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銅貨一枚で廃駅舎を買っただけなのに、魔物の荒野で国ができてしまった  作者: Karr


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14/83

五百八人の雲餅祭り

雲餅祭りの開幕前、第一陣の雲餅が全部飛んだ。


フィアは焼き上がった薄い餅を速く冷ます担当だ。


観測記録どおりに安定した西風を送る。


向きは正確だった。


卓布が押さえてなかった。


三百枚の雲餅が白い鳥群のように市場を越え、できたばかりの広い扉の石屋へ掛かる。


ベリーがいちばん大きな一枚を追い、屋根へ上がった。


「向きは間違ってない」とフィア。


「三百枚の弁償だ」


「拾えるわ」


「排水溝へ落ちたのは要らない」


雲餅祭りの目的は祝いではない。


封鎖を無効にすることだ。


ゴブリン劇団は入場券五百枚を青麦鎮と沿道の村へ届けた。羽民は黒茨の関所を通らない抜け道を三条示し、宿屋は空き部屋を遠い商人に残し、普通の見物客は天幕区へ泊める。


切符に「晴風を救え」とは書いていない。


歌う壁、浮かぶ羊、口へ風が入る雲餅、そして見物する価値があると噂の便所が三箇所、とだけ書いた。


セインは最後の一項を見て、宣伝紙を没収しようとした。


「公衆衛生施設は名所ではない」


ギグが言う。「三箇所目はすでに列を作ってスケッチしている」


祭りの一日目、来たのは四十人余りだ。


本道はまだ封じられ、荒野の小径も歩きにくい。


ルミラが閑散とした屋台のあいだに立つ。


「用意した餅は千枚です」


「明日も売れる」


「明日、人が来なければ」


ゴブリンの舞台を見る。


ギグはすでに芝居を変え、黒茨の関所を人参しか受け取らない道止めの魔物にしていた。観客の笑いは多くない。だが帰りに、誰もが宣伝紙を一枚持っていた。


二日目、百七十人来た。


馬に乗る者、車を押す者、羽民が描いた旗標を辿って歩く者。河妖は水院で冷やした果汁を売り、牛角族は角突きの試合をし、ガルドはその場でレンガ一塊の音をどう合わせるかを見せる。


フィアの風味雲餅がいちばん人気だった。


嚙み開くと、冷たい風が餅の芯から少し出てくる。


セインが一口食べ、銀髪が整然と後ろへ倒れた。


「意味は」


「涼しい」とフィア。


「冬は」


「冬は売らない」


三日目、商隊が現れる。


黒茨の関所は元の道を行く糧車は止められる。市へ出るために道を変えた者は止められない。モリスは麦粉と塩を六車持ってきた。ほかの商人は布で雲毛の糸を交換する。


糧価はまだ平時より高い。


農業ギルドは買い占めを拒み、あらかじめ公示した最高価格で買う。


売らない商人が二人いた。こちらが途切れるのを待って値を上げるつもりだ。その日の夕方、抜け道を回る糧車がさらに着き、彼らは市場価格で取引するしかなくなった。


封鎖は演説一つで破れていない。


抜け道、屋台、注文、騒ぎを見に来た者が、少しずつ迂回したのだ。


雲餅祭りが終わったとき、公共穀倉は二十一日分まで戻った。


雲毛の織物に、最初の長期注文が入る。


月豆酒は十九樽売れた。


宿屋は三日連続で満室だった。


いちばん忙しかったのはテープカットではない。苦情処理だ。


二号の客は、窓の外を羊がずっと漂うと言う。


五号の客は菓子をなくし、最後にベリーの枕の下で見つかった。


天幕区で歌う荷物札を取り違え、二つの箱が広間で三十分対唱した。


未明、フィアと鍵を照合する。


「十二号」と僕は言った。


「こっち」


「観測に行くんじゃなかったのか」


「今夜は祭りの風向が乱れすぎる。明朝にする」


鍵をカウンターへ置き、工房の召還状をまた出す。


まだ封は切っていない。


「中で帰れと言われるのが怖いのか」


「中で帰るなと言われるのが怖い」


代わりに開かなかった。


「見たいときに見ろ」


祭りが連れてきたのは見物客だけではない。


商隊の成員二十一名が長期定住を申請した。


蜥蜴人の護衛十八名は常駐の運送隊を立てる準備をし、オーガの料理人三名は公共厨房と宿屋の宴を請け負いたいと言う。


晴風が十三人足りないからではない。


自治の人口線すら知らない。


護衛は荒野の中継の仕事を見て、料理人は種族が多いほど煮込みの味を多く売れると考えた。


グラボはこれに高度に警戒する。


「厨房にはすでに責任者がいる」


オーガの料理人が見下ろす。


「酸葉の魚煮込みは作れるか」


「作れない」


「こちらは作れる」


「なら協力できる」


宿泊組の空き寝床は二十三。


農業ギルドは増えた人口のあとの口糧を計算する。


商業ギルドは運送隊に本物の契約があることを確認した。


臨時議会が項目ごとに採決する。


二十一人の登記は、祭りの最終夜に発効した。


帰巣炉の火光が上がる。


住民、五百八。


今度、数字に対応するのは宣言の一声ではない。


公共厨房三箇所が同時に足した竈火、山腹にびっしり並ぶ天幕の灯、宿屋の広間では置ききれず市場まで並んだ夕食の卓だ。


金光が谷全体へ広がる。


目を閉じると、戻りたいと願う住民一人ひとりの向きが、突然わかる。


水院にいる者。


まだ舞台を片付けている者。


子供が一人、羊を追って西斜面まで走っている。


家へ帰りたいなら、どの道がいちばん短く、まだ埋められていない排水坑を通らないかもわかる。


「帰途だ」アランが低く言う。


初めて、全名を先に名乗らなかった。


「帰巣炉が家を見つける。吾は実在する道を顕す。やっと組に見える」


剣を抜き、荒草のあいだへ振り下ろす。


金線が三十歩伸び、排水坑を迂回し、村へ戻る旧道へ繋がった。


転送はない。


出口を空から作るのでもない。


もともと歩ける安全な道を照らしただけだ。


迷った子供が金線を辿って戻ってくる。


手には長牙兎を一匹抱えていた。


ルミラは二筋の通りを追い、先に兎を没収し、翌日の田の草取りを罰として課した。


五百人の基準は、やっと達した。


自治の条件には、まだ自衛が残っている。


祭りが終わった翌朝、羽民の斥候が一人、北から降りる。


翼に白石嶺の灰が付いていた。


「三千以上」彼女は言う。「岩背猪、黒鬣鹿、長牙兎、それから六眼の巨犀」


「どこへ」


「南だ。七日以内に晴風を通る」


ガンドが眉を寄せる。


「魔力の季節風が早い。だが獣群は谷の中央を通るはずがない」


セインが地図を広げる。


「理由が何であれ、自衛の検収は六日後に来る」


つまり、生き残るだけでは足りない。


王都の検収官の前で、この五百八人が自分の家を守れると証明せねばならない。


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