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私とストーカーと魔法の学校  作者: WLCノベル
第2章 初等部
36/59

35 誤算(ボア視点)

嫉妬という感情は緑らしいです。

「私のことを知ってるの?」


 いきなり馴れ馴れしかった俺に、姫は怪訝な表情を見せた。

 俺はそれを軽く笑う。


「もち知ってる。王子様の姫だろ? これ常識」


 実際アイツと姫のことは、とても有名だ。

 姫はチッと舌打ちして……どうでもいいけど、アイツはこの女のどこがいいんだ? ……それから、苦く笑った。


「そういう黒歴史は、学校変わってまで持ち込んじゃだめだと思うな。あんな下衆なあだ名、小学生までだと思うし」


「あれ? 姫って褒めてない? かっこよくない?」


「どんなバツゲームだよ」


 吐き捨てるように言う姫は、うん、まあ、たしかに姫って感じじゃなかった。


 それまでアイツの執着対象として、遠くから眺めるだけだった俺は、話して、興味引かれた。もともとアイツが執着する理由も気になってはいたから、その答えが知りたくなった。


 あいつはというと、やると決めた以上完璧なのか、彼女と仲睦まじくしていて、俺たちのクラスまで来ることはほとんどなく、俺は順調に、姫と仲よくなっていった。


 だけど、


「そういえば、番長から聞いたんだけど」


 ある時、姫が睨みつけるようにして聞いてきた。


「私の『姫』ってあだ名、アンタがつけたんだって?」


 中学に入ってから番長と接触することはなかったから、それはあまりに予期せぬ攻撃で、


「あっはっはー。なーんのことだっかわっかんないなー」


 誤魔化す笑みも、自分でひきつっていると分かるレベルだった。

 ヤバイ。このままイモズル式に、俺がイジメの拡大に関与しているとバレたら……。


「番長が、『姫』なんてあだ名があったから、小学生の頃苛められてたんだ、って言うんだけど?」


 バレてた!!!


「あーっと、不可抗力みたいな?」


 ゲシ!


「ヒグェ!!!」


 間髪いれないタイミングで、手加減なしの蹴りが脛に入れられる。


「ほんっとアンタ、ロクなコトしないね。そりゃ嫌われるよ」


 辛辣だった。

 たしかに俺は、嫌われていた。というか、明るく楽しい学校生活を送るために、皆少しずつ演技をしていたから、お互いがお互いをどこか嫌っているのは当たり前で、それをわざわざ指摘するのは野暮なことだと思っていた。


 だけど、実際に言葉にされると来るものがある。

 そういえば、俺のあだ名は、『蛇』だった。


 誰が付けたかはわからないけれど、間違いなく好意的ではないあだ名。


「『番長』がさ、アンタとはもう付き合わないほうがいいって言うんだ」


 ああ。と思った。あの時『番長』を利用したのは失着だ。俺が思っていた以上に、あの女は鋭く洞察する。


 俺は、詰んだ、と思った。


「でも今更だよね」


 え?


 顔を上げると、そこにあったのは……。


「アンタがロクでもないのなんか最初からなのに、今更言われてもって感じ?」


 笑顔? どうして?


「え? 怒ってなかったりする? もしかして俺にフォーリンラブってたりする感じ? 俺モテモテすぎ?」


「それだけはない」


 動揺を隠すための軽口も、いつも通りの軽く否定されて、


「でも、これまで私もアンタのロクでもない噂で楽しませてもらってるし、貸しひとつを10倍返しにしてくれたらそれでいーよ」


 本当に、全然気にしてないみたいだ。


「10倍ってボリすぎじゃない?」


「あー、結構前のことだし、利子?」


「えー、そーいう場合、時効とかあんじゃん。なんで増えちゃうの? ズバリ理不尽じゃね?」


「じゃ、100倍で」


「って増えてるし!」


 ああ、ロクでもないな。

 この女は本当に……。


 姫は自分の欲求に正直で、自分のためになら何をしてもいいと思っていて、そして他人がそうであることも許してしまう。


 だからなのだろう。姫の周りには、アイツや、俺のような面倒なヤツばかりが集まるんだ。


 まともな神経をしていたら、姫の傍にはいられないから。


 その時から俺は、アイツへの嫉妬だけではなく、姫が欲しくなった。


 そのために、アイツが隠れ蓑に使った女が不安になるよう囁いたり、アイツと肉体関係を結ぶようそそのかしたり。


 いつかアイツが駆け引きを終えて、姫を正面から求めた時、姫がアイツといたくなくなるためのカードを集めた。


 だって俺は『蛇』だ。

 囁いて禁断の果実をとらせ、楽園から引きずり落とす。


 それが蛇の役目。




 だけども俺は忘れていたんだ。

 アダムは、禁断の果実を手にしたイヴのために、神をも裏切って楽園を捨てた、最悪のストーカーだったということを。

次回、本編に戻ります

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