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白猫妖精と屋根裏公子の運命論  作者: BPUG


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Ep27. 再会



 ガシャアーーーンッと音を立ててガラスが砕け散る音が聞こえました。

 ギルが馬首を巡らせ、見上げたその先──子供が黒い髪をなびかせて宙に飛び出してきました。


「オーちゃん!」

「オーガスト様!」


 トントンッと宙を蹴り、ガラスの破片をまき散らしながら落ちてくるオーちゃんの元へと駆けます。あんな所から落ちたら、いくら魔力で体が強いとはいえ、オーちゃんでも無傷ではいられません。

 魔法は、今度は問題なく発動しました。


「キラン!」


 ふわりと落下速度が遅くなったことに気づいたオーちゃんが、私を見つけて顔を輝かせます。

 まだ地面に安全に着地もしていないのに、簡単に気を抜くものじゃないわよ。

 でも伸ばされた腕が私を包み込んだ時、そんなことはどうでもよくなりました。私のふわふわの毛に顔を埋めてオーちゃんが嬉しそうに息を吐きます。


「オーちゃん、離れててごめんなさい」

「キラン、無事で良かった」


 ゆらゆらと宙を泳ぐようにしてオーちゃんの体が少しずつ地上に近づきます。

 オーちゃんは足で立つこともなく、ペタンっと地面にお尻を付けました。

 それを見たギルが追いついて、「オーガスト様!」と声を上げます。続けて騎士たちが次々に下馬して離宮の中と外に散っていきました。彼らはこれからオーちゃんをさらった者たちを捕まえに行くのでしょう。


「キラン、会えてよかった。大丈夫だった?」


 頬をぐりぐりと私の顔にこすりつけて尋ねるオーちゃん。それはこっちの台詞だと言いたいですが、心配されるのを心地よく感じてしまうのも事実です。


「ええ、私は妖精王様が守ってくださいました。オーちゃんは? あんな高いことろから飛び降りて、無茶しすぎよ?」

「へへっ、僕、頑張ったでしょう」

「んもう! 助かったから良かったものの、大怪我するところよ?」

「でも、ギルが教えてくれた身体強化があったから、たぶん大丈夫だと思って」

「ギル……」


 私たちの元に駆け寄ったギルを見上げると、彼は心外だと言うように肩をすくめました。


「ギルのおかげで縄から抜け出せたんだ」


 そう言ってオーちゃんが見せてくれた手首には、くっきりと縄で縛られていた痕が残っています。

 なんてことを、大事な大事なオーちゃんにしてくれやがったんですか、あいつらは!

 しかもオーちゃんの可愛らしい顔にも傷がついているではありませんか!

 憎くて憎くて、胸の奥が焼け焦げてしまいそうです。


「放せ、私を誰だと思っている!」


 高圧的な声が聞こえ、私はオーちゃんの腕の中から顔を上げました。

 特徴的な赤みを帯びた髪が揺れ、常に傲慢さを露わにする目がこちらを見ていました。


「おや、行方不明だった公子が見つかったのですね。それは良かった。でしたら私の僕にかけられた冤罪も晴れたというわけですか」

「冤罪ではありません。目撃者が多数おり、本人がゾルバーンからの使節団と入国したと発言したのを聞いた者もいます」

「なるほど。そのような者が我が国から出るとは嘆かわしい。そのような輩には厳重な罰を与えてください」


 自国の魔術師、それも恐らくこの男自身の命令で動いていたであろう部下でしょうに……いやにあっさりと身をひきますわね。


「……さっき、あいつの仲間が言ってた。裏切らないように術を施してるって」


 ボツリと呟いたオーちゃんの声が聞こえました。

 私と、すぐそばにいたギルの視線が合います。ギルはすぐに騎士を呼び寄せて伝言をしました。誰か魔術に詳しい人間が取り調べを行うなどしてくれればいいのですが。


「フェルナンド殿下、離宮の中を改めさせていただきますが、よろしいですね?」

「ええ、どうぞ。お好きなように」


 胡散臭いほどに冷静な笑みが浮かびます。なんでこんなにも余裕なのでしょう。


「ギル、待って」


 そこでオーちゃんが立ち上がってギルを呼び止め、彼に耳打ちしました。オーちゃんの腕の中にいる私も必然的に内緒話の内容が届きます。


「閉じ込められていた場所、見えない魔術が仕掛けてあって、魔法が使えないようになっていた。魔力を目に集めて、不自然な魔力を目で追ったら、魔術が見えた」

「なるほど。流石です。捜査に当たる騎士には魔術に注意するように伝えましょう」


 オーちゃん、天才ですわ!

 魔術とは周囲にある魔力を吸収して作用します。それをまさか目に身体強化を施して見破るなど、まさに天才の発想ですわ!

 妖精である私には魔法のことは知り尽くしていると言っても過言ではありませんが、魔術は全くの別の人間が生み出した技術です。

 魔力を目に……やってみたくなりますわね。

 青く澄んだ私の目に、私の体を作る魔力の流れを導きます。すると肉眼で見えている世界の上に、霞のようなものが映りました。


「まぁ、確かに魔力が僅かに見えますわね」


 不思議な世界です。魔力は自然の中に満ちている、それを体現できるのです。

 興味津々で周囲を見回していると、魔力がスッと動いたのを目の端に捕らえました。

 導かれるようにそちらに首を回します。

 騎士たちが動き回る中、その向こうにある物体の輪郭すら見えないほどに魔力が濃くなっている一画がありました。

 ぼんやりとした人間のシルエット。魔力を切れば、確かに一人の使用人らしき男が立っていました。


「……オーちゃん、あの男、魔力を集めてます」

「え?」


 オーちゃんとギルがその男へと視線を向けました。

 その直後、男が走りだしました。


「うおおおおおおおお!」


 叫びと共に、男がこちらへと向かってきます。


「オーちゃん!」

「止まれ!」


 ギルが剣を抜いてオーちゃんの前に立ち、男へと向けて制止の声を上げます。

 男の顔に浮かぶ決死の表情。

 男の服の中が光始めるのが見えました。

 あれがなんであれ、オーちゃんに害なすものというのは分かります。


「発動させないで!」

「分かってる!」


 ギルが剣を振り上げた瞬間、私は尻尾でオーちゃんの目を覆いました。

 オーちゃんが小さな声で「わふっ!?」っと言うのと、男が叫びを上げて地に倒れ伏すのは同時でした。


「魔術は、どうなりました?」

「恐らく、破壊できたかと」


 私とオーちゃんを後ろ手でその場にとどめ、ギルは警戒を緩めずに他の騎士を呼びよせました。

 すぐに騎士は男の死体を検分し、眉を顰めました。

 確かに魔術が光って見えていたのに、男の体には何の痕跡も残されていないのです。服にも、その下の肌にも。

 思わず顔を見合わせた私たちですが、ジャリッと足音がしてすぐに体の向きを変えました。そこには眉を下げ、珍しく申し訳なさそうな顔をする赤毛の男が立っていました。


「重ね重ね、うちの国の者がご迷惑をおかけしてすみませんね。いったいなんでいきなり走り出したのか……武器も持たずに何をするつもりだったのでしょう」

「フェルナンド殿下、申し訳ありませんがそこから動かないでください」


 抜き身の剣を握ったままでギルが告げます。

 ですが男はまた一歩前に足を踏み出しました。

 オーちゃんを守る盾となるかのように、何人もの騎士が立ち並びました。


「殿下、止まってください」

「いえ、大丈夫ですよ。すぐに……効果は出ますから」


 そう言って男は唇の端を歪め、オーちゃんに笑みを向けました。


(いったい、この男は何を?)


 訝しく思ったその時、オーちゃんの体が糸の切れた操り人形のようにがくりと崩れ落ちました。




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