五百八人の雲餅祭り
雲餅祭りの開幕前、第一陣の雲餅が全部飛んだ。
フィアは焼き上がった薄い餅を速く冷ます担当だ。
観測記録どおりに安定した西風を送る。
向きは正確だった。
卓布が押さえてなかった。
三百枚の雲餅が白い鳥群のように市場を越え、できたばかりの広い扉の石屋へ掛かる。
ベリーがいちばん大きな一枚を追い、屋根へ上がった。
「向きは間違ってない」とフィア。
「三百枚の弁償だ」
「拾えるわ」
「排水溝へ落ちたのは要らない」
雲餅祭りの目的は祝いではない。
封鎖を無効にすることだ。
ゴブリン劇団は入場券五百枚を青麦鎮と沿道の村へ届けた。羽民は黒茨の関所を通らない抜け道を三条示し、宿屋は空き部屋を遠い商人に残し、普通の見物客は天幕区へ泊める。
切符に「晴風を救え」とは書いていない。
歌う壁、浮かぶ羊、口へ風が入る雲餅、そして見物する価値があると噂の便所が三箇所、とだけ書いた。
セインは最後の一項を見て、宣伝紙を没収しようとした。
「公衆衛生施設は名所ではない」
ギグが言う。「三箇所目はすでに列を作ってスケッチしている」
祭りの一日目、来たのは四十人余りだ。
本道はまだ封じられ、荒野の小径も歩きにくい。
ルミラが閑散とした屋台のあいだに立つ。
「用意した餅は千枚です」
「明日も売れる」
「明日、人が来なければ」
ゴブリンの舞台を見る。
ギグはすでに芝居を変え、黒茨の関所を人参しか受け取らない道止めの魔物にしていた。観客の笑いは多くない。だが帰りに、誰もが宣伝紙を一枚持っていた。
二日目、百七十人来た。
馬に乗る者、車を押す者、羽民が描いた旗標を辿って歩く者。河妖は水院で冷やした果汁を売り、牛角族は角突きの試合をし、ガルドはその場でレンガ一塊の音をどう合わせるかを見せる。
フィアの風味雲餅がいちばん人気だった。
嚙み開くと、冷たい風が餅の芯から少し出てくる。
セインが一口食べ、銀髪が整然と後ろへ倒れた。
「意味は」
「涼しい」とフィア。
「冬は」
「冬は売らない」
三日目、商隊が現れる。
黒茨の関所は元の道を行く糧車は止められる。市へ出るために道を変えた者は止められない。モリスは麦粉と塩を六車持ってきた。ほかの商人は布で雲毛の糸を交換する。
糧価はまだ平時より高い。
農業ギルドは買い占めを拒み、あらかじめ公示した最高価格で買う。
売らない商人が二人いた。こちらが途切れるのを待って値を上げるつもりだ。その日の夕方、抜け道を回る糧車がさらに着き、彼らは市場価格で取引するしかなくなった。
封鎖は演説一つで破れていない。
抜け道、屋台、注文、騒ぎを見に来た者が、少しずつ迂回したのだ。
雲餅祭りが終わったとき、公共穀倉は二十一日分まで戻った。
雲毛の織物に、最初の長期注文が入る。
月豆酒は十九樽売れた。
宿屋は三日連続で満室だった。
いちばん忙しかったのはテープカットではない。苦情処理だ。
二号の客は、窓の外を羊がずっと漂うと言う。
五号の客は菓子をなくし、最後にベリーの枕の下で見つかった。
天幕区で歌う荷物札を取り違え、二つの箱が広間で三十分対唱した。
未明、フィアと鍵を照合する。
「十二号」と僕は言った。
「こっち」
「観測に行くんじゃなかったのか」
「今夜は祭りの風向が乱れすぎる。明朝にする」
鍵をカウンターへ置き、工房の召還状をまた出す。
まだ封は切っていない。
「中で帰れと言われるのが怖いのか」
「中で帰るなと言われるのが怖い」
代わりに開かなかった。
「見たいときに見ろ」
祭りが連れてきたのは見物客だけではない。
商隊の成員二十一名が長期定住を申請した。
蜥蜴人の護衛十八名は常駐の運送隊を立てる準備をし、オーガの料理人三名は公共厨房と宿屋の宴を請け負いたいと言う。
晴風が十三人足りないからではない。
自治の人口線すら知らない。
護衛は荒野の中継の仕事を見て、料理人は種族が多いほど煮込みの味を多く売れると考えた。
グラボはこれに高度に警戒する。
「厨房にはすでに責任者がいる」
オーガの料理人が見下ろす。
「酸葉の魚煮込みは作れるか」
「作れない」
「こちらは作れる」
「なら協力できる」
宿泊組の空き寝床は二十三。
農業ギルドは増えた人口のあとの口糧を計算する。
商業ギルドは運送隊に本物の契約があることを確認した。
臨時議会が項目ごとに採決する。
二十一人の登記は、祭りの最終夜に発効した。
帰巣炉の火光が上がる。
住民、五百八。
今度、数字に対応するのは宣言の一声ではない。
公共厨房三箇所が同時に足した竈火、山腹にびっしり並ぶ天幕の灯、宿屋の広間では置ききれず市場まで並んだ夕食の卓だ。
金光が谷全体へ広がる。
目を閉じると、戻りたいと願う住民一人ひとりの向きが、突然わかる。
水院にいる者。
まだ舞台を片付けている者。
子供が一人、羊を追って西斜面まで走っている。
家へ帰りたいなら、どの道がいちばん短く、まだ埋められていない排水坑を通らないかもわかる。
「帰途だ」アランが低く言う。
初めて、全名を先に名乗らなかった。
「帰巣炉が家を見つける。吾は実在する道を顕す。やっと組に見える」
剣を抜き、荒草のあいだへ振り下ろす。
金線が三十歩伸び、排水坑を迂回し、村へ戻る旧道へ繋がった。
転送はない。
出口を空から作るのでもない。
もともと歩ける安全な道を照らしただけだ。
迷った子供が金線を辿って戻ってくる。
手には長牙兎を一匹抱えていた。
ルミラは二筋の通りを追い、先に兎を没収し、翌日の田の草取りを罰として課した。
五百人の基準は、やっと達した。
自治の条件には、まだ自衛が残っている。
祭りが終わった翌朝、羽民の斥候が一人、北から降りる。
翼に白石嶺の灰が付いていた。
「三千以上」彼女は言う。「岩背猪、黒鬣鹿、長牙兎、それから六眼の巨犀」
「どこへ」
「南だ。七日以内に晴風を通る」
ガンドが眉を寄せる。
「魔力の季節風が早い。だが獣群は谷の中央を通るはずがない」
セインが地図を広げる。
「理由が何であれ、自衛の検収は六日後に来る」
つまり、生き残るだけでは足りない。
王都の検収官の前で、この五百八人が自分の家を守れると証明せねばならない。




