自衛隊はまず銅鑼から覚える
セインが自衛隊を初めて集めたとき、半日かかった。
「身長順に並べ」
牛角族が最前列へ立つ。
羽民は地面が狭すぎると感じ、全員屋根へ飛んだ。
ゴブリン劇団は公演の隊形を組み、ついでに太鼓も持ってきた。ドワーフは武器架の周りで、槌と短斧をどの列へ分けるか争っている。
ジェリーがいちばん整列していた。
「先に昼飯にするか」と僕は聞いた。
セインは検収表を筒に巻く。
「伝統編成は取り消す」
晴風に軍隊はない。
具体的な仕事ができる者は、たくさんいる。
羽民は巡空隊を組み、獣群を見る。
灰耳族は匂いの囮と仕掛け網を作る。
河妖は灌漑渠を、速く水を出せる泥地へ変える。
牛角族とドワーフが盾壁を組む。
ゴブリンは合図を担当する。晴風でいちばん大きな銅鑼を持ち、リズムに合わせて動くことに慣れているからだ。
第一版の合図は十三種あった。
セインは五種まで減らせと言う。
ギグは「主役登場曲」の存続を主張した。
「戦場に主役はいない」
「なら敵は誰を見ればいい」
最後の五種に登場曲はない。だが雑に長く鳴る一種がある。
意味は、ベリーが持ち場を離れた、だ。
魔法組はフィアが担当する。
成員はイヴ、火球術ができる商人二人、石を熱くすることしかできない徒弟三人、それからベリー。
最初の訓練で、火球が仕掛け網に火をつけた。
河妖が放水して消し、盾壁まで押し倒す。
ベリーは転がる盾を興奮して追い、火を吐いた。
セインは表に長いあいだ書いた。
「少なくとも、問題は早く出た」と僕は言った。
「問題が多すぎて、書ききれない」
二度目は、各組の距離を開いた。
匂いの囮は東側。
泥渠は中央。
盾壁は西斜面を守る。
ゴブリンの銅鑼手は高台に立ち、歌うレンガで合図を各方面へ伝える。
建設で残したものが、やっと戦闘の役を担い始める。
道路は資材を運ぶ。
水渠は地形を変える。
高床小屋は見張りになる。
反響レンガは毎回の演習命令を記録し、終わってから再生する。聞き違えた者が一目でわかる。
僕はアランで開路の練習をする。
雑草、霧、障害に隠された本物の道が見える。帰途は、住民が家へ帰りたい向きを知らせてくれる。
一度目、北斜面へ通じる近道を直接開こうとした。
金線は二十歩行き、未完成の石壁へぶつかった。
「そこに出口はない」とアラン。
「壁の後ろに道がある」
「だが壁は今、本物だ。吾は閉塞を斬れる。存在しないふりはできん」
壁に沿って扉を探すしかない。
二度目、金線は水渠を迂回し、旧道へ繋がった。
道は短い。だが担架隊が泥地を避けられるには足りる。
「戦闘では最前列へ出るな」とセイン。
「出すつもりもない」
アランは大いに不満だった。
「剣を持つ者は勇猛であるべきだ」
「自衛計画では、お前は出口を探す」
「突撃は」
「牛角族の方が頑丈だ」
アランはしばし黙り、現実を受け入れた。
訓練三日目、フィアに二通目の手紙が届く。
今度はカウンターの前で封を切った。
青麦飛行工房は実習資格の回復を認め、本年度の風路試験への参加も許す。
条件は、獣群が着く前に「認証されていない危険集落」を離れること。
出頭期限は、明日の午後だ。
「ずっと欲しかったものだ」と僕は言った。
「ええ」
「三十七枚の記録も終わった」
「最後の一枚、総図がまだ」
「道で描けるか」
答えなかった。
午後の訓練、フィアは連続で二度、風壁を斜めに置いた。
一度は銅鑼架をひっくり返す。
一度は匂いの囮を厨房へ送る。
晴風全体が半日、酸っぱい草の臭いを嗅いだ。
疑われたあと、魔力を増やそうとする。
杖を押さえる。
「今日は止めろ」
「調整できる」
「風旗を見ていない」
フィアが唇を嚙む。
しばらくして、自分から杖を下ろした。
「ごめんなさい」
何もできないとは言わなかった。慰めを待つのでもない。
三十七枚の記録を宿屋の広間に広げ、一枚ずつ照合する。
夜、熱い汁を残しておいた。
「出ていってほしい?」と彼女は聞く。
「それは君の実習だ」
「あなたは」
彼女を見る。
本当に辛いとき、彼女は逆に口数が少ない。
「自分の行きたい向きへ行けばいい。僕が残れと言ったから残るな。工房が帰れと言ったから帰るな」
「問題を返すのが上手ね」
「宿屋は選択のために灯を残す。客の行き先は決めない」
彼女は俯いて汁を飲む。
翌朝、フィアが荷物を背負ってカウンターへ来る。
十二号の鍵が僕の前に置かれた。
退室簿を手に取る。
「決めたか」
「決めた」
鍵を、また持って戻る。
「退室しないことにした」
「荷物は何だ」
「観測道具。西斜面は風が強い」
召還状を、最後の総図の下へ押さえる。
「残ってあなたに付き合うわけじゃない。風路がまだ描き終わっていないの。晴風から飛び立つことも、正式な路線だと工房に見せる」
「試験を逃したら」
「今年は追試がある。獣群を逃せば、風眼を踏み潰される」
西斜面へ走り、三十七面の風向旗を記録どおりに並べ直す。
勘だけではない。
一面ごとに、本物の日付、時刻、風力が対応している。
夕方、羽民の斥候が黒い石片を一塊持ち帰った。
セインは紋章を一目で認めた。
「黒茨領の駆獣碑だ」
駆獣碑はもともと、獣群を町から遠ざけるものだ。
符文の向きを変えれば、指定の場所へ導くこともできる。
羽民は番号付きの反響レンガも一塊持ち帰った。
セインは以前、黒茨の倉庫に証拠用のレンガを六塊置いて、違法な税務を記録していた。この一塊は倉庫から外され、駆獣碑の破片と一緒に北斜面へ捨てられていた。
「中には何がある」と僕は聞く。
「封じを解く前は開くな」とセイン。「公開調査のときに初めて有効だ」
「なら誰かはまだわからない」
「だが王国の駆獣施設を動かした者がいる」
同じ夜、黒茨の使者が宿屋へ来た。
騎士二百名で晴風を守ると提案する。
条件は、土地、臨時管理権、帰巣炉を渡せ、だ。
「接収ではない」使者は言う。「男爵は未熟な集落の責任を代わりに負うだけだ」
「断る」
「魔物の種族は危険になると、自分だけを守る」
ガルドが食卓から顔を上げる。
「誰が魔物だと言った」
ガンドが袖を捲る。
河妖の代表も、自分のことかもしれないと思った。
ギグは椅子の上に立ち、使者に無視されたと抗議する。
争いは一瞬で、訓練より乱れた。
使者を門外へ送る。
戦いの前夜に、宣誓はない。
皆が帰巣炉を囲んで月豆の汁を食べ、持ち場と退避の順を確認する。
「明日、僕のために戦うな」と僕は言った。
ガルドが雲餅を嚙む。
「誰がお前のためだ。俺は窯を守る」
ルミラが言う。「私は田と穀倉を守ります」
ギグは銅鑼槌を抱える。
「舞台を守る」
ベリーは厨房の貯蔵室の鍵を抱いた。
守る対象がいちばん明確だ。
遠く、白石嶺から低い震動が伝わる。
卓の汁面が、小さく波立つ。
三千頭の獣群が着いた。




