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私とストーカーと魔法の学校  作者: WLCノベル
第3章 中等部
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50 生徒会室にて

 あれから6年とちょっと。

 私、ボア、レイスは12歳となり、ユウシャ、グール王子は13才となった。


「テリヤキ最高っすーーー!!!」


 ……相変わらずのアンナは22歳だ。相変わらず平騎士、相変わらず独身、相変わらず恋人もなし、だ。


「もー、一生ついていくっすーーー」


 うん、焦がしテリヤキで胃袋は掴みました。そして今では正式に私の専属騎士となっている。人格はともかく、あの危険察知能力は大変重宝するし、アンナの面倒をみているっぽいレイスにしても、私に何かあると面倒だと思っているので、アンナを私につけることにしたらしい。


 それでもグール王子が危険な場所に行くときには連れて行ってしまうので、実質的な主従はレイスとの間にあるのだろうが……。


 なんだっけ、前世で裁判関係で大恩があるとかなんとか、一家離散しそうなのを助けられたとかどうとか。

 まあ黒を白にするほどのコネと手管をもっていた前世のレイスは、味方にすると心強い弁護士だったのだろう。


 そのレイスであるが、さすがに中等部ともなれば誤魔化せなくなるだろうとのことで、男子寮に移動している。見た目は相変わらず女の子なので、……というかかなりの美少女なので、知らない人間が見たら今の状況の方がぎょっとするようだが、男とわかって女子の人気はそれなりなようだ。いや、男子からの人気も相変わらずだというから、それだけでは済まされない何かを感じたりもするが。


 そして私との関係は、結局『親友』ということで落ち着いている。

 男女間の友情はあるんだ。利害関係さえ成立すれば。


 しかもレイスはBL的な意味でグール一筋という噂なので、私が嫉妬の対象になることはない。というか、噂だけじゃなくて奴らはそんな感じだと思っている。

 肉体関係の有無はともかく、もーお前らくっついちゃえよ、と吐き捨ててしまいたくなるほど、あの二人は特別だ。というか、レイスは変だ。

 グール王子のために命を捨てることも、グール王子のために生きることも、レイスにとっては当たり前で自然なことなのだと、この6年で感じた。それは王族を守るゴルドバール家の教えでもあるのだが、レイスの場合は前世からの因縁もあって、ハゲデブ弁護士だった前世の彼は容姿のせいで周囲の多くから裏切られ、見捨てられた過去があって、グール王子……野獣だけが変わらず使ってくれたとかそんなだったそうで、忠誠心は臨界を突破している。

 そこまでされては、さすがのグール王子も絆されてしまうようで……。


「おい、リオナ」


 生徒会室に遊びにきていた私に、王族で現生徒会長のグール王子が声をかけた。


「俺とレイスの噂、あれ蛇だろ?」


「え、何のお話ですか?」


「俺がおとなしくなったのは、レイスとの恋が成就したからだって噂が流れてるそうだな? 出所は完全に隠蔽されて、どこをたどっても出てこないらしいが、そんな噂を流して利があるのはレイスと近しいお前くらいだ」


 そうそう、ウッカリすると下半身に脳みそ支配されてるんじゃないかと思いがちなグール王子だけど、意外と物を考えている人だった。

 冷静に考えれば、前世においてもあれだけの悪事、富と権力があるだけじゃ隠蔽できないよね、って話で……。


「驚いて言葉もないみたいな風を装っているが、ツマランことを考えているのはわかっているからな」


「嫌ですわ、王子殿下。とんでもない誤解です」


 私はにっこりと笑顔で流した。


「そもそも蛇が噂を流したとして、彼が私にそれを言うわけないじゃないですかぁ」


 ボアはたしかに口が軽いし、余計なことは山ほど言うが、そのほとんどは目的あってのことだ。その目的というのが大抵の場合、噂の拡大だったりするので、噂の出所が自分だ、なんて噂が収束しそうな話を、わざわざ自分からするはずがない。

 とはいってもあの噂は、私の身の安全のために蛇が流したのだろうと確信はしているが、だからといって、大した問題でもないだろう。


「それに、どうせすぐ、次の噂が流れるのでしょう?」


「何の話だ?」


「ヒロインちゃんが入学したのだとか」


 フフフと笑う。


「……仕方なかろう。俺もいい年だからな」


 グール王子はつまらなそうに吐き捨てた。


 どういうことかと言うと、初等部では本能のままにはっちゃけていたグール王子だったが、中等部に上がる年齢になると、さすがに『子供がそんなことするわけないじゃないですか、あっはっはー』という手が使えなくなってしまったらしい。


 この国は比較的腐っているが、貴族の中に良識のある者が全然いないということではないし、一応ライバルの第一王子第二王子もいるので、下手を打って王位継承権がややこしくなるのも面倒くさい。


 ついでに言うと、グール王子もいろいろやって大抵の遊びに飽きたので、後は性欲さえ処理すればいーかな、みたいな感じで落ち着いたらしく、今年からは少し自粛する流れになったらしい。


 それで、性欲処理用に、あと腐れなく処分できる庶民の少女を一人、調達することになったそうで……。


 そうして選ばれたのがヒロインちゃんで、とにかく極上、間違いなく名器の彼女は、後々面倒なことにならないよう王子の側近で共有した後、その不貞をたてにポイする予定で、我らの学校に入学させたらしい。

 一応頭も悪くないそうなので、奨学生ということで、問題なく手続きできたそうだ。


 というものボアからの情報だが。


 ちなみにヒロインちゃんという愛称もボア命名だが、外から見ると女性向け恋愛ゲームの逆ハーヒロインみたいな境遇になるから、という理由だ。女生徒のヘイトが彼女に集中するだろうことも、予定調和である。


「町で見かけて一目ぼれしたそうですね?」


「ああそうだな。あんな生き生きと笑う女を見たのは初めてだ」


 よどみなく答える王子の瞳は潤んだ熱を湛えて、こういう演技もできるのか、と感心した。


「レイスも逆ハーに入るのなら、王子殿下とレイスの噂は自然消滅すると思いますよ」


「自然……か?」


「はい。必要がなくなれば、自然に消えるものです」


 そうはいってもグール王子とレイスのあれは事実無根とは言い難いから、どこかに根は残りそうではある。

 噂って流すのは簡単でも消すのは難しいんだよな。


「別に俺は、レイスの相手がお前でも全然かまわんのだがな」


っ!


「なんだよ?」


「イエナンデモ……」


 王子……野獣は前世も今も最低の人間だ。

 それはわかってるんだけど、たまにこうやってレイスの気持ちとか自然に気遣ったりするのが、変に破壊力がある。


 あれから6年、私が前世の姫で、弟のエルスがストーカーで、ボアが蛇で、レイスが私に近づいたのはストーカーの件があったからだ、なんてことはさすがにバレている。なんていうか、グール王子とレイスはすごく距離が近いから、バレない方がおかしい。


 その上でグール王子は、レイスが私を特別気に入っていると思っているようだ。

 私としては、たとえ気に入っていたとしても、グール王子に対する気持ちの百分の一以下な気がしているのだが、それにしてもレイスにとってはすごいことなのだと言われれば、そんな気がしなくもない。


 だが……そんな配下の恋愛の後押しを、この鬼畜王子がするなど誰が想像するというのか。

 しかも実力行使ではなく、その気持ちを気遣うなどとは……。


 これが俗にいう『野良犬にやさしい不良の法則』であろうか。さすが王子、高度な魔法を使ってくる。


「……ストーカーのことを心配しているのか? たしかに一度は下手をうったらしいが、あれは存在も意識しない不意打ち状態だったからだ」


 私が棒読みで返したのを、グール王子は勘違いしたようだ。


「こうして相手の存在が明確な今、そんなに恐れるほどのことではないだろう。俺には、お前らが居もしない空想上の魔物と重ねて、無駄に恐れているようにしか見えないね」


 どうもグール王子は、レイスや私が、エルスのことを恐れて、そのことを中心に行動していることを、歯がゆく思っている節がある。


 たしかに、グール王子……野獣にとっては、多くの犠牲者の中にたまたま私が混じっていて、私に手を出そうとした直後に命を刈り取られていた、という流れなので、エルス……ストーカーのことがほとんど記憶に残っていないのも、無理のない話なのかもしれない。


 小中高と彼を知っていた私とボア、そして復讐のためにいろいろ調べていたレイスとは、土台があまりに違うのだ。レイスから話を聞いたと言っても、前世なんて記憶として遠すぎる話では、危機感を持てという方が難しかろう。


 だが、


「彼を甘く見ないでください。何かあったら、レイスが悲しみます」


 思わず忠告してしまう。

 忠告してしまう程度には、グール王子のことが嫌いではないから。

 しかし、グール王子はそれを鼻で笑った。


「はっ。牽制しなくても、お前には手を出さねーよ」


 どうやら、また私がわが身可愛さで牽制したと思われたようだ。今回は一応、グール王子の御身を気遣ったつもりだったのだが、


「恐れ入ります」


 私は流すことにした。


 実際、ストーカーやらのことが明るみになった時に、手を出せない存在ということで興味をもったグール王子が、私をつまみ食いしてみようとしたことが何度かあった。

 その度に、グール王子の無事を願うレイスが血涙を流す勢いで止めていたから大事なかったし、流石のグール王子も軽い気持ちでそんなことをする気には、ならなくなったっぽいので、それはいいのだが……。


 どうもそれは、あくまでもレイスの気持ちを慮ってのことのようで、根本的なところでエルスに恐怖していないグール王子はなんとも危うい。


 私はグール王子を守りたいレイスの気苦労を思って、そっと小さくため息をついた。

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