二話 家族
わずか六歳にして両親を亡くした私は、父の妹……つまり、叔母とその夫であるモルディア子爵夫妻の被後見人となった。
生まれ育った家の方がショックも和らぐだろう……そんな理由で、モルディア子爵家が私の家に引っ越してきたのだ。
「辛いと思うけど、一緒に乗り越えましょう。私のことはお母さんだと思っていいからね」
そう言って優しく手を差し伸べてくれた叔母の手を、当時の私は素直に取ることが出来なくて。
「私のおかあさまは一人だけだもん!」
私は叫びながら、叔母の手を激しく振り払ったのである。それに対し夫妻はとても困ったような顔をしていたのをよく覚えている。
それからの私は、心を閉ざしてずっと部屋の中に引き籠っていた。朝食も昼食も夕食も、誘われたって絶対に部屋で寂しく食べていた。使用人の皆もそんな私を気遣って……いや、どう接したらいいかわからなかっただけかもしれないけれど、あまり私に話しかけてこなかった。
そんな私を気にかけてくれたのが、モルディア子爵家の子供達だった。私より歳が二つ上である姉・ヴェロニカと、まだ産まれたばかりの弟・シリル。
赤子だったシリルはとにかく、ヴェロニカはとても熱心だった。何度断られたとしても私を遊びに誘い、どんな態度を取られようとも、「私のことはヴェロニカ姉様と呼んで!」と笑顔で接してきた。
……そんな引き籠もり生活を、六年続けた頃だろうか。周りの貴族の子達はお茶会に参加し始める歳だというのに、私は絶対に顔を出すことはしなかった。
けれど、ある日突然転機が訪れたのだ。
六歳になったシリルが、私の部屋に突然一人で入ってきたのである。
当然、私はすぐに追い出そうとした。でも、私が両親を亡くした歳であるシリルを邪険には出来なかった。
それからシリルは、戸惑っている私の手を両手で優しく包んでから、こう言ったのだ。
「クラリスねえさま、いたいいたいなのね。でもね、ぼくたちがいるからね。いたいのいたいの、とんでけ」
そう唱えながら涙をぽろぽろと流すシリルを見て、「あぁ、この子は私の境遇を誰かから聞いてしまったのだな」と察した。
同時に、私のために涙を零すこの子が酷く愛おしく、昔の自分と重なって見えて……。両親を失ってから心を閉ざしていた私は、大声をあげて泣いた。
その声に驚いたらしい夫妻やヴェロニカも集まってきて……皆に抱きしめられながら、私は涙を流し続けた。
「お義母様、お義父様、ヴェロニカ姉様、シリル……今まで、ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」
この日、私は初めてモルディア家の人々に心を開いたのだ。
六年ぶりに『家族』という温かさに触れた、大切な一日だった。




