四百八十七のベッド
次の隊列は、晴風へ入らなかった。
ルミラは宿泊組に北斜面で登記小屋を出させ、先に人数、病状、持参の携帯食を数える。
二十六人のうち九人に青麦鎮の親族がいる。羽民の巡空隊が関所を迂回して送り、残る十七人は二晩仮住まいしてから去就を決める。
扉を閉じたわけではない。
扉の向こうに席がいくつあるかも、はっきり言わねばならないと、やっと認めたのだ。
宿屋は病弱者と幼児の集中宿泊になった。
一号から六号まで全部直り、各室に二段ベッドを四台置く。広間は夜なら十二人敷ける。昼は敷布団を片付け、厨房、登記、議会に道を譲る。
鍵を、対応する木札の下へ一つずつ掛ける。
「病人が退室したら、シーツは熱湯で煮る」とイヴ。
「薪が倍になる」
「病気は十倍になる」
彼女の勝ちだ。
ほかの住民は仮住居へ分かれた。
灰耳族の半地穴屋は暖かい。だが第一陣の窓が低すぎ、雨の日に泥水が滲む。ロックが窓台を上げ、門前に浅い溝を足した。
羽民の高床小屋は軽い。強風では大きく揺れる。フィアが観測旗に合わせて向きを直し、ガルドが交差した引き索を増やす。第二版は揺れなくなった。代価は、離着陸台が宿屋の煙突に真正面だということだ。
最初の羽民が飛び立つとき、全身に煤を浴びた。
煙突はそのあと高くした。
水院は当初、流水だけがあり、浅瀬がなかった。河妖の幼児は眠ると深い方へ滑り、牛角族は灌漑水を取りに来る。双方は水位で二日争った。
ガルドは石堰を足せと言う。
河妖の代表は、石堰が流れを断つと考える。
最後に三段の水院にした。上層は飲み水、中層は居住、下層は洗濯と灌漑。分流門は河妖が管理し、鍵は一組を宿屋のカウンターに置く。夜間、水を出す者がいなくなるのを防ぐためだ。
広い扉の石屋の家具も作り直しだ。
普通の椅子は牛角族の重さに耐えず、ガルドが作った最初の石椅子は重すぎて動かせない。グラボが厚い木と鉄箍で長椅子を改めた。三人座れて、厨房ではまな板にもなる。
「これは厨房道具だ」と彼は言う。
ガンドが座る。
「今は椅子だ」
二人は帰属で夕食まで争った。
仮の土屋四十八、長棚六、高床の小屋二十二、水院が一つ。八日で空から生えたものではない。
木材は旧駅舎の倉、枯木林、商隊の掛け買いからだ。
石材は風鳴鉱区が先に納め、製造ギルドの帳につける。
搗き土の壁は住民が共同で施工し、参加した者は初月の宿泊を相殺する。
家の一つひとつが、誰かの工時か、どのギルドかの金を借りている。
ガルドが総予算を持ってきたとき、三度見た。
「承認額を二割超えている」
「普通だ」
「どこが普通だ」
「最初から超えるとわかっていた。だから出した数字はすでに抑えてある」
「それは抑制とは言わない」
「お前が同意しやすい数字、と言う」
臨時議会は屋根飾りを三つ、歌う排水溝を一条、牛の頭の髭の鍍銅部分を全部削った。
ガルドは最後の一項を、とくに不満に思った。
本当に息が詰まるのは糧食だ。
黒茨領が本道を封鎖したあと、厨房は世帯人数で食事札を出す。
子供、病人、重労働は優先して足りる量。
ほかは酒と甘いものを減らし、主食は減らさない。
一日目、公共厨房三箇所の鍋の大きさが違い、食事札は椀で数えていた。南厨の椀は北厨より一回り大きく、列の者が南へ歩き始める。
マロはその日のうちに木杓子で定量にした。
二日目、木杓子はグラボが煮込みを掬うのに持っていった。
三日目、各厨房に容量を刻んだ銅杓子一組が渡り、台帳へ登記される。
公共の規則は、壮大な宣言ではないことが多い。
一人ひとりが掬う汁を、だいたい同じにすることだ。
封鎖四日目、商人が一人、抜け道を回り、麦粉を二袋こっそり持ってきた。
値段は平時の四倍。
買いたかった。
ルミラは拒んだ。
「買えば、あとの者も値を上げます」
「糧食は三日分しかない」
「農業ギルドは緊急糧を二倍まで受け取れます。それを超える分は議会の同意が要る。カウンターに立っているからといって、今日書いたばかりの規則は変えられません」
商人は最終的に二倍で取引し、歌うレンガを一車交換して去った。
自分の身分で、さらに金を足さなかった。
とても落ち着かない。
夜の巡房で、牛角族の子供が聞く。「明日も朝ごはんはある?」
「ある」
「明後日は」
「ある」
言い終えて気づく。これも計算していない保証だ。
広間へ戻ると、ルミラが最後の七袋を数えていた。
「さっき子供に、明後日も朝ごはんがあると約束した」
「あります」彼女は言う。「でも、あなたが約束したからではありません」
「では何だ」
「ガンドが代わりの食べ物を見つけました」
ガンドが北斜面へ案内する。
数百頭の綿雲羊が夜色に押し合い、背の白毛は雲のように蓬々としている。頭を下げても草は食わず、草先の水気と空気中の遊離魔力だけを吸う。
「雲毛は三日ごとに一層伸びる」とガンド。「紡げる。焼いても食える」
「毛を焼くのか」
「毛じゃない。いちばん外側の新しい雲わただ」
小さな塊を千切り、手の中で薄い一枚に揉む。
フィアが暖風で少し炙る。
雲わたはすぐ膨れ、真っ白な餅になる。
一口嚙む。
味はない。塩を入れ忘れたパンのような口当たりだ。
「食べられる」とルミラ。「月豆の醤を足せば足ります」
問題は、刈れないことだ。
見知らぬ者が近づくと、綿雲羊は膨れ、四蹄が地面を離れる。
ガンドが実演したとき、最初の一頭が屋根の高さまで浮かんだ。
フィアが言う。「私がやる」
風で羊を下へ押す。
向きは正確だった。
力が少し大きかった。
羊は着地したあと怒り、彼女の懐へぶつかる。フィアは羊を抱えたまま斜面を転がり、一路さらに十二頭を飛ばした。
三十分後、晴風の上空は白い羊だらけだ。
羽民が高所から囲む。
子供が箒に乗って追う。
ベリーは新しい菓子だと思い、雲毛の一塊を銜えて離さない。
ジェリーは地面に広がり、落ちる羊を受け止め、連続で青い薄焼き七枚に潰された。
深夜までかかり、やっと方法がつかめた。
馴染みの牧民が先に宥める。
フィアは細い風だけで向きを固定する。
羽民が上空で逃げ道を塞ぎ、灰耳族が長い柄の鋏で両側から外層の雲わたを刈る。
最初の一回で、雲餅が三千枚以上取れた。
厨房三箇所が同時に火を入れる。
月豆の醤、塩、少量の蜂蜜で味がついた。グラボは砕けた雲餅を煮込みへ入れ、意外に腹持ちがよくなった。
糧食は二日分から、八日分まで延びた。
根本的な解決ではない。
羊群の産出には周期があり、月豆の田はまだ四十日で熟す。封鎖はいつまでも続くかもしれない。
だが翌朝、あの牛角族の子供は熱い雲餅を受け取った。
「明後日もある?」
今度は、すぐ答えなかった。
ルミラを見る。
彼女は厨房の在庫を計算する。
「今の人数なら、あります」
「ある」と僕は言った。
子供は卓へ走って戻る。
ルミラが新しい帳面を渡してきた。
表紙には、糧食、宿泊、住民登記の連合簿、とある。
「今日から、宿屋の三十六床だけを記してはいけません」彼女は言う。「山腹の寝床、すべてに数が要る」
一頁目を開く。
正式ベッド三十六。
仮の寝床四百五十一。
合計、ちょうど四百八十七。
晴風には、まだ五百の本当のベッドはない。
だが少なくとも、今夜誰がどこで眠るかを、数え始めていた。




