表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白猫妖精と屋根裏公子の運命論  作者: BPUG


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

Ep04. 妖精契約


 妖精王から祝福された愛し子を傷つける者たちをずたずたにしてやりたいですが、一介の妖精ではすぐに何かを為せるわけではありません。

 美しく高貴な私であっても、人間界に勝手に介入してはならないのです。

 介入できるのはすべての妖精を統べる妖精王、あるいは人間と直接契約をしている妖精のみ。

 そう、私があの子供のために何かをしようとするならば、あの子供と契約をせねばなりませんの。


 さきほど部屋を綺麗にしたような簡単な魔法で、人間への大きな影響がないものは自由に使えます。

 ですがあの妖精の愛し子を傷つけるものを痛めつけるための魔法は禁じられています。それを使ったら私という存在が消されてしまうのです。


 ということで私がすべきは、まずあの子供からの信頼を得て契約を結ぶことです。

 この高貴な妖精である私が人間ごときに媚びることは矜持が許しません。ですが愛し子となれば話は別ですわ。

 愛し子が健やかで幸福であることが何よりも優先されるべきですから。


 そしてもう一つ気になることがあります。

 それは私自身のこと。

 この誇り高き妖精である私が、あまつさえただの猫という存在として己を認識し、そのように振舞っていたこと。

 断じて許せません。


 この公爵家には何か、妖精の意識を阻害する悪辣な魔術が施されているようです。

 間違いなく、愛し子が祝福を受けるのを阻むためでしょう。

 子供の言い分では、これまで何体かの妖精が彼の元を訪れて話しかけたことがあるようでした。

 それなのに今だにあの状況なのはなぜか。

 子供が言った悪魔という言葉から推測するに、公爵家の誰かが「それは妖精などではなく悪魔が語り掛けているのだ」などと吹聴したにちがいありません。

 その思い込みをどうにかしないといけませんわね。

 今日魔力を器に封印したことで、あの子の心に変化があれば良いのですけど。


 さて、契約までは時間がかかりそうですので、それまでにできることを進めていきましょう。

 まずはあの子供が健やかに成長できるように、食事や生活環境の向上に務めましょう。

 それからこの公爵家で何が起こっているのかを徹底的に調査せねばなりません。

 公爵家ともなれば、建国に関わった妖精王の逸話も伝わっているはずです。それなのに愛し子へのこの仕打ち。

 公爵家の血族の堕落、あるいは公爵家の血を汲まぬ何者かによる計略が疑われます。

 妖精王様に報告をして、人間の王の耳にも入れてもらわねば。


 妖精の愛し子がいる国は繁栄すると言われています。もちろん、厳密には違います。

 妖精の愛し子を愛する妖精が、愛し子がいる場所を豊かにしようとする。それが引いては国の反映に繋がるのです。

 強欲な人間の王にとってそんな細かな事はどうでもよいようですが。

 なんにせよ、人間側からも公爵家に介入すべきですわね。


「んにゃぅ」

「あら、マリー、どうしたの?」


 私をマリーと呼ぶメイドは鼻先にそばかすが散った素朴な子です。この屋敷の中では一番純粋な子で、妖精の眼で見れば彼女の周りに精霊がいくつかついているのが分かります。

 魔力量は多くないものの、心地よい空気を纏っている優しい子ですわ。

 そして心優しい子ですので、私のことをただの猫と思っていて頻繁に餌をくれるのです。


「今日はね、美味しいお菓子があるの。マリーも食べられると思うけど」

「んな~ぅ」


 そう言ってポケットから取り出されたハンカチから、ほのかに甘い香りが漂ってきます。

 ヒクヒクと鼻を動かすと、ピンッと立った髭がせわしなく揺れます。勘違いしないでいただきたいのですが、これは決して私が貪欲だからではありません。

 何か変なものが含まれていないか確認をしているのです。そう、あの愛し子のために。

 ハンカチの上には、ベリーが練りこまれた焼き菓子が二つ。甘い香りに、ちょっとだけ焦げた匂いがします。


「公爵様に焦げたものをお出しするわけにはいかないからって、侍女の方が私にくださったの」


 焦げ目をクンクンと嗅いでいたら、メイドの子が教えてくれました。

 これくらいならばあの愛し子も食べられるかしら。

 本来ならば公爵よりも高い地位につき、贅沢を享受してしかるべき愛し子が下げ渡されたものを食べるなど許せませんが、今はいたしかたありません。

 焼き菓子の乗ったハンカチを咥え引っ張ると、メイドの子が首を傾げます。


「マリー? 食べないの?」


 ただの猫だったころの私はこの場でメイドの子が差し出すものを食べておりました。ですが今日からは愛し子にこの食べ物を届けねばなりません。

 ......いえ、そういえば私、こんなときに有用な魔法が使えるんでしたわ。でもこのメイドの前で使ってもいいのかしら。

 そう迷っていると、遠くからもう一人別のメイドがやってくるのが見えました。


「……スーザン! どこにいるの?」

「あ、私、もう行かなきゃ。あれ? マリー、もう食べたの?」


 名前を呼ばれてメイドの子が顔を上げた瞬間、私は魔法で二つの焼き菓子を隠します。

 メイドの子はどこに行ってしまったのかと驚いた様子でしたが、私がペロリと口周りを舐め、顔を洗って見せると私が食べたと思ったようでハンカチをポケットにしまいました。


「じゃ、またね、マリー」

「にゃう」


 焼き菓子をありがとう。ちゃんと愛し子に届けさせてもらうわね。

 尻尾をふりふり、私は公爵家の使用人用の廊下を進みます。

 そこでふと私は閃いてしまいました。妙案、いえ、これは天啓とも言えます。

 魔法が使えるのです。ちまちまと公爵のおこぼれをもらうよりも、遥かにいい方法があるではありませんか。

 直接的に人間を害する魔法は契約前には使えませんが、愛し子が受けとるべき物を頂くのであれば許されるでしょう。



 さぁ、目指すは、厨房です。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ