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白猫妖精と屋根裏公子の運命論  作者: BPUG


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Ep16. 難しい人選



 建物の陰からそおっと顔をのぞかせるオーちゃん。

 ゴーストの魔法で相手には見えないのですから堂々と入っても良いですのに……可愛らしい!

 すべての人に見て欲しいという願望と、このまま私だけが知っていたいという欲望で私の小さな心臓はちぎれてしまいそうです。ええ、妖精に心臓はありませんけれども。あくまで例えですわ。

 オーちゃんの視線の先には、訓練をする騎士たちの姿があります。


「すご……」


 やはり男の子ですわね。騎士たちの雄々しい姿にオーちゃんは先ほどから目をキラキラとさせ、そわそわとしっぱなしです。

 そんなオーちゃんを足元から見上げ、私は再び騎士たちへと視線を向けました。

 あの中にケネスが味方候補として挙げた人がいるのです。名前は――


「おい、ジーク。今度の警護について団長が確認したいらしい。団長室に行ってくれ」

「隊長、分かりました」


 ジークと呼ばれた若い騎士が隊長に礼を取り、訓練用の模造剣を壁に立てかけて去っていきます。


「キラン、キラン。あの人っぽいよ。追っかけなくちゃ」

「はい、行きましょう」


 待っていればまた戻ってくるとは思いつつ、確実に外見を覚えるためにもオーちゃんと共にジークを追います。

 ケネスのリストに書かれていた情報によれば、年齢はニ十歳。伯爵家の四男で継ぐ爵位がないため、騎士となって公爵家に仕えているとのことです。

 家族との関係が良好であれば、父親の伯爵を通して王宮に情報を進言してくれるのではないかというのがケネスの望みです。

 しかし、家族との関係はここ公爵家にいる間だけでは見ることができません。一旦味方になってくれるような人柄なのか、ということだけで判断することにオーちゃんと話し合って決めました。


 ずんずんと廊下を大股で進むジークを、オーちゃんは少し前かがみになってちょこちょこと追います。密偵でもなったような気分ですわね。

 ジークは騎士団の中で顔が広いようで、移動の間に何人もの騎士や従騎士と言葉を交わしています。

 オーちゃんキラキラした目で彼の背を見ています。


「よ、ジーク。団長のとこか?」

「ああ」

「今日の夜は暇か? 久しぶりに飲みにいこうぜ」

「お、いいな。団長の話が終わったら決めよう」


 あっという間に予定が決まってしまいました。人に好かれる性格をしているのは明白ですわね。

 ただ人との関わりが多すぎると、秘密を守ってくれるかどうかも心配になります。これはオーちゃんには言えませんけれど。


「団長、ジークです」

「入れ」


 短いやり取りの後、ジークは団長の執務室へと入って行ってしまいました。私たちは小走りに扉に駆け寄り、ピタッと扉に張り付きました。


「何も聞こえないね」

「部屋自体に防音の魔法が施されているのでしょうか。騎士団団長なんて、機密を扱う者ですから」

「そっかぁ」


 オーちゃんは残念そうにつぶやき、ペタンっと腰を床に下します。ここまで順調だったから残念な思いは私も分かります。

 中の様子を見ることができる遠見という魔法もありますが、対象の場所や人物にあらかじめ印をつけておかなくてはなりません。

 今日は無理ですが、いずれジークに近づいて印をつければ魔法が使えるようになるでしょう。高貴で美しい猫の姿をした私は誰にでも近づいて触れることができるから、印をつけることなどたやすいのです。


 そうオーちゃんに教えて遠見の魔法の原理を説明していたところ、一時間近く経って執務室の扉が開きました。

 私たちは思わずビクリと体を震わせ、廊下に座ったまま出てきた二人を見上げます。

 そしてその姿を見た瞬間、私はここに留まったことを後悔しました。

 ジークの頬はほてり、整えられていた髪は乱れ、きちんと止められていたはずの制服のボタンが外されていたのです。

 そこへと団長らしき人間が手を伸ばし、慣れた手つきでボタンを留めました。


「外れている」

「……誰が外したんですか」

「私だな」


 前髪が触れ合うほどに近い距離で会話をする男性二人。なんとも親密な空気が漂っています! これは明らかに交尾をした人間が出す空気です!

 オーちゃんに見せてはいけない気がします。

 どうしましょう。どうしましょう。私がそうやって焦っている間に、二人は連れ立って廊下を行ってしまいました。

 オーちゃんと私は同時にほっと息を吐きます。安堵した理由は私とは異なるものでしょうけれど。


「行っちゃったね。キラン、今度ジークに遠見魔法の印を付けに行くの?」

「あー、うーんっと、えっと、そうですね。えーっと、そうしてみますわ」


 もし遠見魔法で、私が考えているシチュエーションを見てしまったらどうしたらよいのでしょう。

 隠れて行われる人間の交尾など、猫としてしか自覚がなかった時代に何回か目撃しましたが興味などありませんでした。ええ、私には関係ありませんもの。

 ですが……オーちゃんが魔法で見てしまったら……オーちゃんは十歳。あとわずかで十一歳。

 人間の交尾繁殖について知ってもおかしくない年頃ですが……そういえば、確かケネスがオーちゃんの教師になれるような人も探すと言っていましたわね。

 であるならば、ここはケネスに任せましょう! 頑張るのよ、ケネス!


 オーちゃんには後日、ジークは猫アレルギーらしく猫に触ろうとしなかったと伝えました。オーちゃんに秘密を持ってしまったことに良心が痛みますが、こればかりは仕方がありません。

 また、団長とジークの関係をこっそりケネスに伝えたところ、ケネスは「団長は権力に弱く、公爵にも常におべっかを使っている」と教えてくれました。

 公爵が元々三男で後継者の教育を受けていなかったことをいいことに、自分の好き勝手に騎士団を動かしているらしいのです。

 つまり団長と恋仲であるジークを仲間に引き込むのは危険、と言うことです。


「……ケネス、オーちゃんがとてもジークの姿に憧れていたんです」

「そ、そうですか」

「ジークを候補から外すのをどう伝えればいいでしょう……ケネスのせいですよ、全く」

「すみません。えっと、そうですね。例えば、酒を飲むと口が軽くなるのが分かったとかではいかがでしょう」

「それならばオーちゃんの心を傷つけずにいけそうです。そうしましょう」


 そうしてジークはリストから外されたのでした。

 また別の日、オーちゃんと一緒に裏庭を散歩していると、私をマリーと呼ぶ使用人の女の子を見かけました。

 小さな精霊が周りにまう、純粋な子です。

 これから洗うのか、厚手のカーテンのようなものが詰まった籠を重そうに運んでいました。


「キラン、どうしたの?」

「あの子は猫だった私に優しくしてくれた子です」

「そうなの? キランのこと好きなら、味方になってくれるかも?」

「……いえ、やめておきましょう」


 仕事仲間と朗らかに笑う彼女を見て、私は首を振ります。

 不思議そうな顔をするオーちゃんに私は理由を教えてあげました。


「あの子は嘘を吐くのが下手ですから。きっと誰にも言えない秘密など抱えてしまったら、笑顔が曇って不審に思われてしまうわ」

「そっか。ケネスみたいに表情が崩れない人の方がいいんだね」


 簡単に同意するのはちょっとケネスが可愛そうですね。「人には得手不得手がありますから」とだけ、言っておきましょう。

 あともう少しで実が成りそうな桃の木を見上げ、一週間くらいかななんて話していると使用人たちの会話が聞こえてきました。


「来週、国王様が派遣した使者が来るんですって」

「あ、それで中央棟を磨きなおっせって言われたのね」

「面倒だわぁ」

「でも公爵家に使者が来るのって珍しいわね。公爵様はいつも搭城しているでしょ」

「確かに。なんでかしら」


 二人はその後もお喋りを続けながら去っていきました。

 私とオーちゃんは思わず顔を見あわせます。


「国王様? 王様の使者って、偉い人?」

「そうですね。でも突然ですわね」


 さっき使用人が話していた通り、公爵は王城に頻繁に行っています。公爵だということと、王城に気軽に行ける立場だと言うことをひけらかすみたいに。

 おかげで公爵はほぼ領地の経営には関与していないという話を聞いたことがあります。あれは確かまだ猫だった頃に、公爵の事務官だか秘書だかに撫でまわされながら愚痴を延々と聞かされたのです。

 本当は顔に猫パンチを入れてさっさと抜け出したかったのですが、優しい私はその男の気が済むまで寄り添ってあげたのですわ。

 まったく、猫でいるのも楽じゃありません。



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