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悪役令嬢は13人を〇したい。  作者: たーちゃん


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第2話 神の慈悲

「うん……」

「目覚めたようだな」


 目が覚めると、目の前には光り輝く人がいた。

 これは誰だろうか。


 でも、感覚としてわかる。この人に逆らっても死ぬだけだと。なぜか生物の根本的な部分が、私よりもはるかに上なんだと思えた。


「あなた様は……どなたでしょうか?」


 何もない白い空間。雲の上にでもいるようだった。目が覚めて見上げた男の人は、眩しくてどういう顔をしているのかよくわからなかった。


「俺か……俺の名前……そうだな。ロック。うん、ロックという名前だ」

「ロック様ですか?」

「そうだ」

「申し訳ないのですが、今の状況を理解できていません。私は今どこにいるのでしょうか? それとも、ここは夢の中でしょうか?」

「夢の中ではない。そしてここは現実にある。お前は公開処刑をされて、首を落とされて死んだ。だから俺が生き返らせた。そしてお前は今、ここにいる」

「なるほど……」


 生き返らせる。なぜかその言葉も、この人?から聞こえるとそれほど荒唐無稽なことには思えなかった。それぐらい、このおそらく男性は強い力を感じるのだ。魔力などという生易しいものではない。


 もっと上の何か……。


「あの、生き返らせていただき、ありがとうございます」


 だから私は、素直に頭を下げた。


「別にいい。興味があってそうした。ただそれだけだしな」

「興味ですか……。ロック様。不躾な質問をしてもよろしいでしょうか?」

「構わない」

「あなた様は一体何者なのでしょうか? そして私はあなた様に、何のために生き返らせていただいたのでしょうか? 目的があるならば教えていただき、その目的を果たしてから、私を元いた帝国に返していただくことは可能でしょうか?」

「どうして帰る? 見ていたが、帰っても苦しいだけ……。それを長引かせるだけになる」

「そうなのでしょうね。見ていたならご存知と思いますが、私は憎んでいるのです。あのような下賤の女を信じて、私をないがしろにしたエリック様も、血のつながりがありながら私を裏切った父も、腹違いの弟も、ほぼ全てのアトラス帝国の人間たちも許せません。そして、私の大切な愛する方を奪ったあの女が最も許せない……。帰る理由など、それだけで十分ではないでしょうか」


 私の瞳に暗い炎が宿った。私はあの死ぬ時に思ったのだ。もしも魂などというものがあり、生まれ変わることができるなら、私は何度でもあの女の魂を殺しに行く。


 その恨みの炎で、その他すべてのものたちも焼き尽くしたい。必死に努力して生きてきた私を、大勢から指さされ笑われる存在にしたてあげた。あの悪い世界を作ったあの女が、それを受け入れた人々が許せない。


 あの時、私の幸せなどどこにもなかった。そして、私があれほど苦しんだのに、あの女は今ものうのうと生きてる。


 そのことだけははっきりしている。


「そう……。確かにそうかもしれない……。お前は自分の憎しみのままに生きるか?」

「もし許されるならば」

「さっきお前が言っていたことだが、俺からお前に求めることは何もないよ。生き返らせたことに見返りもいらない。お前が俺に与えられる見返りなど、大したものではないしな」

「私への望みは『ない』のですか? 何も求めないのに神は人を助けるのですか?」

「そもそも、俺は神などではない」

「……神、ではないのですか?」

「ああ、違う。ただの気まぐれな存在さ」

「では、どうして私を生き返らせてくださったのですか?」

「……見ていて少し可哀想だなと思ったから。それだけだ」

「そうですか……」


 私の瞳から、一筋の涙がこぼれた。


「どうして泣く?」

「いえ……嬉しかったのです。この苦しい胸のうちを、理解してくれる者など今まで一人もおりませんでした。お母様もお兄様も、私についてくるしかなかったから、従っていただけに過ぎません。魔国にいた頃など、何度も『復讐などやめなさい』と私を止めようとしました」

「だが、お前は止まらなかった」

「ええ。止まるはずがありませんわ。あの二人は私に『生きていられれば、負け犬のままでいいじゃないか』と言い放ったのです。私は絶望いたしました。お母様の恨みなどその程度のものだったのかと。お兄様の不甲斐なさは、そこまで惨めなものだったのかと」

「誰もがお前のように強くは生きられん。辛い過去など、誰もが忘れたいものだ」


 ロック様は、どこか遠い過去を悼むかのように、陰りを帯びた瞳をしていた。


「だとしても、私にとってそれは、死と同義です」

「……哀れな女だ」

「ええ、そうかもしれませんわ」


 それでいいじゃない……。

 嫌だ。

 そんな人生に、何の意味があるのだ。


「お前はそれほど悔しいのか?」

「この心が狂うほどに……狂人だと言われるほどに」

「俺はお前に何の力を与えることもできないぞ」

「構いませんとも。生きてさえいれば、この身一つであの女に噛みついてやりますわ。あなた様への見返りが必要ないなら、このまま、私をあの帝国にお戻しくださいませ」


 帰ったところで味方などもう一人もいない。魔国もおそらくあの後、あのS級たちによって滅ぼされたはずだ。


「まあ慌てるな。力は与えられないが、いくつか、お前にしてあげられることはある」

「それは、私の生き方に役立つことなのでしょうか?」


 失礼を承知で私は聞いていた。そうするとなぜか、ロック様は少し驚いた顔をしていた。


「そんな顔をするのだな。もう長く、俺にそんな顔を見せたやつはいなかったぞ」


 この時の私がどんな顔をしていたのか、私にもわからなかった。


「し、失礼いたしました。妙な顔をしてしまっていたでしょうか?」

「いいや、実に良い顔だ。俺の望む通りの表情をしている。……そうだな、お前に直接力を授ける気はないが、代わりに役に立ちそうな者を三人遣わしてやろう。それは元々お前の世界にいる者たちだが、これまでの人生でお前が出会ったことのない人間だ」

「どのような方々なのですか? それに、その者たちを信用しても?」

「それは自分自身の目で見て決めろ。だが、一人で歩むには寂しかろう。最初から疑ってかかるのではなく、まずは話を聞いてみることだ。俺はそいつらの夢に啓示を与え続ける。必ずお前の元へ行き着くようにな。……まあ、俺がするのはその口添えだけだ。信用に値するかどうかは、俺の知ったことではないな」

「なるほど……。その者たちを活かせるかどうかは、私次第というわけですね」


 それはとても面白い提案だと思った。力は与えられないが、人は与えられるという。やはりこの方は神様か何かなのだろう。


「俺の啓示を受けた者かどうかは、最初に名乗るようにちゃんと言っておいてやる」

「承知いたしました。そこまでしていただけたら十分でございます」

「最後にお前が言うところの村娘だが、今の状態のお前が戻ったところで何もできないだろう。だから、お前の時間を戻してあげることができる。当然お前の肉体も以前のものに戻り、記憶だけをそのまま持ち帰ることができる。どうだ、戻ってみるか?」


 私の心臓が大きくドクンと跳ねた。ようやくあの女に噛みつくことができる。ならば今度こそしくじらないように、あの女の喉を噛み切ってみせる。


 それに、神のような存在すらこう言っている。あの女は聖女などではなく、ただ私から奪うことしかできなかった一人の人間に過ぎないのだ。


「是非お願いします。可能であるならば、三歳のあの父が出て行く日から人生を歩み直したいです」

「そうか……じゃあ、行ってらっしゃい」


 そのロック様の言葉と共に、私の意識は遠のいた。時間を戻るということがどういうことなのか、すべての現在が過去へと消えていく。何もかもが壊れていくのが見える。


 あの神様……ロック様は私一人のためにすべてを壊したのだとわかった。



「……お嬢様! お嬢様! 奥様がお呼びですよ! 早く起きてください!」


 まどろみの中、私の甘く優しい世界が終わりを告げていく。考えてみれば、今日のこの日から、私の人生は徐々に壊れていったのだと思う。


 屋敷からお父様がいなくなった日。


 皇都に行くと言ったまま、残りの人生のほとんどを公爵領に戻ることなく妾の家に入り浸り、その妾の子供が優秀だからと、そちらの方が可愛いからと、お兄様を捨てた。


 ふふ、まずは、あの糞お父様の顔を見ておかなければいけませんね。

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