Ep18. 進展
ゾルバーン王国とのつながりを調べていた使者から秘密裏に報告があると言われ、エドマンド国王は宰相と共に彼に会った。
「陛下、宰相殿。お会いできて光栄です」
「クローリー伯爵、面倒な挨拶はいい。それで、報告とは?」
謁見室よりも狭く、内密な話し合いに使われる部屋に入るなり挨拶もそこそこに伯爵を急かし、どかりと椅子に座る。宰相もヒラリと衣服の裾を広げ、彼の指定席に腰を下ろした。
クローリー伯爵は腹に手を添えて一礼し、今日彼が得た重要な情報を口にした。
「愛し子と思われる人物から、接触がありました」
「……それは、本物か?」
これまで散々偽物に振り回されてきたエドマンド王は、肘置きに置いた手をこめかみに当てて鋭い眼差しを伯爵に向ける。
伯爵は一つ頷き、「本日、スフォルト公爵家に赴きました」と言ってまずことの経緯の説明を始めた。
現スフォルト公爵はゾルバーン王国出身の妻を持っており、今回の調査でも対象リストのトップに入っている。
今日の面会に現公爵夫人が現れなかったこと、公爵の態度、次代となる長子の様子などを聞くだけで、国王の顔は白けていった。
だが伯爵が「次男が、愛し子と思われます」と告げた途端、両目を見開いた。
「公爵家の次男?」
「はい。私の妖精が実際に彼に会い、手紙を預かってきました」
伯爵は国王と警備する騎士に許可を取ってから、彼の妖精を呼び出す。
妖精と契約している者はむやみやたらに公の場で妖精を見せることはしない。妖精によって守れらている一方で、妖精が攻撃手段ともなりうるからだ。
「ほら、ビーク、教えてくれ。今日は誰に会った?」
伯爵は腕に止まったやたらとカラフルな鳥に向けて尋ねる。すると鳥は「クエ! イトシゴ! 会った!」とけたたましい声を上げた。
わずかに顔を顰めた国王に申し訳なさそうにしつつ、伯爵は続けて懐から折りたたまれた紙を取り出した。
それを近くの騎士に渡し、騎士が国王の元に持っていくのを目で追いながら「その次男から預かった手紙です」と言った。
国王はそれを広げ、目を走らせてフッと目元を緩める。
「読んでみろ」
「はい」
回された手紙を受け取り、宰相は声に出して読み上げ始めた。
「僕はオーガストです。今年十一歳です。家族は悪魔と呼んで僕は屋根裏で生活してきました。でも去年、猫の妖精のキランが来てくれました。僕は愛し子だそうです。ケネスも僕の味方です。この家には恐ろしい魔術が何か所もあります。気を付けてください」
「このケネスというのは、調べたところ公爵家に仕える家令だそうです」
伯爵が補足する。
国王は口ひげを擦り、また小さく笑う。貴族教育を受けたことのなさそうな文字と文体。十一歳ともなればもっと賢い文章がかけそうなものを。
偽物の愛し子としてスフォルト家が用意したのか、それとも実際に虐待を受けた子供からの決死の手紙なのか。
どちらにせよ、真実を吐きとめなければならぬ。
「公爵家を調べねばな」
「そのことで一つご提案が」
クローリーの申し出に国王は無言で続きを促す。
「スフォルト家訪問に同行した騎士で妖精つきの者がおり、その者の妖精も愛し子に会ったそうです。もし愛し子、あるいはケネスと接触する必要があるのでしたら、その騎士を使うのはどうでしょうか」
「ふむ。その者は信頼できるのかね?」
宰相の質問に伯爵は頷き、「念のため連れてきて、部屋の外で待たせています」と言った。
エドマンドと宰相は顔を見合わせて「伯爵はなかなか優秀だ」と褒め、騎士を部屋に入れるように命令する。
伯爵は深く礼を取り、扉を警護する騎士たちに彼を連れてくるようにと告げた。
「第三騎士団所属のギルフォードです」
名乗った騎士に頷き、国王は早速クローリー伯爵から聞いた話の裏を取り、さらに今後公爵家の調査に加わる気があるのかとギルフォードに尋ねた。
それに対しギルフォードは素早く騎士の礼を取り、「是非」と答える。
「愛し子を見つけることは、全ウィーレリア国民の悲願です。それに携われることはこの上ない光栄です」
「では詳細はクローリー伯爵、ならびに騎士団長と共に進めてくれ。ゾルバーン王国が魔術を用いてあの屋敷を見張っていることをくれぐれも忘れるな」
「承知いたしました」
命令を受け、クローリー伯爵と騎士ギルフォードが部屋を退出する。
それからエドマンドは宰相を見て、「そなたはどう思う?」と尋ねた。
宰相はしばし黙したあと、「安直すぎる気もしますね」と呟く。
スフォルト公爵夫人がゾルバーン王国出身なのは、貴族の誰もが知っているからだ。
「ゾルバーンと繋がっているのが当たり前すぎて、怪しまなかったというのもあるがな」
「誰もかれもが怪しいですな。しかし妖精の証言があるのは強い。今までの偽物も、妖精たちが受け入れないのを見てきましたから」
「確かにな。それだけで愛し子だと信じたい。だが疑いが残るのも事実」
「ギルフォードが良い情報を持ってくることを願いましょう」
「ああ」
ここ数年の自然災害で国内が荒れつつあった。
そのため外交よりも国内の安定を優先で動いてきたが、あちらがウィーレリアに手を伸ばしてきたのならば話は別だ。
「国内、とくに王都にあるゾルバーン王国関係の拠点をつぶせ。名目はどうにでもなるだろう」
「一斉に、ですか?」
「一気にやれば、愛し子から目を逸らすことができるかもしれん。あるいは……躍起になって愛し子に手をかけようとするかもな」
ともすれば愛し子を囮にするような発言に、宰相は眉を寄せる。だがすぐに「手配いたしましょう」と答えた。
これで少しは国内外が落ち着くといいのだが……国王の仕事はいつまでたっても終わりが見えない。
嘆息しつつ立ち上がり部屋を出ようとするエドマンドに続きながら、宰相は周囲の騎士に聞こえないような細やかな声で尋ねた。
「姫の様子について妖精王からは、何も?」
「相変わらずだ」
「そうですか……姫であるならば、妖精に頼んで愛し子の捜索に協力してもらえたのですが」
「ないものを望んでも仕方あるまい」
妖精王によって建国されたとはいえ、王族ですら妖精王にたやすく会えるわけではない。
自然界を支配する妖精王に何かを願うということは、代償がつきものだ。それを国王たるエドマンドがむやみに頼るわけにはいかない。
愛する姫を心配する気はある。父親なのだから。
だが国王にとって、数万の国民も我が子供に等しい。どちらを取るか聞かれたら、国民一択。
「……あの子も、分かってくれる」
そう信じて進むしかないのだ。




