40 デートへGO!
王立魔法学園は特に全寮制というわけではない。
しかし立地条件は市街地を遠く離れ、ほとんどの者が寮に入っているため、通いの生徒は本当に少ない。
奨学生が寮に入るのは無料というのも、その大きな理由だろう。
そんなわけでなのか、ボアもやっぱり寮に入っていて、朝は校門で待ち合わせをし、学校から一緒に出かけることとなった。
「お、ほんとに来た。まだ時間じゃないよ。期待しちゃった感じ?」
「うん、待たせたら悪いと思ったんだけど、ボアはもっと早かったんだね。待たせてごめん」
「ノープロブレム。待っている時間もデートの時間、それもいい想い出にする、俺イケメンじゃね?」
いや、うん、せっかくイケメンになれそうな台詞浮かんでるのに、いろいろ台無しじゃね? とは思います。
「ボアくんはやさしいんだね。それじゃあ行こうか」
私が良識を持って返すと、なぜだろう、ボアはククッと笑った。
「何?」
「いやいや、これはこれで、ありなんじゃね、的な。クク……」
意味不明だし、気味悪いんだけど。
「ま、行こ。久しぶりなんだし」
久しぶり?
「久しぶりって?」
「あ、あーーー、言ってなかったかな。俺の家この近所だから、近くの市街地は俺の庭的な?」
ふーん。
間のとり方が不自然だった気もするけど、とりあえず今は流しておこう。
「そうなんだ。だから案内を申し出てくれたんだね」
「ああ、せっかく友達になったんだし、リオナにも俺の育った町を見てもらいたい、なんて、これ、ほとんどプロポーズじゃね」
「フフ、ボアくんって楽しい人だね」
ツッコミ禁止。ツッコミ禁止。
「リオナもな」
ボアはうれしそうに笑って、私の手をとり駆けだした。
「ちょっ、わっ」
抵抗する理由もないので引かれるまま走ろうとしたら、躓きそうになった。
それをボアは腕をひいてフォローして、
「大丈夫、お嬢さん」
かっこつけているが元凶が言うことではない気がする。
それでも、
「うん、ありがとう」
ツッコミを我慢した私は、笑顔で返した。
こんなんが一日続くかと思うと、思わず先行き不安になる。
むしろバラした方が楽なんじゃないかと思い始めた時、校門脇の通用口のようなところに到着した。
校門は大きく重厚なので、貴族の馬車がくるとか、そういうことでもない限り開けられることはない。
その代わりに利用されるのが、この通用口で、セキュリティ上の理由で騎士が数人張り付き、外に出るにも中に入るにも、生徒手帳の提示が義務づけられている。
前日レイスが説明してくれたように、休日と言えど学校の外に出かける者は少ないので、一人一人確認して、記帳しても、特に手が回らなかったり、混雑したりということは起きないらしい。
実際今のこの瞬間外に出ようとしているのは、私とボアの二人だけのようだ。
私たちはそれぞれの生徒手帳を提示して、学校の敷地外に一歩踏み出した。
そういえば、校内は高い塀に囲まれているし、来る時は馬車を利用したので、学校の外をゆっくり見るのはこれが初めてだ。
外は、高台になっていた。
市街地はたしかに遠いが、高台からその場所は見えて、その景色が一望できた。
まず目を引くのは、町の中心、堀に囲まれた王城だろう。
バッキンガム宮殿のように重厚で威圧感のある大きな城の周りは、美しい模様のように見える広々とした庭となっており、カラフルなのは花だろう。
その外側は樹木で作られたラビリンスとなっており、塀があって堀がある。
堀の外は、アパートのような建物や、剣術の練習場らしきものが見え、恐らくは騎士の宿舎かなにかだと思われる。
そしてまた塀があり、堀があり。
その外側は畑だ。あまり広くはないが、籠城する時にはきっと重宝するのだろう。
そしてまた塀があって、堀がある。
一般の人が住んでいるであろう市街地は、その外だ。
遠くからではよくわからないが、大きい建物の並ぶ区域と、細々とした建物の並ぶ区域があって、なんとなく貧富の差を感じてしまう。
「お、何、見とれちゃってる感じ? この景色、君にプレゼントしちゃう?」
ボアに声をかけられて我に返る。
あまりの絶景に、アッチの世界へ行ってしまっていたようだ。
「ごめん。あまりにすごい景色だから、ビックリしちゃって。市街地ってあそこ?」
「そう。結構距離あるから魔法つかっちゃおう」
「え?」
ボアがとりだしたのは……。
「スケ……ボー?」
コロをつけたサーフィンボードのような板。
それにボアが乗って、私にも乗るよう促した。
「でも……」
「これでいかないと、今日中に行って帰って、時間、間にあわないっしょ? さあ、乗った乗った」
た、たしかにあの距離だと、すごくぎりぎりな気がする。
「えと、でも帰りは……?」
行きはこれで行くとして、帰りはシャレにならない上り坂なんじゃないのか?
「だぁーいじょうぶ。帰りは超リッチなセレブばりに馬車利用するから、無問題」
なる……ほどね。
「……落とさないでね」
私は覚悟を決めて、板に乗った。
落としたら殺す!
「しっかり、つかまっちゃって!」
ギュ。
言われた通りボアの腰にしがみつくと、ボアが地面を蹴ったりすることもなく、板が勝手に動きだした。
ぬあっ、うひ!
そういえば、言っていた。
『魔法を使う』と。
この板、魔法具か!!!
魔法具だけど、上り坂を登るパワーはないようです。




