51 こんにちは、王立魔法学園(ヒロインちゃん視点)
すいません。短いです。
王立魔法学園。
多くの貴族と、奨学生となれる才能ある者しか通えないその学校は、王都に住む平民みんなの憧れだった。
わたし、花屋の娘のアナも、例にもれず憧れていたけれど、実は自分は奨学生として入学できるんじゃないかって、予想してたの。
だって私には前世の記憶がある! いわゆる転生者だから。
そうは言ってもこの世界、転生者だからって特別チートらしきチートはないの。
魔法はあくまでも化学の延長みたいな感じで魔力とかなさそうだし、知識も、私の前にも転生者がいてチートしたせいで、前の世界で学んだことはすでにこの世界で有効活用されているみたいで、ごはんも美味しいし、生活環境も悪くない。
しいて言うなら、前世の学校で学んだことが受験の役に立ったというくらい。
でもいいの。
自分で文化を切り拓けないことは少し残念な気もするけど、苦労なく快適なのはありがたいもの。
それに、たぶんこの世界は乙女ゲームの世界だと思うのよね。
だって学園の生徒会長はこの国の王子様。
漆黒の瞳に覇気溢れる琥珀の瞳。その雰囲気は狼のように獰猛でワイルドだなんて、攻略対象者としか思えない。
名前はグールだなんてちょっと変わってるんだけど、これはきっと制作者のセンスが悪かったのね。
その側近のレイス=ゴルドバールもそう。
サラリと長い銀色の髪に神秘的なアメジストの瞳、透き通るような透明感のあるその肌はまるで女神のように美しい。なのに男の子。
賢く、魔法の腕も一流という、いかにも攻略対象な男の娘だと思う。
ただ、この2人は初等部の頃、いろいろ悪いこともしていたらしく、一筋縄じゃいかない雰囲気なの。詳しいことは王族の権力で箝口令が敷かれているのでわからないんだけど、危険な香りがプンプンするわ。
いわゆる、ダークな魅力ってヤツね。
そういうキャラづけも、わたしは嫌いじゃないし、どんな背景があるのかちょっと楽しみかも。
他には、やっぱり王道も大事ってことで、正の位置にいる攻略対象もいるの。
それがユウシャ=ディーン先輩。
うん、ユウシャとか、やっぱり制作者、名前のセンスないわよね。
それはいいとして、ユウシャ先輩は緋色の髪に明るい紅茶色の瞳、健康的な、いかにもスポーツマンといった体型の男の子。もちろん運動が得意で、剣術なら王国内でも1、2を争う腕らしく、踏破した迷宮も数知れずらしい。
しかも正義の人。
初等部の頃いろいろやっていたグール王子を諫めてたり、街の悪党を懲らしめたり、下町でもヒーローとして人気だったの。わたしも、入学式の会場がわからず迷っている時に声をかけてもらって、すごくドキドキしちゃった。
こんな非現実的で格好いい3人がいるんだもの。誰だってここが、乙女ゲームの世界だって思うわよね?
残念ながらわたしの知っているゲームの中には、こんなゲームはないんだけど、そもそも乙女ゲーム自体、有名どころの2,3本しか知らないから、わたしが知らないのも無理ないと思うのよ。
だって前世の私は中学の時から、それこそ王子様のようなかっこいい彼氏がいたし、二次元なんか目じゃないくらい素敵で、ゲームに何かを求める必要なんか、なかったもの。
最期はちょっとヤンデレ化して、私を嫉妬させようと他の女に近づいたり、最終的には無理心中みたいな感じになっちゃったりしたけど……。
…………。
本当はね、前世の彼のこと、まだ忘れられないの。
だって本当に大好きな人だったから。
だけどこの世界に生まれて、12年以上生きて来て、いい加減吹っ切らなきゃいけないないなぁ、て、そう思うの。
幸いというか、ここが乙女ゲームの世界であれば、私はヒロインのポジションなんじゃないかと思うし、もしそうなら、いろんなイケメンに言い寄られるはずだから、きっと前世の彼より素敵な誰かに出会えるはず。
だから。
「お前のように生き生きと笑う女を見たのは初めてだ。平民というのは皆そうなのか」
偶然会話する機会を得たグール王子が声をかけて来た時、私はどきどきしながら笑顔を向けたの。
それは花屋で常連さんを何人もときめかせた笑顔で、私は笑顔には自信があったから、グール王子のこの反応もそんなにおかしなことじゃない。
ただ少し話が性急な気がするけど、乙女ゲームならこんなものなのかしら?
「花屋の看板娘だったお前の話は、配下から聞いた。奨学生となるだけあって、随分と優秀らしいな。それに、いずれ国政を担う物として、庶民というものを知るのも無駄ではないだろう」
話はトントン拍子に進んでいく。
「レイス、コイツを庶務として生徒会に所属させろ」
「はい王子、仰せのままに」
グール王子の後ろに控えていたレイス=ゴルドバール、銀髪の美少女にしか見えない少年がお辞儀をして、サラリと長い髪が揺れた。
「ではアナ、楽しみにしているぞ」
グール王子はニヤリと口端を上げて見せてから立ち去り、レイス様は残って、困ったように、わたしにほほ笑みかけた。
「申し訳ありません。突然のことで驚かれたでしょう?」
わたしは慌てて首を振る。
「と、とんでもありません。とても光栄なことでっ……」
「そう仰っていただけると助かります。元々生徒会の庶務は生徒会長の裁量で人数制限なく指名できるシステムになっておりまして、人材を育てる意味でも新入生から数人入れる予定だったのです」
レイス様は軽く息を吐いて、
「王子は決めたことを違えるのはお嫌いですので、お引き受けいただいて安心いたしました。私も庶務として生徒会に所属しておりますので、どうぞよろしくお願いしますね」
そっと手を差し出してくる。
細くて長い美しい指は、それでも彼が男性であると伝えて来て、私は緊張で赤面しながらその手を握り返した。
これで乙女ゲームが始まるのかしら?
わたしは新しい恋に出会える?
わたしはこれから始まる恋の予感にときめきながら、前世の恋心に蓋をして、厳重なカギをかけることにしたの。




