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二度目の夏休み


 リンドナー王立魔法学院二度目の夏休みがやってきた。

 特に凶事が起こるようなこともなく、比較的のんびりと過ごしているうちにあっという間に夏休みが来たような感覚だ。


 話し合いの末、ヘルベルトの帝国行きの日取りも決まった。

 夏休みの期間は二ヶ月弱あるが、その日程をほぼフルで使って帝国へ向かう予定だ。


 純粋な夏休みとして楽しむことができる期間は合わせても片手で数えられるほどしかない。

 その貴重な時間を使い、ヘルベルトは旧友であるリャンル達を屋敷へ呼んでいた。


「夏休みの宿題が少ないっていうのはありがたいですよねぇ」


 完全に夏休みスタイルなリャンルは、涼しげな服を着ながらトロピカルなジュースに舌鼓を打っている。


「リャンルのところは領地がなくて羨ましいよ……俺はあと数日したら領地に行かなくちゃ」


 半袖半ズボンというラフな格好をしているアリラエを、今後の忙しさにうへーっと舌を出す。

 似たようなもののゴレラーもこくこくと頷きながらジュースを飲んでいた。


 ――三年生の学校である王立魔法学院では、二年三年と学年が上がるたびに出される宿題の量が減っていく。

 これは何もサボりを推奨しているわけではなく、純粋に貴族の子弟は年を重ねるごとに忙しくなっていくからである。


 流石にいくつもの領地をまたいでから隣国にまで出張するヘルベルトのような例は少ないが、自領の視察や領地経営の手際を父から学ぶという家は多い。

 中には小さな村を与えられ実際に代官として働く者もいるが、それをしながら学校の課題もこなさなければならないわけで……純粋な忙しさで言えば、年々増していくと言っていい。


「いや、俺も普通に支店経営とかやらされるからそこまで暇じゃないぞ。まあ、何にも知らずにいきなり店を任された去年よりは楽にできるだろうけど」


 リャンルのような比較的新しい、多額の税を納める形で爵位を手に入れたいわゆる新貴族の中には、土地を持たない法衣貴族も存在している。

 けれど彼らが楽かと言われれば、そんなわけでもない。


 新貴族にはそれぞれ生業があるため、子息達は夏休みの時間にそのイロハを叩き込まれることになる。

 いくつもの領地をまたいで経営している大商家出身のリャンルも、既にいっぱしの商売人として通用するように色々と課題を押しつけられている。


「まぁ俺らは……国をまたいで横断するヘルベルト様と比べれば霞みますけどね」

「まったく……人気者過ぎるのも困ったものだ。おかげでまったく休む暇がないからな」


 三人と一緒にロッキングチェアに座りぐだーっとしているヘルベルト。

 彼はむしゃむしゃとクッキーを頬張りながら、今後待ち構えているであろう激動の日々を思い、苦笑を浮かべる。


 リンドナー王国にとっては隣国である、ゴーギャン帝国。

 帝国は王国より何百年も長い歴史を持っているこの国は、現存している国家の中で最も広大な国土を持つ正真正銘の大国である。

 常備軍の数も多く、魔法技術に関してもリンドナーよりも優れている。

 当然ながら国としての力関係も、あちらの方が強い。


 だがグラハムが八面六臂の大活躍をした帝国戦役や昨今の世界情勢の悪化を鑑みて、現在王国と帝国の関係性はかつてないほどに良くなっている。

 ヘルベルトをわざわざ招聘することや、彼に帝国の大貴族であるアリスを宛がおうとしているところからも、それは明らかだろう。


「正直な話、帝国に向かうことに対してはなんとも思っていない。むしろ、その道中の方が面倒だな」

「あぁ、なるほど……」


 今は来るべき魔王復活に備えるため、人類国家全てが手を重ねて団結すべき局面だ。

 故に今後対魔人において大きな役目を果たすであろう帝国との架け橋になることは、ヘルベルト自身まったく嫌だとは思っていなかった。

 彼が嫌がっているのはむしろその道中にある。


 帝国ほどではないとはいえ、リンドナー王国の国土もなかなかに広い。

 そのためヘルベルト達の居るスピネルから北へ向かえばすぐに帝国へ……とはならないのだ。


 当然ながら道中いくつもの領地を経由することになり……ウンルー公爵家の嫡男である彼をそのまま通すことはできないと、経由する領地の領主達から歓待を受けることになっている。


 寄親に限定することでなるべく数は減らしてもらったのだが、それでも色々と予定が決められてしまっており、現時点で彼が参加しなければいけないパーティーは五つを超えている。

 そして多分、まだまだ増えるだろう。


「俺は決めたよ。来年帝国に向かうまでに、なんとしてでも時空魔法のテレポートを取得すると」


 上級時空魔法テレポート。

 ヘルベルトが既に使えるようになっている物質を転移させる中級時空魔法トランスファーの発展系である、一度行ったことのある場所へ転移することができるようになるという魔法だ。


 これが使えるようになれば、直に帝国に向かうことが可能になる。

 無駄を嫌うヘルベルトは、ケビンから渡されたスケジュール表を見てからというもの、テレポート取得のために熱意を燃やしていた。


「頑張ってくださいね、ヘルベルト様」

「ああ、帰ってきたら皆の夏休みの成果でも報告し合うことにするか」

「おっ、それいいですねぇ!」


 リャンル達とのまったりとした時間は、鍛錬と魔法の特訓ばかりでほとんど遊ぶ暇のないヘルベルトにとって良い休息となってくれた。

 リフレッシュしたヘルベルトはそのまま課題をこなし、諸々の諸事を済ませ……あっという間にスピネルを出立する日がやってきた。

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