ジェリーが来ていれば、少なくとも塞いでくれた。
兎の群れが追うのをやめたとき、隊は帽子三個、靴一足、セインが規格冊に挟んでいた第六ページを失っていた。
フィアが靴を木から吹き下ろす。
「最初の失敗は、必要な観測よ」
セインは無表情だった。
「第六ページも観測して戻してくれ」
石に座り、アランの剣身に残る微光を見る。
さっき、まったく反応がなかったわけではない。
金光の前、剣先が一瞬、南西へ引かれた。地図が示す真北ではなく、銀茅の生えた低地の方だ。
「旧路は、向きを変えたことがあるのかもしれない」と僕は言った。
ガルドが歩み寄り、鉄槌で地表を割る。
銀茅の根の下に、青灰色の石板の角が出た。
さらに三尺掘ると、二枚目の石板が出る。
石板の間隔は、王国制式の車輪がちょうど収まる。縁には排水孔が埋まり、孔は乾いた泥で塞がっていた。アランを石板に平置きすると、剣身が低く唸る。
「道は下にある」とそれが言う。「消えたのではない。方向の結界に、一層隠されている」
フィアがすぐ観測紙を広げる。
「風が路面から両側へ滑る。この術式は視線、雨水、歩く者の足を外へ導く」
「解けるか」
「解ける。だが一度に全部は吹けない。魔力が大きすぎると、路盤まで捲る」
ガルドは結界石を区間ごとに鑿ち取れと言い、少なくとも六十日要るとした。フィアは風標で方向を校正すれば十五日で全線が見えるが、五百歩ごとに誰かが標識を維持する必要があると言った。ルミラは農閑の住民を交代で出せるとしたが、秋まきは遅らせられない。
僕はアランを、最初の石板の隙間へ刺す。
「三つから二つ。一度に道は開かない」
「どういう意味だ」ガルドが聞く。
「アランに本物の路盤を探させ、フィアが方向を標す。職人はいちばん悪い区間だけ直し、ほかは草を刈って土を固める。荷車一台が通れれば、まず物資を入れる。あとは運賃で直し続ける」
セインが第六ページを取り戻し、兎の毛を払う。
「臨時通行の規格は、区間ごとの検収を認める。ただし十里ごとに避険点を置け」
「なら、人が泊まれる場所を探す」
アランの金光が、地下の石板に沿って前へ延びる。
今度は道を作れとは求めず、すでに在る部分だけを指せと言った。ルミラが土色を判断し、ガルドが石層を叩き、フィアが小さな風旗を金光の通った場所へ打ち込む。
五人の技は、五本の違う鍵のようだった。
僕は初めて、そのうち二つの手触りに同時に触れた。
片方は、ガルドが槌の音から石板の空洞を読む震動。片方は、フィアが皮膚で側風の向きを分ける感覚。二つの感覚が頭の中で喧嘩し、十歩歩いたところで泥坑に足を踏み入れる。
「双技能の組み合わせ」アランが評する。「威力は驚異的だ。肉眼でもわかる水たまりを発見した」
「黙れ」
少なくとも、改善は効いていた。
夕方までに、旧路を四里掃く。ガンドの重車が上を三往復して、車輪が半分沈んだだけだった。ガルドが予算を罵り、その区間を石の補修必須と標す。
空が暗くなる。フィアが前方へ飛び、野営地を探す。
まもなく、銀茅の奥から風の笛が返ってきた。
「家がある!」
金光に沿って、低い丘を越える。
丘の向こうに、二階建ての駅舎が立っていた。塀は完備し、窓は磨かれ、門前に轍もなく、足跡もなかった。
数十年、誰も通らなかった旧路の奥で、無人の駅舎の灯が、一つまた一つと点いていく。




