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白猫妖精と屋根裏公子の運命論  作者: BPUG


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Ep.03 愛し子

 

「あなた、その魔力は……愛し子なのね」


 驚きがおさまったと同時、私はすべてを理解しました。

 猫という体の中に入った私という人格を解き放ったのは、この子供だということを。

 この子供に宿る魔力が、妖精としての自我を押さえつけていた枷を壊したのだということを。


 急に声を発した私を、零れ落ちそうなほどに両目を広げて見つめる子供。

 その中にわずかな怯えが見てとれ、私はフスッと小さく嘆息しました。一般的に猫は話さないんでしたわね。


「お礼を言うわ。私に掛けられていた魔術を解いてくれてありがとう」

「……魔術?」

「ええ、そうよ。優秀で美しい妖精である私を、ただの猫と認識するようにしていた魔術。それをあなたが持つ魔力が壊してくれたの。あなた、とても高い魔力を持っているのね」


 私の言葉にビクリと子供が体を揺らしました。

 目の中には先ほどとは別の恐れが浮かんでいます。


「ぼ、ぼく、魔力なんて」

「あるわよ」


 子供がううむくと、長い黒髪が彼の顔を覆います。その足元に行って彼を見上げれば、子供は虚ろな目をしていました。

 いったい何がこの子供をこんなにも怯えさせるのでしょう。

 くるりと彼の足元を回ってから、首を回してあたりを確認します。

 狭い部屋に瘦せこけた不潔な子供。一体なぜなのか、疑問が湧いてきます。


「コウシャクケってこんな場所に子供を閉じ込めるような、悪辣非道なことをするものなのかしら?」

「それは……僕が、悪魔憑きだから」

「悪魔? あなたには何も憑いていないわよ?」


 妖精の眼を持つ私を、悪魔ごときが誤魔化すことなどできませんわ。

 それに子供の周りには高密度の魔力が漂い、ちっぽけな悪魔は近づくことなく消滅するでしょう。

 かえってこの魔力を求めて集うのは、私のような知と美しさを兼ね備えた妖精や、自我を持たない精霊たち。今も彼の近くを飛び回っています。

 先ほどまでただの猫だと思い込んでいた私には見えませんでしたが、今は全てお見通しです。


「嘘だ。僕がいると、変な事が起こるって」

「変な事ですか?」

「さっきみたいにバチバチしたり、物が倒れたり……」


 ちらりとこちらを見て彼は続けます。


「いきなり動物がしゃべり出したり」

「あら、それは妖精と精霊のせいね。あなたの魔力に惹かれて集まってきているの。精霊はあなたを守ってくれるわ。それに私のような妖精に会えるなんて光栄よ? 感謝しなさい?」

「かんしゃ……?」


 小さく呟いて、子供が黒い髪の毛の隙間から私を睨みます。

 恐れ以外の感情を初めて子供が見せました。

 それは怒り。私を射抜くような鋭い眼差し。興奮からか、藍の目が銀に近い冷たい輝きを放っています。それこそが、高い魔力を持っていることの証。

 子供から放たれた魔力がうねり、渦を巻いているのが私の妖精の眼には見えます。


「僕がこんなとこにいるのは、悪魔のせい。閉じ込められて、食事がなくてもなかなか死なない。傷ができてもすぐに治る。悪魔のせいだ! 感謝なんか、するわけがない!」


 激しい魔力の波が迸り、ピシピシと部屋の中が揺れます。あまりに強大な魔力の塊。

 これがこの子供を生かし続けていたのでしょう。

 心弱い人間が避けるのも理解できます。彼らは狭小で、私たちのような存在の意味を分かっていないのです。

 いえ、分かろうともせず、自分たちがさもこの世界の中で一番偉いかのようにふるまうのです。


「仕方がないわね」


 荒れ狂う魔力が私の美しい白い毛並みを逆立ててしまっています。毎日綺麗に整えているというのに、全くもって許せませんわ。


「ンニャァ!」


 一声鳴き、子供の周りを覆う魔力の渦に飛び込みます。パチパチと過剰な魔力が弾けるのが伝わってきますが、そんなことで怯む私ではありません。

 ベッドの上に駆け上がり、さらに弾みをつけて前足を伸ばします。


「ニャァ!」


 掛け声とともに、肉球をペッタンッと子供の額に押し付けます。

 すると荒れ狂っていた魔力が静まり、部屋の中は再び元に戻りました。

 いえ、魔力渦のせいで部屋の埃が酷いことになっています。これでは私の美しい毛が汚れてしまいますわ。


「んなぁ~ん!」


 愛らしい高い声を響かせ、魔法を発動します。

 煌めきが狭い部屋の中に広がり、あっという間に清潔な環境へと様変わりさせました。

 あら、さすが私の魔法ですわ。薄汚れていて脂ぎっていた子供の髪がサラサラになっています。

 ぼさぼさな髪形はそのままなのが私の美的センスをビシビシと刺激してきますが、今はどうにもできないのでこのままにしておくしかありませんわね。


「あなた、魔力が漏れすぎなのね。だから精霊を呼んでしまうの。ちゃんと体の中に留めれば上手く魔力を扱えるようになるわ」


 妖精の力で一時的に魔力を子供の中に封印しました。封印と言っても器の外から出ないようにするだけで、子供本人が願えば自由に使うことができます。


「う、ぐ……」

「今は休みなさい。目が覚めたらちゃんと体の中の魔力が分かるようになるわ」


 胸元を押さえて呻く子供に告げます。

 子供はしばらく抗うように唸った後、ぽすりとベッドに倒れこみました。その体を魔法を使ってちゃんとベッドの上に横たわらせた後、ふうっと息を吐きます。

 この子供は膨大な魔力を持った妖精の愛し子。愛されるべき存在で、こんな扱いを受けているべきではありません。

 この家を調べる必要がありますわね。




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