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 アリスとのデート(?)が終わった後も、特に大きな異変が起きたわけではなかった。


 彼女の人気は着々と増加していたし、とうとう学院内に非公式のファンクラブができたりもしたし、それを知ったアリスがぷりぷりと怒りだして大きくなる前にクラブ自体がなくなったりもしたが……せいぜい牙それくらいのもので、取り立てて問題は起きなかった。


 その間学院の外がどうなのかというと、にわかに活気づき始めていた。


「というわけで、速やかに家へ帰ること。また可能であれば送迎用の馬車を乗り付けること。先生との約束です」


 先生がそう言ってから出ていくと、クラスの中がドッと騒がしくなる。


「最近物騒な話を良く聞くようになりましたよねぇ」


 三人組の中で唯一ヘルベルトと同じA組に入っているリャンルに言われ、ヘルベルトはこくりと頷く。

 窓ガラス越しに外を見てみると、送り迎えのための馬車が列をなしている。

 あれでは自分の呼んだ馬車が来るまでどれほど時間がかかるか、わかったものではない。


 けれど皆それでも馬車を使っている。

 王都の雰囲気がそれだけ良くないということを、肌感で感じているのだ。


 大きな連続殺人のような凶悪犯罪が起きたわけでもなければ、テロリストが紛れ込んだわけでもない。

 いきなり治安が悪化したというわけでもないのだが……ここ数日の王都の様子は、明らかにおかしかった。


 道を歩いていれば道を歩きながらよくわからない説法を垂れ流す『アガレスク教団』の信徒が列を成しており、それを睥睨する衛兵達との間に見えない溝が生まれているため、とにかく雰囲気が重たく、息苦しいのだ。


 そのために貴族の令嬢はほとんどが馬車を利用するようになっており、そのため学院の外には馬車が立ち並んでいる光景が珍しいものではなくなっていた。


「さっさと捕まえればいいと思うのは俺だけか?」

「色々と大変なのだ。『アガレスク教団』の上の方の人間は捕まえるのにも一苦労なようでな」

「悪事をした罪っていうのは、基本的に下の方が被るものですからねぇ……」

「いわゆる、トカゲの尻尾切りってやつか」


 マーロンの言葉にヘルベルトは頷く。


 このままではマズいと王様やマキシムも色々と動き回っているが、教団の幹部の人間達はその追求の手をのらりくらりと躱してしまう。

 罪状を出して捕らえても、結果的に捕まるのは下っ端の団員などということがもう何度も起きていた。


 といっても、近々ようやく王国騎士団が本腰を上げて逮捕に動いてくれるようだが……誰の目があるかもわからない学院で、そのことを口にするわけにもいかない。


(根からの情報も集まりつつある。実際に魔人との戦闘になるのなら、俺やマーロンも手伝うことになるだろうな)


 現在、バギラス以外にも複数の魔人が確認されている。

 本来であれば……学院生であるヘルベルト達に招集がかかることはないのだが相手が相手なので、果たして騎士団だけで対応できるか……正直かなり怪しいというのが、ヘルベルト達の総意だった。


 王国騎士団の中でも街の中の警邏を任されているのは、基本的に貴族の子息の中でも特に大切に育てられた箱入りばかりだ。


 実際の戦闘能力は、騎士団の中では下から数えた方が圧倒的に早いような者達も多く……ぶっちゃけてしまえば、ヘルベルトですら難なく倒せてしまえそうな団員ばかりなのだ。


 果たして彼らが竜の魔人であるバギラスを倒すことができるかと言われると、正直厳しいと言わざるを得ない。


 そのためウンルー公爵家の騎士団達は有事の際に独自に動き、自分達だけで率先して魔人達を倒すことができるよう、マキシムは既に騎士団の体勢を整えていた。

 恐らくだが、どこの騎士団も似たようなものだろう。大領地を持つ上級貴族は皆、自前の戦力をしっかりと育てているものだからだ。


 公爵騎士団では呼び戻されやって来ているロデオに、彼に手塩にかけられて育てられてきた騎士団員達に、特別戦力として現在食客ポジションに収まっているグラハムとヘルベルト、そして公爵家預かりとなっているティナとマーロンが力を合わせて魔人討伐を行う予定である。

 これだけの面子が揃っているのなら、負けはない、はずなのだが……。


(どうにも胸騒ぎがする……俺の思い過ごしであればいいんだが……)


 物憂げな顔をしながら、窓の外をのぞき込むヘルベルト。

 本人はまったく意識していないが、その様子はあまりにも様になりすぎていた。

 彼のことが視界に入っていた何人かの女子から、ほぅという息が漏れ出る。


 そして何人かの男子はケッと彼のことを視界から外し、そしてマーロンとリャンルはそれを見てただ苦笑していた。


 さてそろそろクラスを出るかと思いヘルベルトが立ち上がると、目の前に二つの人影が。

 やってきたのはネルとアリスだった。


 二人は例えるなら静と動、冷静と情熱とでもいった感じで、まったくタイプが違う。


 けれどなかなかに馬が合うようで、世話係を命じられたヘルベルトよりもネルの方がよほどアリスと一緒にいる時間が増えているような状態だった。


「ヘルベルト様、今日の放課後は何かご予定は?」

「もしよければ、うちに来ない?」

「ネルの家にか……? 別に構わないが」


 というわけでヘルベルトはネル達と一緒に、久しぶりにフェルディナント侯爵家へと向かうことになった。

新作の短編を書きました!

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