一話 シュヴァリエ伯爵家
最高品質のサファイアの産地として王国に名を知られている、シュヴァリエ伯爵領。
その地を治めているシュヴァリエ伯爵夫妻はとても穏やかで、領民からの支持も厚い。そして、夫妻の大切な一人娘であるクラリス・アデル・シュヴァリエは……まるで天使のように可愛らしい子だと言われていた。
太陽の光を反射してキラキラと輝く、美しいブロンドヘアー。影を落とすほど長いまつ毛。陶器のように白い肌に、血色の良い薄い唇。そして、サファイアのように美しい瞳……。
豊かな領地、優しい伯爵夫妻に囲まれ、クラリスはすくすくと成長していた。誰が見ても仲の良い、微笑ましい家族。
女性でも爵位を継げるこの王国で、きっと彼女は立派な次期伯爵となるのだろう。領民の誰もが、そう思っていた。
しかし、悲劇というものはいつだって、なんの前触れもなく訪れてしまうものだ。
だが、シュヴァリエ伯爵家の馬車が事故で崖沿いの道から転落してしまうなど、誰が想像していただろうか。
護衛兵も御者も伯爵夫妻も、皆事故で亡くなってしまった。唯一生き残ったのは、伯爵夫人に強く抱きかかえられるようにして守られていたクラリスだけだった。
それも、少しでも発見が遅れていたら命はなかったであろう程に衰弱していたらしい。
そしてこの日から、完璧だったクラリス・アデル・シュヴァリエの……いいえ、『私』の人生の歯車は、音を立てて大きく狂いだしていったのである。




