十八人のスープ
十六人の客を入れてから、大事なことを思い出した。
食べ物がない。
正確には、水が半分と、鍋底に現代から持ってきたビスケットの欠片がある。十六人をもてなすには、一人一口嗅ぐのが関の山だ。
「まず子供を火のそばへ」
広間で、脚の残っている長椅子を一脚引く。子供を抱いた女はすぐ座らず、座面を撫で、刺が出ていないのを確かめてから、濡れたマントに男の子を包んだ。
「ルミラです」彼女は言った。「この子はミロ。雨に打たれて熱が出ています」
「天野陸。ここの店主だ」
屋根から、また大きく水が落ちる。
木盆を左へ半尺ずらす。
「今のところ、後半の肩書きにしか責任が持てない」
ルミラは広間を見て、笑わなかった。失望もしなかった。
「風が凌げれば充分です。漏りは、こちらで塞ぎます」
後ろの灰耳族が、すぐ散った。
老人が濡れた布団を敷いて子供を座らせ、若い男二人が倒れた長机を起こして破窓を塞ぎ、誰かが荷車の底から油布を出し、揺れる梯子で梁へ登る。
灰耳族が何を得意とするか、誰も説明しなかった。
結べる者、木目を見る者、隅の水を浅溝に逃がす者。動きが、もう話していた。
「右の梁は踏むな」と僕は叫んだ。「中が空だ」
青年が出しかけた足を戻す。
自分でも、なぜわかったのかわからない。
入ったときから、宿屋の傷みは音で知らせてくる。雨粒が良い板に落ちれば澄み、腐った木に落ちれば濁る。以前、夜中の巡房でも、この音で漏りを探していた。
今は、それがはっきりしすぎている。
家がどこで痛がっているか、おぼろに聞こえる。
厨房で、小さな音がした。
駆けつけると、ジェリーが割れた鉄鍋に頭を突っ込んでいた。
「それは食べられない」
「ぽ」
「鍋は食べられない」
「ぽ」
ゆっくり錆びた釘を吐き出し、分別があると証明したつもりらしい。
鍋を火にかける。割れは腰のあたりだ。そこまで水を上げなければ、どうにか使える。
ルミラが入ってきて、荷物から布袋を出した。
中は、しわしわの月豆が半分にも満たない。
「明日の種です」と彼女は言った。
「残しておけ」
「子供には熱いものが要ります。種は一把減っても、まだ考えられます。今夜食べなければ、朝、考える人がいなくなります」
三把を鍋に入れる。
別の灰耳の老人が人参を二本出した。丸眼鏡の青年はポケットを探り、塩をひとつまみ。最後に、護身になりそうな硬い黒パンが半切れ渡された。
ビスケットの欠片も入れる。
アランを竈の脇に立てかけると、沈痛な声がした。
「その鍋は、三つの世界の料理伝統を同時に侮辱している」
「食べなければいい」
「元より食べん」
「じゃあ人参を切れ」
「リク、吾は魔王の王冠を斬った」
「人参は抵抗しない。自信の回復に向いている」
結局、灰耳の老人が包丁を取った。
僕はアランで鍋蓋を押さえる。
「蒸気からだけは離せ!」
「雨戸か、蓋か」
「……蓋だ」
雨が屋根を叩き、スープが火の上でぐつぐつ鳴る。
味は良くない。月豆は戻しきらず、人参の大きさはまちまち、ビスケットで妙に甘い。
それでもミロが半杯飲んだあと、震えが止まった。
ルミラの固かった肩が、やっと下がる。
広間の者が順に掬う。
椀が足りず、二人で一枚。老人は先に子供へ、若者は豆を老人に残す。ビスケットの欠片を食べた者が、これは何の香辛料かと聞き、僕は「賞味期限が未知の、現代の工業食品」と答えた。
彼は聞いて、隣の者に半分分けた。
カウンターの後ろで、最後の半杯を持つ。
ゲストハウスをしていた頃、寄せ集めの夕食を何度も見た。
旅人が、違う町で買った菓子を少しずつ出し、最後には卓いっぱいになった。
あの頃から思っていた。宿屋がいちばんいいのは、満室のときではない。
知らない者同士が、ものを渡し始めたときだ。
「どこから来た」と聞く。
「月芽谷です」ルミラが言った。「北へ七日。雨で穴居も田も浸かりました」
「青麦鎮へ?」
「そのつもりでした。親戚はいますが、十六人分の部屋代は出せません。とりあえず着いてから、でした」
言葉は穏やかだった。
膝の上の手だけが、種袋を押さえたまま動かない。
「雨が止んだら、道を書く」
「ありがとう」
必ず返すとも、ついていくとも言わなかった。
それで、安心した。
銅貨一枚の宿屋は、重すぎる恩を背負う場所ではない。
夜半前、雨がやっと弱まった。
子供は火のそばで眠り、大人は壁と荷車に寄りかかる。最初の巡房を終える——主に、床が落ちないかの確認だ——広間に戻り、薪を足す。
暖炉の木はとうに湿り、火が消えかけていた。
手を伸ばしたとき、暖炉の奥で、ごく小さな呼吸がした。
金色の炎が、灰の下から上がる。
木を焦がさず、手も灼かない。広間全体を、やっと人が住む家のように照らすだけだった。
火の中に、三行が浮かぶ。
|ともに食事をした。|
|本当に一晩泊まった。|
|明日も、ここに残りたい。|
それから、一つの考えが頭に落ちた。
住民:十八。
数える。
灰耳族十六、僕を足して十七のはずだ。
裏庭の井戸から、大きな「ぽ」が響く。
ジェリーが戸の隙間から入り、頭にいつもの半桶をかぶっていた。金の火がその体で揺れ、青い小さな灯になる。
「奴も入るのか」とアラン。
「井戸の水は飲んでいる」
「なぜ吾は入らん」
「飯を食っていないし、一晩も泊まっていない」
「三日、腰に掛かっておったぞ!」
「携帯荷物だ」
金火が周囲へ広がる。
今度は、宿屋の傷みが曖昧な音ではなくなった。
西側の壁の後ろに不自然な空白があり、揉み潰されて闇に押し込まれた部屋のようだ。東の垂木二本は夜明け前に補強が要る。厨房の煙道は三分の一が詰まり、裏庭の塀の下には長牙兎の穴がある。
帰巣炉は、何一つ直してくれなかった。
もともとあった問題を、指差しただけだ。
空白を辿って西壁へ行き、重い木櫃を押す。
後ろに、板で封じられた扉があった。
ルミラが音で目を覚まし、青年二人を連れてくる。釘を抜き、扉の向こうは乾いた倉庫だった。
材木、瓦、釘、油布二巻、封をされた小麦粉が三袋。
アランがすぐ言った。「見よ、これが勇者に用意された補給だ」
火の中に、また小さな字が浮かぶ。
|家は物資を作らない。忘れられたものを、見えるようにするだけだ。|
「お前を否定している」と僕は言った。
「古代の炉器は修辞を知らん」
ルミラは粉袋を撫で、屋根を見る。
「いちばん急ぐところは直せます。数日分の食事にもなります」
「明けたら、一袋持っていけ」
彼女は少し黙り、答えなかった。
翌日、雨は止んだ。
倉庫の材で荷車の車軸を直し、いちばん丈夫な油布を屋根に重ねる。
灰耳族は、布団をまとめなかった。
青年二人が裏庭の土を測り、老人が草のあいだで土を捻る。ルミラは十六人の名を、さっき見つけた古い宿泊簿に、整った字で書いていた。
「チェックアウトか」と聞く。
「長期宿泊の申請です」
種袋をカウンターに置く。
「あなたには浸かっていない五畝がある。こちらには手がいる。家を直し、月豆を植え、屋根を補います。労働で宿泊を相殺する。最初の収穫のあとで、部屋代を話しましょう」
帳簿を開く。
一頁目は、まだ白い。
昔の失敗が教える。無料のあとには、規則が要る。
「いい。食料は共同記帳、道具の破損は登録、七日ごとに確認し直す。出ていくなら先に言え。恩は作らない」
ルミラは頷いた。
「では、今日はどこから直します」
金色の炉火を見上げる。
東の垂木が、また危うい音を立てた。
「まず屋根だ」
「それから?」
「それから、十八人の住民に、雨の漏らないベッドを十八用意する」




