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再封印


 ヘルベルト、マーロン、そしてグラハム。

 彼らは文字通り、未来のリンドナー王国の命運を握る存在と言っても、決して過言ではない。

 その理由は彼らが系統外魔法の使い手であるというだけではない。


 いやむしろそれに付随するとある理由から、国内外を問わず彼らを呼ぶ声は日に日に高まっている――。



 いつもグラハムと時空魔法の訓練をしている、王都の地下に存在している練習場。

 そこにヘルベルト、マーロン、グラハム三人の姿があった。


 気安い仲でいつも軽口をたたき合う関係性の彼らの表情は、それを感じさせないほどに固くなっている。


 それはつまり、今からやろうとしていることが、それだけ重要度が高いということでもある。


「よし、それじゃあ今日も行っとくか」


「……ああ」


「いつでも来い」


 まず魔法を使うのは、界面魔法の使い手であるグラハムだ。

 彼は立体的な三次元世界であることの世界を面で捕らえ、繋げ、壊すことができる。


「ったく、さっさと二人だけでなんとかしてくれよな」


 空間を繋げて距離を縮めたり、空間を壊すことで距離を無視して必中の一撃を放ったりと、その能力はどちらかと言えば戦闘に偏っている。


 そのため空間に関する細かい調整をするのは、グラハムの苦手とするところなのだ。

 繊細さというものを母親の腹の中に置いてきた彼にとって、この作業――『邪神の欠片』の再封印は非常に神経を使う作業なのだ。


「いよっと!」


 グラハムの界面魔法が発動し、三人のいる空間が壊れた空間と繋がる。

 境界を超えた先に広がっているのは、一寸先も見渡せぬような深い闇であった。


 通常であれば壊れた空間はそのまま自壊を始めるのだが、彼らの目の前にある空間は以前開いた時と変わらずにその形状を維持している。


 『邪神の欠片』は破壊不能という特殊な特徴を持っているため、壊すことができない。

 そしてその『邪神の欠片』の浸食を受ける形で空間それ自体に破壊不能の特性がついてしまい、空間そのものの性質がねじ曲げられてしまっているのだ。


「さっさと入れ、顕界させてるとあんま長くはもたねぇぞ」


「ああ」


「了解です」


 目の前に現れた真っ黒な空間の中へ、ヘルベルトとマーロンは入っていく。

 二人とも入るのは初めてではないため、特にためらう様子もない。


 あの魔人達の襲撃後、ヘルベルトとマーロンは純粋な戦闘能力の向上よりも、己の系統外魔法を習熟させることにほとんどのリソースを割いていた。


 『邪神の欠片』の再封印――現状彼らしかできないその作業には、失敗があってはならない。

 今後他国の『邪神の欠片』の再封印も行う可能性がある以上、彼らの双肩にかかる負担はあまりにも重かった。


「相変わらず気味が悪いな……」


 マーロンの言葉に、ヘルベルトはこくりと頷く。

 漆黒の空間の中央には、厳重に封印の施された『邪神の欠片』が鎮座していた。


 それを一言で表すのなら……邪神の心臓、とでも言おうか。

 どす黒い臓器からは動脈や静脈が飛び出しており、切り離されている今になってもドクドクとヘルベルト達にもわかるほどに大きな脈動を繰り返している。


 見ているだけで怖気を感じさせる。

 ヘルベルト達はもう何十回も見ているが、やはり見慣れることはない。

 これはこの世界にはあってはならないものだ。

 邪神の心臓一つでこれなのだから、もしその封印が解かれれば一体どうなることか……想像したくないというのが本音であった。


「よし、行くぞ」


「ああ」


 再封印はマーロンが光魔法で結界を張り、その上からヘルベルトが亜空間を生み出し、その空間自体をグラハムが界面魔法で壊す形で行われている。


 ただこのやり方だとグラハムも作業に参加する必要があるのだが、国際指名手配をされている彼には向かっただけで騎士団が飛んでくるような国がいくつもある。


 今後のことを考えれば、グラハムなしで『邪神の欠片』の再封印を行えるようになるのは急務だった。

 それ故ヘルベルト達が毎日額を付き合わせてこの場所にやってきては、己の持てる力の全てを使い魔法の研鑽に励んでいるのだ。


 マーロンが一度結界を外し、再びより強固な結界を生み出す。

 時空魔法の重ねがけが可能なヘルベルトの場合はより慎重に、一度新たな亜空間を生み出してから、以前の亜空間を解除する形で封印を強めていく。


「――よし、邪気の漏れ出しはほとんどない」


 マーロンの光魔法は『邪神の欠片』から漏れ出す邪悪なオーラ……邪気に対しても有効だ。


 故にマーロンが作成した光の魔道具の状態を見れば、封印のおおまかな度合いを判定することが可能であった。


 ほとんど毎日魔力がからっけつになるまで魔法を続けていることもあり、現在ではグラハムが界面魔法を使わずとも二人だけで封印することも可能となっている。


「ただ、その場合は封印にかかりきりになるのがな……今のままだと、俺に戦闘力がほとんど残らない」


「あ、それなんだけど……サンクチュアリ!」


 ヘルベルトが広げている亜空間の周囲を覆うように、マーロンがピラミッド型の結界を発動させる。


「ようやく俺も魔法の多重発動ができるようになった。これでヘルベルトの亜空間を減らしても問題ないだろ?」


「おお……」


 試しにヘルベルトが亜空間を外してみるが、邪気の漏れ出しは目視ではわからない程度まで微量に押さえ込むことができていた。


 マーロンが多重に魔法を使うことができるようになったことで、ヘルベルトも己の時空魔法を戦闘に使うことができるようになった。

 これでいざという時に魔人の襲来があっても、しっかりと戦うことができる。


「これなら……帝国でも問題なさそうだな」


「ああ、まあそのために頑張ったわけだし」


 二人は互いに、拳同士を打ち合わせる。

 ようやく戦えるようになったといっても、封印をしながらでは全力にはほど遠い。


「帝国に行くまでに、封印を維持しながらでも全力で戦えるところまで持っていくぞ」


「――もちろん」


 うなずき合いながら、二人は壊れた空間から出る。

 グラハムがいる王国の中でなら、魔力が尽きかけても彼の力を借りることができる。

 故に感覚を掴んでおくタイミングは、今をおいて他にない。


 二人は来るべき帝国来訪に備えるため、練習場を駆け周り、グラハムにボコボコにされたりしながらも、実戦式の模擬戦を繰り返すのだった――。

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