18 ヒーロー
…………びちゃ。
うう。
絶体絶命のピンチ。咄嗟の判断で死んだフリを決行した私は、予想した通りの尿の洗礼を受けて、眉をしかめないよう苦労した。
あの時、アンモニア臭がして、恐怖による『おもらし』というクリーンヒットを誰かが飛ばしたのを悟って、自分もいち早く戦線離脱せねばならないと思った。
とはいっても『おもらし』はもろ刃だ。
相手の性癖によっては余計興奮されるし、匂いが雄を引きつける可能性もある。
だから私の選択は失神だった。
下手な演技でバレると面倒だが、扉からの光を背にする私の表情は逆光で隠れるであろうし、自分から汚物にダイブするのは結構勇気のいることなので、今のタイミングならバレにくいと判断したのだ。
状況に焦ってテンパっていたにしては、少しは考えた行動と言えるだろう。
「ああ……う、お、お前なんなんだよ!!」
傍にいた女の子の一人が、ひっくり返りそうな声で噛みついた。
「こ、こんなことして、ボクのお父様が知ったら、お前、た、ただじゃ済まないんだからな!」
きゃー、素敵。最高! 犠牲打ありがとう! ありがとう!
「へえ、どう、ただじゃ済まないんだ?」
「うぉ……お、おまえなんか、おわりだ! お父様に斬られておしまいっ、だ、んだよ」
『だんだよ』、って……。緊張で舌が回ってないらしい。
「それはいいが、そんなことをしたらお前の親父も反逆罪で死ぬぜ?」
「なっ……」
「自己紹介がまだだったな。この国の第3王子グールだ。お前の親父が何者か知らないが、この国の国民は王を崇め、王のために生きる義務がある。王の子に不敬を働いて、ただで済むとは思わないほうがいい」
詰んだ。
ある程度予想はしてたけど、よりによってなんで『野獣』に権力がいくかな。
いや、まだ『野獣』と決まったわけじゃないけど、でもこの感じ、たぶんそうでしょ。
「そん……な……」
女の子は茫然自失だ。
「安心しろ。俺は寛大だ。自分為すべきことを察して、正しくできれば、先程の無礼は見逃してやろう」
「えぅ……なす……べき?」
当然だが、女の子は何を要求されているか分からない。
王子はにやりと笑って、
「奉仕しろ。そのつまらぬ言葉を吐いた口で」
「え、奉……?」
「来い」
まだ意味が理解できないでいる女の子を呼び寄せて、跪かせ……、
……最低の行為が始まった。
は……は……は……。
これで3人目。
途中でやめることは期待薄だ。
このままでは、私の順番はいずれくる。
とはいえ、私の場合、ヤラれた時点で人生がゲームオーバーになるのだから、諦めるという選択肢はない。
最悪挑んで、王子殺しのお尋ね者になるほうがまだマシだ。
ただ、やる以上確実に仕留めなければならないわけで……。
私は息を殺し、奇襲に最適な、絶好のタイミングが来るのを待つことにした。
しかし、
ガキィィィィィxン!!!
背後で金属が砕け散る音がする。
さらに、ゴゴゴゴゴ……、と重い扉が動く音がして、
「そこまでだ!」
ああ、この時ほど彼が輝いて見えたことはない。
ユウシャ。
死罪確定になる行為を一瞬の躊躇もなく行える、正義の人ユウシャ。
「こんな無法は、王が許しても俺の正義が許さん。覚悟しろ」
ヒーロー登場です。




