53 七つの魔具
放課後、ミラの威光とグール王子の権力で特別棟に新設された、召喚研究会の部室にやってきた。
この特別棟は魔法実験をするための教室が並ぶ棟で、魔術の種類毎に専門の教室が用意されている。その端っこに、この召喚研究会部室は増設された。
名目は、召喚魔法用特別室、となっているが、召喚魔法は一般的な魔法じゃないし、こんな危険な魔法を授業で教えることはないので、実質召喚研究会の活動にのみ使われる部屋となっている。
ちなみに、広さは普通の教室程度なので、昨日のように大規模召喚になりそうな時は、魔法訓練室を借りてやるので、この部屋の用途は魔法研究会のサロンというか雑談室だ。
んーん、権力があるって素晴らしい。
さてその部室であるが、今ミラがやってきて、私、ミラ、ボアの3人で、ティーなど用意してのんびりくつろいでいる。
ティーを入れたのは、当然平民で、身分が一番低いボアだ。
特に紅茶を入れるのがうまい、とかいう能力はない。
「ボアの入れる紅茶って、香り死んでるよね」
「まったくだ。良い葉のはずなのに、ティーパックの紅茶を飲んでるような気分だよ」
「ちょっ、それ貴族の平民イビリじゃね?」
軽く挨拶程度の朗らかな会話の後、私たちは本題に入った。
「で、召喚はどうなったのさ? 巨大な魔法反応があったわりには、なにも変わってないようだけど」
現状確認とばかりにミラが聞いてきたので、「退喚した」と端的に事実を述べた。
「じゃあ、何かは召喚されたってわけだね。何が出たんだい?」
「なんだろ?」
聞かれても答えるのは難しい。なにやら大勢ではあったけど……。
「たぶん人間?」
少なくとも見た目はそう見えたと思う。
ボアに助けを求めると、ボアもうぅんと唸った。
「前世で言うところの高校生じゃね? 『クラス転移』とか『ステータスオープン』なんてパワーワードを盛ってきたから、ラノベ世代? そんな感じじゃね?」
「あー、っぽいね。ぽいかも」
「っぽいってね、アンタら……まあ、無事退喚したなら、そう問題はないだろうけどさ」
ミラが呆れたように呟いて、私は咄嗟にアッチへ視線を投げ出した。ボアも右に倣えのようだ。
「…………」
「…………」
「退喚……したんだよね?」
「たぶん?」
それ意外どう答えればいいのか。だって異世界、ちゃんと帰ったかどうかを確かめる術など、どこにもない。
だが比較的良識のあるミラが聞き流してくれるはずもなく、責めるように見つめられて、私はジッタリと脂汗を流した。
「だ、大丈夫だよ。あの魔道具の制作者に良心があるなら、きっと平和的な何かだよ!」
言い訳してみたが、ミラの心に響いた様子はない。
「はぁーーー、わかってはいたけどね」
ミラから、諦めたような深いため息が漏れる。
「今回のことは、召喚装置を手に入れたアンタらを野放しにしたアタシにも責任があるから、顧問として罰を与えるとかそんなことをする気はないけど……」
ここは魔法学校。
魔法を扱うこの学校では、生徒に勝手をさせると様々な危険が降りかかるとあって、部活顧問には指導のためのいろいろな権限が認められている。
部員たち罰を与えることも国から認められており、夕食を抜いたり反省房に閉じ込めたりといった軽いものから、ガチ体罰まで、顧問個人の権限で行使することが許されているのだ。
事後報告は必要で、やりすぎた場合は教師も罰を受けるので、あまり無茶をする先生はいないけれど、身分的に、ミラがその気になれば、男爵家の私や平民のボアには、結構無茶なことをしても大丈夫だと思う。とはいってもミラのことだから、そんなに無茶をすることはないんだろうけれども。
その辺ミラのことは信用でき……
「とりあえず、召喚装置は使用禁止措置とするよ。保管庫にあったあの装置は、場所を移してアタシが管理しているから、使う時は使用目的を申告の上アタシに申請するように」
んなっ!!
予想外の措置に、私は思わず部室の保管庫を確認した。
間違いなく保管庫の扉は閉じている。しかし部活の顧問は保管庫の合鍵を所持しているので、扉が閉じていることを確認したところで何の意味もない。
「ひどい。顧問の横暴だ」
投げかけた不満の言葉に、ミラは厳しく睨み返してきた。
「アンタらが無断で使用なんてしなければ、こんな措置をとる必要はなかったんだけどねぇ」
なんてことだ。
仲の良いダチだと思っていた番長が、こんな大人の正論をぶつけてくるなんて。
いくら部費として支給された金で手に入れた、備品扱いの魔法具だと言っても、手に入れるために苦労したのは私たちだ。この横暴はひど過ぎる。
しかもこの圧倒的な正論の前では、反論するも難しい。
誰だ! 召喚魔法の儀式を無断で行おうなんて言い出したヤツは!
反射的にボアを睨むが、ボアも同じような目でこちらを見つめていた。
……そうだった。召喚装置が手に入った瞬間、どちらからともなく使うのが当たり前みたいな空気になって……誰が悪いとか、そういう話ではなかったのだった。
仕方がない、これは運命のようなもの。
「アンタらは本当に……少しくらい反省の気持ちがあってもバチは当たらないと思うんだけどね」
ミラはもう一度ため息をついてから、気持ちを切り替えるかのように居住まいを正した。
「まあ、済んだことの話はこれくらいにしておくよ。召喚装置の場所を移した理由は他にもあってね、アンタたち、『七つの魔具』ってヤツのことは知ってるかい?」
「『七つの魔具』?」
ミラから唐突に飛び出してきた単語を復唱する。
たしか前世の宗教的な何かで『七つの大罪』みたいなのがあったとは思うけど……。
突然すぎる話題変換についていけない。
しかしボアはそうではなかったようで。
「あー、魔王復活のなんちゃらかんちゃら?」
いきなり眉唾ワードをぶっこんできた。
「ああ、それだよ」
ミラがそれを肯定する。
いくらなんでも魔王て。
そりゃこの世界には魔法とかいう錬金術みたいな技術や、驚くような効果を出す魔道具っていう装置はあるけど……魔王てそんな……。
「そんなファンタジーな」
思わず呟いた言葉に、ボアは苦笑し、ミラは重々しく頷いた。
「たしかに、魔王って名称だけ聞けばそうだろうけどね。けど、世界を滅ぼしかねない危険な存在、って意味なら、普通にいそうだとは思わないかい?」
……。
「この世界には魔法があって、おまけに異世界から人間を召喚なんてこともできたんだろう? 笑って流すのも、少々難しい気がするじゃないか」
たしかに、そうかも……。
「…………それで、その魔具がどうしたのよ?」
促すと、ミラは頷いて、言葉を続けた。
「あの召喚装置が魔具のうちのひとつだって話を聞いたのさ。あの召喚装置で異世界の者を召喚できるとなると、なかなか聞き流せない話だと思わないかい?」
国を滅ぼすような異世界のナニカを、召喚してこの国に出現させる。
なるほど、それはなんだか、手の届く範囲にあるファンタジーだ。




