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第240話:凱旋祝賀行進

熱狂に包まれる江戸の町で、共和国軍の凱旋祝賀行進が盛大に行われる。

新しい国の象徴となる二人の姿に群衆から歓声が上がった。

 江戸城開城から数日後。

 江戸の町は、かつてないほどの熱狂と興奮に包まれていた。

 共和国軍による、江戸市中での凱旋祝賀行進――パレードが行われるのだ。


 沿道という沿道は、黒山の人だかりで埋め尽くされていた。屋根の上、木の上、果ては火の見櫓によじ登って見物しようとする者までいる。

 それもそのはずだ。この行進には、新しい国のトップとなる二人が揃って姿を現すのだから。

 一人は、共和国の初代大統領にして皇配たる徳川家茂閣下。

 そしてもう一人は、遠路はるばる北海道からこの江戸へと到着したばかりの、和宮様こと静寛の帝である。


「上様ーッ!」

「陛下ーッ! 万歳ーッ!」


 先頭を進む、菊の御紋と葵の御紋が並んで描かれた豪奢な馬車が見えると、群衆から割れんばかりの歓声が上がった。

 馬車の中では、家茂閣下と和宮様が並んで座り、沿道の人々に笑顔で手を振っている。

 かつて、政略結婚という形で結ばれた二人。幕府の崩壊、そして大和創生戦争という過酷な運命に翻弄されながらも、二人の絆は決して切れることはなかった。むしろ、苦難を乗り越えるたびに、その絆は強く、深く結びついていったのだ。

 今、こうして並んで民衆の歓声に応える二人の姿は、新しい日本の「統合の象徴」として、これ以上ないほど相応しいものだった。


「新選組だ! 新選組が来たぞ!」


 馬車に続くのは、大和軍の主力部隊、そして我らが新選組だ。

 俺たち幹部は、それぞれ馬に跨り、堂々たる行進で江戸の大通りを進んでいた。


「……たく、人気者は辛いな」


 俺の隣を進む土方さんが、照れくさそうに頭を掻きながら呟いた。

 彼の黒い洋装の軍服には、色とりどりの紙吹雪が降り注いでいる。沿道の若い娘たちが、黄色い声を上げながら土方さんに向かって手を振っていた。


「何言ってんですか。満更でもない顔してるくせに」

「馬鹿野郎。俺はこういうお祭り騒ぎは性に合わねぇんだよ」


 口ではそう言いながらも、土方さんは沿道に向かって軽く手を挙げ、歓声に応えている。その口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。


「トシ、俺たち、やっと認められたんだな」


 前方を進む近藤さんが、振り返って満面の笑みを見せた。

 その目には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。

 京の都で「壬生狼」と恐れられ、そして賊軍の汚名を着せられて北の大地へと逃れた。

 泥水をすすり、血を吐くような思いで戦い抜いてきた俺たちが、今、こうして江戸の町を凱旋している。近藤さんの胸に去来する思いは、俺たちには痛いほどよく分かった。


「ええ、局長。……俺たちの『誠』は、間違っていませんでした」


 土方さんが、力強く頷く。

 その後ろでは、斎藤一が相変わらずの無表情で馬に揺られている。だが、よく見ると、その鋭い目尻はいつもより少しだけ下がっており、彼なりにこの状況を楽しんでいるのが分かった。


「ほら、坊主。飴玉だ。押し合わないで、順番にな」


 さらにその後ろでは、井上源三郎さんが、沿道の子供たちに向かってニコニコと飴玉を配っていた。

 源さんのその温厚な人柄は、殺伐とした戦場にあっても、常に俺たちの心を和ませてくれた。彼が生き残ってくれて、本当に良かったと心から思う。


「プァァァァァァンッ!!」


 突然、背後からけたたましい汽笛の音が鳴り響いた。

 振り返ると、そこには、黒煙を吹き上げながら進む、奇妙な鉄の乗り物があった。

 北海道共和国の技術の結晶、「蒸気自動車」である。

 その屋根のない無蓋車オープンカーの座席には、派手な洋装に身を包んだ二人の男が乗っていた。


「おおーい! みんな、元気しちゅうかー!」


 坂本龍馬だ。彼は、身を乗り出すようにして沿道に手を振っている。


「これからは、戦じゃのうて商売の時代ぜよ! 日本を、世界一の豊かな国にするきに!」

「龍馬、危ないき、ちゃんと座れ!」


 隣に座る中岡慎太郎が、呆れたように龍馬の服の裾を引っ張っている。

 かつては倒幕の志士として、俺たちと敵対していたこともある彼らだが、今や新しい国造りには欠かせない重要な仲間だ。龍馬のその底抜けの明るさと行動力は、これからの日本を引っ張っていく大きな原動力になるだろう。


 パレードの列は、さらに続く。

 歩兵部隊の中には、沖田総司と中沢琴の姿もあった。

 二人は並んで歩きながら、時折顔を見合わせては、楽しそうに微笑み合っている。

 沖田の顔色は良く、かつて彼を苦しめた病の影は微塵も感じられない。琴の男装姿も、すっかり板についており、沿道の女性たちから「琴お姉様!」と黄色い声援を浴びて、少し困ったように笑っていた。


(……みんな、いい顔をしてる)


 俺は、馬上から仲間たちの姿を見渡し、深く息を吐いた。

 春の風が、紙吹雪を巻き上げながら、江戸の町を吹き抜けていく。

 空はどこまでも青く、澄み渡っていた。



 パレードの終着点は、神田明神だった。

 江戸の総鎮守であるこの場所で、大和創生戦争における戦没者の慰霊祭が行われるのだ。


 境内には、巨大な祭壇が設けられ、神官たちによる厳かな祝詞が響き渡っている。

 家茂閣下と和宮様が、揃って玉串を捧げ、深く頭を下げた。

 それに続き、俺たちも一斉に黙祷を捧げる。


 目を閉じると、これまでの戦いで散っていった多くの顔が脳裏に浮かんだ。

 睦仁親王、孝明の帝、そして芹沢さん……。

 さらには、敵として戦い、命を落としていった者たち。

 彼らもまた、それぞれが信じる「日本の未来」のために、命を懸けて戦ったのだ。


(……あんたたちの命は、決して無駄にはしない)


 俺は、心の中で強く誓った。

 俺たちが創り上げる新しい国は、彼らが流した血の上にある。その重みを、俺たちは決して忘れてはならない。


「新八」


 黙祷が終わり、目を開けると、隣にいた土方さんが声をかけてきた。


「これからが、本当の戦いだな」

「ええ。……国を壊すより、創る方がずっと難しい」


 俺は、祭壇の向こうに広がる、江戸の町並みを見つめた。

 戦火の爪痕はまだ残っている。だが、そこには確かに、新しい時代を生きようとする人々の活気が満ち溢れていた。


「俺たちに、どこまでやれるか分からないが……」


 土方さんは、ふっと笑みを浮かべた。


「最後まで、付き合ってもらうぜ」

「望むところですよ」


 俺も、笑って答えた。

 慰霊祭が終わり、神田明神の境内から見上げる空には、刷毛で描いたような巻雲が真っ直ぐに伸びていた。

 それはまるで、俺たちがこれから進むべき道を、指し示しているかのようだった。


家茂と和宮を先頭に、新選組や坂本龍馬らも加わったパレード。

沿道の歓声に包まれ、新八たちは自分たちの「誠」が認められたと実感する。

終着点の神田明神での慰霊祭では、敵味方問わず散っていった多くの命に祈りを捧げ、彼らは新しい時代への決意を新たにする。

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