第十六話 荊-3
「シオン君!」
「ドアホ、王の御前じゃぞ」
背後でカンナが血相変えるのを、レザードが小声で諌める。その時、再び背後の扉が開いて、白皇の声が玉座の間に響いた。
「失礼します。参考人を連れて参りました」
「ご苦労。そこへ」
白皇が連れてきたのは、白マントで正装した、緊張した顔つきのウォーカー三人と、一人の退役ウォーカーだった。ハル、マリア、ユーシス、そしてロイド。四人は大勢のウォーカーに囲まれたレッドカーペットを歩き、俺の斜め後方で跪いた。白皇はその横で、静かに立つ。
「名乗れ」
「ギルド白薔薇のウォーカー、ユーシス・レッドバーンです」
「同じく、マリア・シンクレア」
「ハルク・アルフォードです」
三人とも別人のように畏まっていた。王は国の全権を持つ独裁者。彼の前で口を開くだけでも計り知れないプレッシャーがあるだろう。俺のせいで、三人にこんな毅然とした顔をさせていると思うと胸が詰まった。
王は、侮蔑的に鼻を鳴らした。
「レッドバーン……"アレ"の倅か。残り二人は地球人の餓鬼とは。友人に恵まれたな、ナツメ」
「なん……っ!?」
怒鳴りかけた俺の頭が、アルテミスに押さえつけられる。ここまで言われても、マリアも、ハルも、あのプライドの塊のユーシスも眉一つ動かさず俯いていた。
さっきから聞いていれば、王がそんなに偉いのかよ。腹の中が屈辱で煮えたぎる。
「オレも地球人ですぜ、王様。あなたのお気に入りの《月剣》も。オレたちの実力まで疑いますかい?」
おもむろに顔を上げ、ロイドは口笛を吹くように言った。俺の両脇に立つレザードとアルテミスが、揃って冷や汗を垂らす。
「予が許可するまで口を閉じていろバーミリオン。その目と同じようにな」
「承知しやした」
口にチャックをするようなジェスチャーをして、ロイドは唇を結んだ。
「役者は揃った。プレスリー、始めろ」
「はっ」と声を上げ、玉座の麓に立つ、執事のような服装をした初老の男が咳払いをひとつした。胸の名札には「侍従長」とある。
「この者、シオン・ナツメはウォーカー新人大会の余興にて、《日剣》白皇との試合中、白皇の制止に耳を貸さず暴走し、国立建築物である闘技場を半壊させた上、民間人数名に軽傷を負わせた。よってここに、この者を《王審》にかける。ナツメ、私が申し上げた事実に異論はあるか」
「……ありません」
民間人に怪我をさせていた事実を初めて知り、打ちのめされた。
王審。この国には弁護士も裁判官もおらず、国民の犯罪は王が裁く決まりになっている。犯罪者を捕まえて、取り調べるところまでは俺たちウォーカーの仕事だが、そこから先は書類をまとめて王室へ届け、判決を王へ委ねることになる。
人口一万人程度という規模だからこそ成立する独裁。だが、殺しなどの重い罪でない限り、判決は王や宰相たちで書類をもとに会議で決められるはずだ。
王が直々《じきじき》に罪人の顔を見て量刑を判断するのは、よほど重い罪か、判決の難しい場合だけ。ましてこんな風に、国中のウォーカーを集めて整列させた厳戒態勢で王審に臨んだ事例など聞いたことがない。
今日は丁度、新人大会という祭りごとのために多くのウォーカーが非番か国内パトロールの任についており、かつてない人数が壁の内側に集まる日だった。今この玉座の間にいるのは目算で二百名以上。白薔薇全ウォーカーの半数近い人数が一つの場所に集まるなんて、異常事態だ。
「プレスリー、罪状が間違っているぞ」
王の一声で、かすかなざわめきが生まれた。「なにを」と目を丸くする侍従長に代わって、王は玉座の高みから、醜い獣を見るような目で俺を睥睨し、吐き捨てた。
「まずはここでその罪を懺悔しろ。バケモノなのに人間のフリをしてすみませんでした、とな」
ざわ、と肌が粟立った。怒りというよりも、心から人に拒絶されたショックで、体中の血が凍ったみたいになった。
「バケモノ、とは……国王様、どういう」
「白皇」
王の目が白皇に向けられる。
「この小僧に一番詳しいのは貴様だろう。話してみせろ。始末するどころか命を拾い、そうして参考人側から動かぬ理由もな」
白皇はにこりと笑って、なんでもないという風に両手を広げた。
「申し訳ありません。彼のことをモンスターと言ったのは、私の早とちりでした」
ぴくり、と王の眉が動いた。
「私がモンスターだと判断した要素は全て、彼の、ウォーカーとして身につけた能力でした。民間人の怪我に関しても私の過失です。戦闘の影響が観客に及ばないように施す魔法を、彼との試合ではかけ忘れていて、それをナツメ君は知らなかった。彼の力……確かに少し制御が効きにくいようですが、外のモンスターを殺すには打ってつけです。彼のモンスター討伐実績の勤勉さを鑑みても、もうこの王審は不要かと」
ほっ、と安堵のため息がどこかで漏れた。白皇が俺のことを壁の外からきたモンスターだと言ったことは、国王を含めかなりの人間に広まっていたらしい。その疑心暗鬼は、今の白皇の言葉で晴れたようだった。




