20 親友契約
春になって大分暖かくなったとはいえ、池の水は冷たかった。
手錠は外してもらえなかったので、服はハサミを入れて脱ぐことになった。
そこまで警戒しなくも……とは思ったが、キツく鋭い視線で射ぬかれて、何も言えなかった。ちなみに、着替えの服は山ほどあるらしい。
どういうことかと聞いて、今日みたいな事件が初めてだと思うのかと聞き返された。
「今でこそ趣向を凝らしているけれど、最初の頃はヤルだけでよかったから、不用な服は剥ぎ取ってから、転がしておいたんだ。その後、新品の服を代わりに送るから、剥ぎ取った服は積んであるんだよ」
なるほど。
服がある理由もそうだけど、私は刀を取られていなかった理由もわかって、すっきりうんざりした。
まあ、予想はしてたんだ。そういう趣味の悪い話だって。
はあ、と息をついた私は、遠浅になっている池の水に足先をつけた。
春とはいえ、水はかなり冷たい。
私は足を進め、ゆっくり進入し、手錠の範囲で行ける所まで進むと、水の中に身を沈めた。
ゴポゴポゴポゴポ。
池とはいて、この水は中々澄んでいるようだ。
プランクトンやヤゴといったビオトープを思わせる生物も結構いるが、不快に思うほどのことはない。
私はワシャワシャと自分の髪をかき混ぜて、そういえばスッカリ短くなっていたのだと思いだした。
「ああ、そうだ。ひとつ言っておかなきゃいけないことがあるんだった」
私が水面に顔を出した瞬間に、自分も膝まで水に浸かっていた銀髪の少女がはっきり言った。
「ボク、男だから」
「は……」
ブクブクブク……。
反応に困った私は、もう一度水に沈んだ。
相手は靴を脱いだだけで着衣のままだが、私はマッパである。
そのタイミングで性別宣言……。
ブハッ。
「ナゼ、今、ソレヲ言ウ?」
思わずカタコトになった私が身構えて、銀髪の少女(少年)は眉間をつまんで首を振った。
「そういうことじゃない。ボクは君に何もしない」
「…………」
「ただ、今後のことを考えて、面倒なタイミングでバレるより、今話した方がいいと思っただけ」
ほう?
そういえば最初、この子はなんと言っていたんだったっけか?
「……話が、ある?」
そう確か、話があるとか言っていた。
「そう。ボクと取引しないかと思って……」
「取引?」
オウム返しに聞くと頷かれる。
「ボクは君を王子に近づけたくない。君は、厄介事には関わりたくないんだろう?」
それは……そうだけど……。
真意がわからない私は次の言葉を待った。
「ボクが今回集めたのは見た目が王子好みの新入生だ。今回はボクが勝手に集めたから、王子は君のことを知らないけれど、好みの容姿である以上、いずれ目に留まる」
うへっ。
吉報と凶報が同時にもたらされて、内心唸る。
顔を知られてないのはいいけど、好みとか言われても死刑宣告にしか思えない。
「だけど王子はボクに甘いから、ボクが始めて作った友達なら、見逃してくれると思う」
え?
「ボクと友達……いや、親友になってほしい」
「何言ってるの?」
思わず素でツッコんだ。
意味がわからない。これまでの流れから、どこで友達になろう、なんて話になったのか。
「王子がアンタに甘くて、アンタの友人に手を出さないまではいいとして、アンタの目的は何なのよ? 行動原理は?」
「簡単だよ。ボクは王子を失いたくない。君のストーカーに王子を殺されるなんて、二度とゴメンだ」
「は?」
ストー……カー……。
「前世、ボクと王子は君のストーカーによって殺された。誰かなんて、名乗らなくてもわかるんじゃないのか?」
……野獣には、腹心ともいえる弁護士がいた。野獣のためにセカンドレイプの舞台を作り、すでに痛めつけられて屍同然となった少女を、さらに食い散らかした男。
童顔なのに、小太りでハゲていた(ここ重要)。
私たちはそいつを、死肉をむさぼるアフリカハゲコウ、マラボゥストークと呼んだ。
マラボゥストークは凶悪な面構えの素敵な鳥さんです。
ちなみに弁護士は禿げてましたが、25歳くらいです。




