六十里の旧王道
旧風笛が正式に営業を始めた翌日、王都は六十里の道を三ヶ月で直せと求めてきた。
公函の金縁はきれいだった。
屋根の補修に使うには、もったいない。
「六十里、九十日」ガルドが公函をカウンターに押しつける。「安く、速く、丈夫に。三つから二つまでだ」
「王都は三つとも要求している」
「なら王都が人を出せ」
「公函の最後の一行に、工事は道路の受益者が自弁するとある」
ガルドがひげを撫でる。
「公函を書く人間は道を直さない。だから修辞が上手い」
三大ギルドの人間で宿泊広間がいっぱいだった。五百八人の住民は全員来られない。臨時議会が各方の代表を出した結果、椅子が十二脚足りなかった。
僕はカウンター後ろの荷物棚を出して、長椅子にする。
フィアが地図にうつ伏せ、帽の先がインクを掃く。
「旧王道は晴風から北へ、風折丘、霧谷、白楊河口を抜けて、ドワーフの山道へつながる。直線で五十二里」
セインが彼女の定規をまっすぐに直す。
「道路は飛行の直線では測れない」
「だから曲がりに八里残しておいた」
ルミラが食糧帳を開く。
「鎮庫は金貨二十四枚。動かせるのは多くて九枚。秋まき、公共厨房、冬前の修繕は止められない。道路にはいくら要る?」
ガルドが床まで垂れる見積もりを渡す。
「荷車二台が通れる砕石路だけなら、金貨二十七枚。崩落は別」
「鎮庫が足りない」
「だから耐久版も用意した。金貨三十六枚だ」
「ありがとう。貧乏が急に節約に見えてきた」
門外から、揃った車輪の音が聞こえる。
金黄色に塗られた四輪車が十二台、宿屋の前に停まった。幌にはどれも麦穂の輪が刷ってある。先頭の男は褐色の長衣を着て、靴底がきれいすぎて、荒原を歩いてきたようには見えなかった。
「金穂商盟、道路事務代表、マルコ」
名刺をカウンターに置く。視線が広間の灰耳族、ドワーフ、牛角族を掠めても驚かない。帳簿を見たときだけ、笑った。
「アイザック会長より、晴風鎮へ祝意を。六十里の旧王道、こちらで請け負いたい」
「見積もりは?」
「最初の三年、工事費はいただかない」
広間に、すぐ低い囁きが広がる。
ガルドが腕を組む。
「石、材木、三百人の工賃も、取らないのか」
「商盟が持つ」
マルコが契約を広げる。紙は、宿屋を買ったあの分より厚い。この厚さには、もう職業的な警戒がある。
セインは三ページ目で、眉を戻さなくなった。
「晴風は道路の維持権を、金穂商盟へ二十年渡せとある」
「商盟がリスクを負う。対価は当然だ」
「貨物はすべて、あなたたちの倉庫を使え」ルミラが第七条を指す。「倉敷料は商盟が季節ごとに調整する」
「倉庫を統一しなければ、品質は保てない」
「第十一条、晴風は車隊を組んではならない」フィアが契約を逆さに読む。「箒で手紙を運ぶのも、競争する輸送力か」
「空の輸送は、道路の秩序を乱しやすい」
帽の先が、ぴんと立った。
僕は契約を押さえる。
「宿屋の前のこの道も、あなたたちのものか」
「もちろん。駅もここに造る」
「客が泊まりに来るのに、先に入場料を払うのか」
「商路を整えるための、必要なコストだ」
需要は具体的だった。三ヶ月以内に道を通す。
案も具体的だった。これから二十年を、まとめて売る。
僕は厨房に月豆のスープを出させた。第一巻の最後の食事は、全鎮を座らせられなかった。今日の鍋は、代表一人に一杯ずつ、ちょうど足りる。契約の前にまず食べる。空腹で罠をパイに見誤る人間を、少なくとも減らせる。
マルコは匙を動かさない。
「陸さん、商盟は王国北西の道の七割を請け負っている。安定は統一から来る。小さな町が各自で直せば、荷車は幅の違う轍に嵌まるだけだ」
「その一文は、もっともだ」
「店主?」フィアが僕を睨む。
「もっともであることと、契約全体が正しいことは別だ」
紙を押し返す。
「施工の購入、車の賃貸、石材の購入はできる。統一した轍の規格も受け入れる。だが倉庫、運賃、車隊を組む権利は渡さない」
マルコは、ようやくスープを一口飲んだ。
「つまり拒否だ」
「そうだ」
「九十日後、交易資格は取り消される。晴風の煉瓦、雲毛、月豆は売れなくなる。鎮庫が冬まで持つか、確信があるのか」
「ない」
こんなに早く答えるとは、思っていなかったらしい。
「だから明日、まず路を見る」
会議は、僕の一言では終わらなかった。
製造ギルドは先に八ヤード幅の本道を主張し、商業ギルドは車が通れる仮道で足りると言い、農業ギルドは新しく開いた田を潰すことに強く反対した。ガルドは仮道が雨季に必ず崩れると言い、ルミラは本道が月豆三畝を食うと言い、フィアは道路の両側に二十七ヤードの風標を立てろと言った。
初めて、今ある地図の上に線を引いてみた。線は西の田の縁を横切った。
ルミラが穏やかに聞く。
「誰が畦を踏み壊したら、今夜、種子三百袋の再分類はその人の担当です。それでもここから直しますか」
その線は、すぐに東へ移った。
二本目は田を避けたが、河妖が完成させたばかりの沈砂池をちょうど横切った。
三本目は水路を避けたが、勾配がきつく、牛角族の代表ガンドが一目見て言った。
「空車は上がれる。満載は下で葬式だ」
暗くなる頃、地図には七色が乗っていた。ジェリーが染料をひっくり返したようだった。
僕は議論を止める。
「明朝、現地を歩く。ガルドは路盤、フィアは風、ルミラは占地、ガンドは勾配、セインは王国規格。各自、問題だけ出す。現場で自分の問題がいちばん大きいと宣言するな」
「お前は何をする」ガルドが聞く。
「鍵を持つ」
「路見に宿屋の鍵か」
「六十里だ。少なくとも一晩は泊まる。店主が鍵を持たず、宿泊免責書を持っていくのか」
カウンターの後ろへ戻り、金穂商盟の車夫十二人の宿泊手続きを始める。
マルコは契約交渉を拒んだあとでも、宿泊は拒まなかった。二人部屋を六室取り、三階の風がうるさいと苦情を言い、厩の金塗り車を普通の荷車と分けろと要求した。
「分けられる。一台につき銅貨一枚増しだ」
「なぜだ」
「二台分の場所を取る」
「普通の荷車より高い」
「だから地煉瓦を壊したとき、弁償できる」
フィアが隣で吹き出しそうになり、六本の鍵を四本まちがえた。僕は部屋札を並べ直し、湯は九時までだと確認する。
マルコは階を上がる前に、一度止まった。
「陸さん、一つだけ」
「どうぞ」
「金穂と契約しなければ、石は買えても、十分な車は買えない。一段直せても、次の一段を運ぶ者は現れない」
門外で、十二台の金の車が旅灯の下に一線を成していた。あらかじめ築かれた壁のようだった。
マルコが鍵をしまう。
「契約しなければ、来る車隊はない」




