34 その感情の色は緑(ボア視点)
ボア=コートの視点です。
小学生の頃、うちの学校にはプリンスと称えられる男子がいた。
そいつは成績優秀でスポーツも何をやらせても上手く、見た目も整っていて、立ち居振る舞いまで別格にスマートだった。
女子の多くは彼に憧れ、男子のほとんどは、憧れながらも妬んだ。
俺もそんな中の一人だ。
アイツに会うまで俺は優秀な方だったから、少し天狗になっていた。それが、何をやっても敵わない相手に会って……。
見返してやろうと頑張れるのは、精々1年くらいだ。
その1年の間もアイツはきっと俺の存在なんかに気付きもせず、いや、それどころか、アイツとっては周りすべてがどうでもいいことのようで……。
なぜアイツがあんなにクールでスマートなのか。
1年アイツを目で追っていた俺には、その理由がわかった。
アイツにとって俺たちのすべてである世界は、どうでもいいものだったんだ。
だから感情が動くこともなく、いつでも最善を選択する。
そんなヤツに敵うわけがない。
俺がアイツを気にすること自体、いらぬ感情が発露だ。
そして俺は諦めた。
いろんなことが、虚しくなった。
だけどあの時、俺は気付いたんだ。
アイツが、何事もどうでもいいようにあしらっているアイツが、唯一執着する存在があるということ。
アイツはそのためなら、他の何もかもを捨てるだろうということ。
ある日の運動会、一人の少女が転んで、いつもはクールなアイツが、競技を無視して駆け付けた。
そして周囲が茫然とする中、その少女をお姫様のように抱きあげて、いくら先生が任せろと言っても聞かず、自分で救急ブースに運んだ。
男子は呆気に取られて、女子は助けられた少女を妬んだ。
アイツは多くの女子に憧れられていたから、誰かの者になることが受け入れられるわけがなかった。
俺は思った。
その少女をアイツから奪ってやれば、俺はアイツに敗北を突きつけることができるんじゃないか、と。
そしてそのための材料はすでに揃っている。
アイツに嫉妬する男子たちと、アイツが大事にしている少女に嫉妬する女子たち。
優れた人間は大変だ。何の落ち度もないのに、妬まれ恨まれる。
俺は噂を操作することにした。
アイツの耳に届かないように、女子たちがあの少女を苛めるように。
あの少女に『姫』というあだ名をつけたのも俺だ。
体育祭での出来事が、このあだ名のせいで風化せず、何度も話題にのぼる。
その度に女子たちは彼女、『姫』に嫉妬するだろう。
そしてそれとなく、俺は『姫』の友人の女『番長』に囁いた。
『あの子が苛められてるのはアイツが原因なんだよな? アイツ、それがわかってて、あの子の傍にずっといるのか? あの子がそれを望んでるならいいけど、女子は集団になると怖いし、なんか心配だな?』
番長は姫を守ろうとしてはいたが、力で解決できない女子の陰惨ないじめに手を焼いていたから、自分が守れなくなることも考えたのだろう。
そして姫は、残念なことに王子を必要とはしていなかった。
俺の見えない場所で話は進み、中学に上がる前にひと悶着あったようで、中学に上がってすぐ、アイツは姫以外の彼女を作った。
それが隠れ蓑であることは、アイツをずっと観察していた俺にはすぐわかったが、周りはそうでもないようだ。
正直なところ、もっと決定的な亀裂が入ってくれてもよかったのだが、そこまで都合よくはいかないらしい。
ただし、うれしいこともあった。
俺と姫が同じクラスになって、アイツは別のクラスだった。
なんという幸運。
これで、俺がアイツから姫を奪ってやったら、アイツはどんな顔をするだろう。
きっともう、俺を無視したりなんかできなくなるはずだ。
俺は初対面から馴れ馴れしく、姫に話しかけた。
長くなったので、本日ここまで。




