↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白猫妖精と屋根裏公子の運命論  作者: BPUG


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/33

Ep26. 脱出


 オーちゃんの魔力は絶えず一ヶ所から流れてきています。

 私が大まかな場所を伝えれば、ギルは顔をこわばらせて「そこは使節団が滞在中の離宮です」と呟きました。

 これは、確定ね。

 でもそんな分かりやすいところにオーちゃんを監禁するなんてお馬鹿……少し頭がたりないのではなくて?


「実は国王陛下の指示で、ゾルバーンの拠点をここ数ヶ月で一斉に潰して来ました。もしかしたらそのせいで他に隠せる場所がなかったのかもしれないですね。あと作戦の指揮を執っているのが、使節団の代表として来たフェルナンド王子である可能性もあります」

「フェルナンド、王子?」


 その名前を聞いた瞬間、頭の奥に痛みが走りました。

 同時に、脳裏に出会ったこともないはずの人間の顔が浮かびあがります。


「その人間って、嫌味ったらしい笑みが張り付いたような顔をしてません? それに髪の毛は赤味がかっている?」

「え? キラン様、フェルナンド王子をご存じで?」

「ううん……でも、なんとなくそう思ったの」


 この既視感は確か前にもありました。妖精王様にお尋ねしようとしてすっかり忘れていましたわ。

 次の機会まで待つしかありませんわね。


 王宮から公爵邸まではさほど離れていません。

 ギルを先頭とした騎士たち二十人ほどは、馬を走らせて王宮の敷地にたどり着きました。


「オーちゃんの魔力はあっちよ」

「離宮もそちらです」


 互いに頷き合います。

 騎士が集団で正門を駆け抜けていくため、貴族らしき人間が何事かと叫んで騎士を止めて事情を聴こうとしています。

 それを騎士たちは「陛下勅命の任務中だ!」とバッサリ切り捨てて進みます。余計なことに時間を使っている暇はありません。

 ドドドドドッという地響きが鳴り響きます。それはまるで戦いを告げる合図のようです。

 決して敵が攻め込む破滅の足音などではなく、味方が心を一つにして進む音であることに安心感を覚えます。


「待ってて、オーちゃん。今行くから」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆



「畜生! くっそ。なんだよ、なんだってんだよ!」

「で、殿下。落ち着いてください」

「これが落ち着けるかよ! ウィーレリアのクソどもめ!」


 大きな声を上げながら入って来たあいつが僕を睨み、その勢いのまま僕の腹を蹴り上げた。

 即座に腹に魔力を集めて守ったけれど、衝撃が腹部を襲い、ぐっと息が詰まる。


「げっほ、ごほっ!」


 防御したことを悟らせないために大げさに咳を繰り返す。体を丸めて転がると、今度は背中を蹴られた。

 容赦ない暴力。痛みが全身に広がって、涙が込み上げる。


「公爵家の次男だぁ? 放置されてたガキじゃなかったのかよ」

「そ、そうです。我が国出身の公爵夫人経由で、こいつは悪魔だと洗脳して閉じ込めておくようにと指示しました」

「んあ? それにしては健康そうに見えるんだよな」


 髪を掴まれ、顔を上げさせられる。

 赤い髪をしたやたらと派手なそいつの顔が間近に迫る。さっき見た嘲笑は消え、僕を覗き込む目は怒りに燃えていた。


「お前、とっとと死ねよ。お前のせいで俺の大事な駒が取られそうになってんだよ」

「ぐあ!」


 後頭部を掴まれ、思いっきり床に叩きつけられる。額が切れて、血が流れ出した。

 グラグラ揺れる視界。揺れがおさまる前に、衝撃がまた訪れる。


「……っつぅうあ!」

「フェルナンド殿下! せめて我々がこの国を出るまでは、人質として生かしておく必要があります!」

「とっとと殺して、俺たちは関係ねえって主張したほうがいいんじゃねえのか?」

「魔術師がこいつを捕まえた時の目撃者が多すぎるのです。派手に動き過ぎました」

「ちきしょう!」


 太ももに靴の硬い踵が落とされる。鈍い痛みに「ああ、痣になるな」などと冷静に思う。

 どうやらこいつらの予期せぬ事態が発生して、その憂さ晴らしをされているみたいだ。

 公爵家に堂々と乗り込んで誘拐した癖に、バレないとでも思っていたのか?

 それとも王家が僕のことを愛し子だと認知していたのを知らなかったのかもしれない。ずっと公爵家を通してしか様子を把握してなかったのならあり得る。


 どっちにしたって自国ならまだしも、他国でやらかすには阿呆すぎる行動だと思うのは僕だけかな。

 キランがここにいたらあの可愛い顔で、空みたいに綺麗な目を細めて辛辣なことを言いそう。「頭の中には脳みそじゃなくって藁が詰まっているんでしょうね」とか、にっこり笑うんだ。

 キラン、無事でいる? 無事なら僕のところにすぐ来てくれるはず。

 そう信じているからこそ、今ここに君がいないことが不安で不安で仕方がない。


「あいつ、俺を裏切ったら容赦しねえ」

「大丈夫ですよ。魔術師には余計なことが言えないように魔術が施してありますから。ご安心ください」

「ああ、それならいい」


 さっきは大事な駒って言っていたくせに、自分が危なくなるなら簡単に切り捨てる。傲慢で自分勝手だ。

 大きなため息を吐き、この物置みたいな部屋で唯一の椅子にどさりと腰を下ろす。勢いが付きすぎてガタリと大きく揺れ、忌々しそうに舌打ちをした。

 自分が優位に立っている時はあんなにも余裕な笑みを浮かべていたのに、状況が変化しただけでこんなにも慌てるなんて。


「無様だね」

「は?」


 魔力を体内で回して蹴られた場所を活性化させて修復する。これで回復魔法と同じような効果が得られるはず。

 上半身を起こして、ゾルバーンの王子らしい男を見上げる。


「自分の思い通りにならなくて癇癪を起してるの? ここはあんたの国じゃないんだから、好き勝手出来るはずがないのに」

「黙れ、クソガキ。家族に捨てられて、みじめなところを俺が有効活用してやるから、それまで生きていたかったら黙ってろ」

「別に家族に捨てられたのはどうでもいい。あの人たちのこと家族だなんてもう思ってないし」

「黙れっつってんだろうが!」


 王族だなんて信じられないくらいに荒れた言葉遣いで、男が僕の腹を再び蹴り上げた。衝撃で一瞬体が浮く。でもこんなことなんでもない。

 僕と血の繋がった人たちは、僕を悪魔と呼んだ。目が合えば殴られ、蹴られた。光も入らない狭い部屋に閉じ込めて会うこともなかった。食事も思い出したように届けられるだけで、ギリギリ魔力で生きていた。

 それは家族がすることじゃないって、もうとっくの昔に知っている。


 キランがいてくれたから。教えてくれたから。本当に大切な人にはそんなことしないって。

 僕はキランがいる。家族なんてどうでもいい。

 僕に対してしたことが明らかになれば、あの人たちだって罪に問われる。ギルが調査してすでにそう決まっている。

 だから、僕はこんなところにいる必要なんてない。

 キランのところへ、行くんだ。


「どいて。僕は帰るから」


 魔力を手に集める。

 すると両手を縛っていた縄はただの糸のようにぶちりと切れた。

 パラパラとちぎれた縄が床に落ちる前に、魔力を両足に込めて一気に扉へと向かう。

 あの魔術はこの部屋の中での魔法を制限するもの。

 もっとここに長く閉じ込められているんだったら、魔術を破壊しようと考えていた。でも事態が急速に動いている今、ここから逃げ出す方が先だ。


「くそ! 捕まえろ! そいつを出すな!」

「はっ!」


 こいつらは入ってきた時に鍵すらかけていなかった。僕が逃げられるだなんて微塵も思っていない。そんな傲慢さの現れだ。

 ドアノブを回せば、すぐに廊下だ。


 どっち? どっちに行けばいい?


 迷う前に足を動かす。

 すぐ後ろから伸びた腕が、粗末な服の襟足をかすめた。


「止まれ!」


 止まるか、ばーか。言ってやりたいけどそれよりも逃げるほうが先。

 体を低くし、床を蹴り上げるようにして右に飛び出す。

 窓を見つけなくちゃ。

 この建物の中、どこに魔術が仕掛けられているか分からない。

 僕の予想通りでここが王城の敷地内だったら、建物から飛び出せばどこかに騎士がいるはず。

 こいつらの魔術師を拘束したんだったら、絶対に見張りがいるはずだから。


 ──窓!


 廊下の先、綺麗に縁取られた大きな窓から光が降り注いでいる。

 木の枝が見える。ここは二階か、それ以上。でも怖れることはない。


「……止めろおおおお!」


 あの憎ったらしい奴の叫びが聞こえた。

 その声を背に受けながら、僕は勢いよく窓へと飛び込んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。