21 池の法廷
いろいろあるんだけど……。
「なんのことだか!」
私は言い放った。
だって、意味がわからない。私が私だっていう、根拠がわからない、ってゆうかそれ妄想でしょ?
「何? 名探偵よろしく推理を披露しないと、頷かないってこと?」
銀髪の元ハゲが小さく息をつく。
余談だけど、あの男は童顔だったし、女顔だったから、これくらいの年齢の頃は、やはり美少女顔だったかもしれない。
時間の流れって残酷だ。
「ボクらまだ5歳なんだよね」
起こった事件を思うと、思わず遠い目になる事実をのたまわった。
「この年齢に男も女もないし、さっきボクが性別を明かした時の反応だけでも充分証拠になると思う」
男だと言われて身構える。そんなのはこの年齢ではおかしいのだという。だがこれはひっかけだろう。
「私っておませさんなのよね」
これですべて説明がつくとばかりに笑顔を向けた。
とゆーか、この年齢で男女意識するとか、普通にある話だと思う。
「さっき、『行動原理』とか、随分難しい言葉を使ったよね?」
「私、読書が大好きな勉強家だから、難しい単語も結構知ってるのよ」
「刀も随分上手に使っていたよね。髪を切るなんて、難しいのに」
「な、なんのこと?」
ひっかけには引っかからない。
私は笑顔でトボけて返した。
「……見てた」
「暗かったし、見間違えじゃないのかな」
この世界に赤外線カメラ的なものがあるとは思えない。証拠なんてきっと出ない。
「君の髪、それも切られたものだよね?」
「? ……そうだ、けど」
「こういった場合、それが被害者なら犯人を気にするものなんだ。犯人が気にならないのは、自分がその犯人だった時だけだ」
名探偵よろしく決めつける。
でもこれって、本題と関係のない話よね?
「百歩譲って、私が刀を使えたからどうだって言うの? 自分を鍛えて、何か問題でもある?」
そう。あれ自体はまあ、人の髪を切ったり傷害ではあるとは思うけれど、今問題にしているのは前世関係の話なのであって、その辺りの罪はどうでもいいのだ。
「いいこと教えてあげる。普通の人間はね、罪悪感というものを持ってるんだよ」
ああ?
「見ず知らずの女の子の髪をあんなに残酷に切り落として、何も感じない人間なんてそんなにいないんだ。この国の上流階級には髪を結う文化があるし、髪が短いことは、良家の娘にとってはかなり致命的だしね」
「髪はまた延びるじゃない」
今の年齢から延ばせば、全然大丈夫でしょ。
「では、大人だったらしなかったと?」
それは保証しない。
「ってゆーか、あの状況を作ったアンタにだけは言われたくないんだけど」
正論だ。どう考えても正論だ。
「異議あり。ボクの人格は、本件にまったく関係がありません。ここで議論する必要があるとは思えません」
タンタン。
何この、いつも言ってきた、みたいなフレーズは。
「今問題としているのは被告の人格が、あの女と同じものかどうかである。あんな残酷で自己中心的な行動を、眉ひとつ動かさず行う者は、ボクはあの女をおいて他に知らない。そもそもあの女は、自分のせいで死体の山が築かれているのに気付いても、『私を守ってくれている王子様は貴方だったのね。アイウォンチュー』なんて言える糞ビッチだったわけで……」
「そこまで酷くはないわ!」
追いつめられて、誤魔化すのが面倒になった(というか、否定しても相手がそう思いこんでいる以上、どうしようもないと判断した)私は、不機嫌に話を遮った。
なんていうか、私を私だと思いこんだ理由はわかったし。
っていうか、エルス以外にもビッチと言われるなんて、まるで私が本モノみたいじゃない。前世も今世もバリバリの処女なのに、その評価はヒドすぎる……。
「で、答えは?」
「答えって何が?」
「ボクと親友になろうって話なんだけど」
ああ、そういえばそういう話だったね。
「執行猶予を希望します」
相手に合わせて法廷っぽく言うと、銀髪の女装少年は「認めましょう」と言って、ようやく手錠を外してくれた。
「異議あり!」は使ってみたくなるよね?




