52 魔法学園中等部、朝の一幕
噂のヒロインちゃん、アナは無事生徒会に囚われた。
ご愁傷様以外の気持ちはないけど、とりあえず『アナ』って名前はどうかと思う。
もうポジション的にも『穴』としか思えない。カワイソス。
それはともかく、グール王子もレイスもスキンシップを積み重ね、ぶっちゃけボアも暗躍してるっぽく、逆ハーな噂は地味に流れ始めている。
あんまり関わりはないけど、生徒会副会長は公爵家の次男だし、会計は大きな商会の三男で、書記は教会関係のなんかエライポジションの人らしいから、逆ハー要員には困らなかった、という話らしい。
こうやってヒロインちゃんのヘイトを貯めておくと、あとでボロ雑巾のように捨てても、グール王子の評価があまり下がらないという話なのだが、かわりにアホ王子という評判が流れるのではないかと思わないでもない。
とはいえレイスがそんな不手際をするはずもなく、私の知らない裏が後何枚かあるのだろう。
ちなみにユウシャは絶賛冒険者なので生徒会には入ってないっぽい。
というか、ユウシャがこの件を知れば確実に潰しにくるので、ユウシャにはバレないようにやってるとかなんとか、とても賢明な判断だと思う。
そんなこんなでグール王子も性欲のはけ口を確保して、中等部の生活はなかなか平和だ。
生活は大まかに言うと、初等部とあまり変わらない。もともと寮の部屋は大きい作りで、学園にいる間は同じ部屋を使うのが普通らしく、中等部に上がってレイスは出て行ったが、レイスの使っていた二人部屋を、私はそのまま使っている。
寮の部屋で同室になるのは同年齢という決まりがあって、私が使っている部屋に割り当てられるような身分の者は通常初等部から学園に通うので、レイスがいなくなって開いた部屋を埋めるような者もおらず、私は二人部屋を一人で贅沢に使っている。
であるため、生活は完全に自分中心であり、遅刻しない程度の時間に起き、悠々自適に学校に通っている。
寮から中等部の教室まで、大した距離はない。普通に歩いて5分というところか。
途中幾多の生徒とすれ違うが、グール王子の傘下に入っている私に不敬を働くものがおろうはずもなく、「ごきげんよう」と当たり障りない挨拶を交わしつつ、教室に向かう。
私のクラスは中等部に上がってもAクラスだ。
勉強は嫌いじゃない、というか前の世界で大学まで行っていた私は、理数系ではチートだし、国語社会といったこちら独自のカリキュラムがあるものは、ミラのおかげで予習ばっちりなため、労せずして成績上位をキープできたのだ。
Aクラスの教室に入ると、
「ヨッす」
同じくAクラスに進んだボアが声をかけてきた。
男に戻った上生徒会に所属することになって、目立たないことは完全放棄したレイスも、今は同じAクラスなのだが、彼は大抵グール王子の側に控えているため、授業の時以外顔を合わすことはほとんどない。
「おはよー」
軽く、淑女らしからぬ挨拶を返して、現在の最重要事項を確認する。
「次のイケニエは用意できそう?」
あの召喚魔法、当然無償ではないのだ。
一回やるのにかなりのコストが必要で、今後実験を続けていくためには、幾多の生贄が必要となるはずだ。
と、それはともかく、初等部を経て中等部、化けの皮のはベロリベロリと剥がれに剥がれて、修復不可能なため、すでに私たちはキワモノとして周知され、開き直っている。
グール王子傘下で、開拓の女帝ミラに目をかけてもらっているという、後ろ盾満載のキワモノだけに、多少アレでも変なちょっかいをかけてくるものはいないし、良識ある魔法学校生はサワラヌモノニタタリナシとばかりに、適切な距離をとって接してくれているので、基本は無問題だ。
それでもイケニエ発言は不穏だったららしく、何人かの女子の腕に鳥肌のようなものが見受けられるが。
「大丈夫っしょ。ダメでもグール王子に頼めばなんとかしてくれっし」
ザワザワ。
ボアの言葉に、たまらず周りが騒ぎ始める。イケニエと聞いて、生徒の誰かが犠牲になったとでも想像したのだろうか? グール王子の権力があればそれも可能なだけに、笑いごとではない。
ヤバイ……。
なんだか楽しくなってきた。
いや、ダメダメダメダメ。
周りの反応が面白いからといって、無駄に恐怖心をあおるのは正しい行動ではない。
残念だが、ここはキチンと誤解を解いておこう。
「イケニエって希少両生類と、家畜竜と、古代竜の死油だったよね?」
私は周囲に聞こえるように、確認をした。
「ははっ、チョー説明的」
「うっさい。それで?」
私の意図を察したボアの揶揄を流して、私は返事を促した。
ボアもこだわる気がないのか、話を続ける。
「んー。取説通りなら昨日と一緒でいいはずだけど、次は座標指定とかするっしょ。もう少し研究進まないと予測とか無理じゃね?」
「それはそうなんだけど、デフォルトの物集めるだけでも結構苦労するから、研究と同時進行かな、って」
「顧問に丸投げで」
「あ、それいいね!」
まさに名案とばかりに相槌を打った私の頭に、バシンと軽い衝撃が走る。
「良いわけありません」
私の頭をはたいたのは、日誌のような固い表紙のノートだ。
見上げて顔を確認すると、わが召喚研究会顧問にして、魔法学校の特別教諭であるミラ先生、つまり番長が私たちを見下ろしていた。
「おはようございます、ミラ先生」
「ざいまーす」
二人で挨拶すると、ミラ先生は不快そうに眉根をよせた。
「……話があります。放課後、部室に集合しなさい」
ミラ先生の言葉遣いがアレなのは生徒の手前があるのだろう。
彼女は元々名誉教諭として名前だけ魔法学園に所属していたのだが、それだとあまり自由に学校に来れないし、研究会の顧問にもなれないということで、役職を特別教諭に変更したそうだ。
なんといってもエルスの件に関しては彼女は共犯なので、責任を感じた末の当然の行動だと思われる。
「勝手に召喚の儀式を行ったことに関しても、ちゃんと説明してもらいますからね」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
誤魔化そうとしたら、本気で睨まれた。
「…………ごめんなさい」
これはさすがに謝るしかない。
召喚の儀式は危険が伴うということで、けして勝手に行うな、と言われていたのだが、危険が伴う儀式の許可が簡単に降りるわけもなく、安全対策で用意しなければならない物がさらに増えそうだと予想されたので、とりあえず召喚装置の性能だけ確認したかった私たちは、材料がそろった時点で、そのことに気付かれるよりはやく召喚魔法を実行したのだ。
説明書を見る限りそんなに危険はなさそうだったし、何よりそんな危険よりキレているであろうエルスが怖いので、少なくとも一度は召喚実験を行った既成事実が欲しかったのである。
そんなことは承知の上であろうミラも苦い顔をして、
「とにかく放課後は説教です。それと、大事な話もありますので、放課後は絶対部室にくるように」
「大事な話?」
「ここではできない話です」
「わかりました」
ミラ先生……番長がこう言うってことは、本当に大事な話なのだろう。
私が頷いて、ボアにも不満の声が上がらないことを確認すると、ミラ先生は教室から出て行った。
それから間もなくAクラスの担当教諭がやってきて、授業が始まり、魔法学校中等部の一般的な一日が始まった。
ちなみにレイスは1時限目の途中で入って来たが、グール王子の補佐をしていることは周知の事実なので、なんのお咎めもなかったようである。




