第十五話 レン・フローレス-3
「この、世界が……モンスター……?」
ロイドやカンナですら、全く寝耳に水という反応だった。ハルとレンは顔を蒼白にして、ユーシスは瞳を震わせて、マリアは険しい顔で、バルサは「え、えええええええええ!?」とリアクション芸人のように驚いて、コトハは言葉が通じずぽかんとしている。
「正確には、この茫漠な大地や海、生命を空間ごと創造し、上位の次元から観測している存在がいると僕は見ている。いわゆる、この世界の神様のようなものだね。僕はその神様のことを、アカネと呼んでいる」
「神話に出てくる、創造神か……」
ユーシスの呟きに、白皇は頷く。
「神話はあくまでおとぎ話。でも、事実はそれと遠くないはずだ」
「で……俺は、その神様に気に入られちゃってるってことか?」
頷く白皇。雲を掴むような話だ。だが、そうなると、説明がつく現象は色々とある。
普段から傷の治りがやけに早かったり、身体能力の成長速度も他の地球人の比ではない。暴走の件も――今にして思えば、あの、頭を侵食してくる"声"は、世界の……世界そのものの声だったのかと考えて、いやに納得してしまう自分がいる。
「煉素もまた、一つ一つがアカネと共鳴した微生物……ミクロのモンスターだ。アカネの体の一部、または、アカネの意思そのものと考えた方がいい。煉素は自然の成長を加速させ、汚染を浄化し、生物を多種多様に強化させ、死んだ生物は煉素に還る――このように煉素は、世界を進化させる役割と循環させる役割を担っているが、つまりこの二つが、アカネの意思であり、永久目標ということになる」
「気の……遠くなるような話ね」
マリアが呻く。「でも」、とカンナが言った。
「地球と、似てるかも」
「え?」
「地球も、同じように命が循環してる。循環するようにできてる。生態系の頂点が何度もすげ替わっても、問題なく回ってる……世界に意志があるとか、想像もつかないけど、もしかしたら地球にも……」
地球にも、連鎖と循環のシステムごと眺めて調整しているような、大きな意志みたいな生き物が、いたのだろうか。
仮にいたとして、地球の意志が、目的が、「進化と循環」だなんて途方もないものだとしたら。
俺たちってなんなんだ。なんのためにあそこで生きていたんだ。あまつさえ循環の枠から外され、今度はこっちの世界にきた俺たちの命には、今どれだけの意味がある。
「むっつかしーことはわかんねえって! んなことより、シオンがこの世界に好かれてたら、なにがやべえんだよ」
バルサがオレンジの頭をかきむしりながら結論を急かす。
「さっき言った通り、アカネの目的はこの世界の進化と、循環。循環といいつつ、進化を加速させるためにアカネはこの世界に、外部から定期的に養分を調達してくる」
「それって」
「君たち地球人のことだ」
「改めて言われると、理不尽にもほどがあるわね……」
マリアが拳を握りしめる。
「人間は、どの生物とも比べ物にならない"情報"という養分を、脳みそにたっぷり詰めた、世界にとってまたとない餌。表面上はモンスターに食われているが、本質的には、人間は世界に食われる餌として地球から取り寄せられていると言える。――だから、異質なことなんだよ。餌であるはずの人間を、アカネが、モンスター以上に愛してしまうというのは。この世界という巨大なシステムに巣くう、致命的なエラー、バグのようなものだ」
ひどい言われようである。まるでウィルス扱いだ。
「でも……それのなにがいけねえんだよ? 不都合なのは世界にとってってだけだろ? 人間サイドからすりゃ、モンスターより多くの恩恵を煉素から得られるヤツが味方にいるのって、いいことじゃね?」
俺はつとめて能天気に言った。白皇の顔があまりにマジだから、ちょっと怖くなったのである。
「煉素はより強いモンスターに、より多くの恩恵を与える。その選別は完全にアカネの趣向……好みによる独善的なものだ。アカネのお気に入りのモンスターほどアカネの恩恵を受ける。そのなかに、君のような人間が混ざりこんでしまったのは、本能的なことで、アカネにとっても予定外なんだよ。だからといって、好きになったものを嫌いにはなれない」
「恋はいつだって突然だもんな!」
バルサがぽんと手を叩く。
「アカネウォーカーが、その力でモンスターを殺しまくったら循環と進化は妨げられる。だから、アカネウォーカーにはこの世界の"自浄作用"が働く」
「自浄作用?」
「世界の意志が、脳も体も精神も支配して、自我を奪い、モンスターに変えてしまう。壁の外をうろつく、あのバケモノたちと全く同じ風に頭を作り替えられてしまう。君は……ついさっき、そうなりかけていたんだよ」




